東京・高円寺と吉祥寺に古着店「サファリ」を6店舗経営する村山佳人フォーリーフ社長と、古着系ユーチューバーのゆーみん&きうてぃ。世代も立場も異なる3人に、「古着」を取り巻く環境の変化や未来について聞いた。
WWD:コロナショックを受けて世の中がさまざまに変化した。その中にあって古着は今、逆境にある?それともピンチをチャンスに変えられている?
村山佳人フォーリーフ社長(以下、村山):“古着”とひと口に言っても、現在ではかなり広義な意味を持つと思う。菅田将暉さんやりゅうちぇるさんがけん引した古着スタイルは、ファストファッションの同質化に飽きた10~20代の若年層を引き付け、下北沢を中心に原宿や三軒茶屋などでバブルともいえる状態を生み出した。やはり若者は手軽に、つまり安価に個性を主張したいのだと思う。下北沢では、すでにコロナ以前の売り上げをクリアしていると聞く。僕ら40代が彼らくらいだった時の、つまりファストファッション前夜の“安い服といえば古着しかなかった”時の感覚に戻っているのかもしれない。一方で、ビンテージを頂点とするアメリカ古着は“オジサン化”してしまっている。もちろん、そこにゆるぎない信念を持つ層は一定数いて、日本人が少しずつ研究・開発してグローバルスタンダード化した体系を引き続き礼賛する動きもある。要するに二極化しており、後者にとってはここが正念場だとも思っている。だからサファリはランチェスター経営を目指している。とにかく質にこだわり、一番店でありたい。
WWD:20代のゆーみん&きうてぃの意見は?
きうてぃ:僕の入り口がまさに、菅田将暉さんやりゅうちぇるさん的“なんちゃって古着”だった。それから現行品(ブランド物)を通って、現在は“オーセンティック古着”が楽しい。それをユーチューブを通して視聴者に伝えている。好きだから市場として活性化してほしいし、おこがましいがその啓蒙活動をしているつもりだ。
WWD:視聴者は同世代が多い?
ゆーみん:25~35歳が25%ほどで中心だが、10代もいるし50代もいる。われわれ20代にとってなんちゃって古着も流行であり、SNS等に影響されてその波に乗った人は多い。ただ若年層のサイクルは早く、火の付いたものが廃れるのもあっという間。しかし上っ面を流れていくだけはつまらないし、皆トレンドを追いかけることに疲れていると感じる。だから、ユーチューブでオーセンティック古着の魅力を伝える活動を始めた。オーセンティック古着にはメンズ服の基礎が詰まっているので。
WWD:ユーチューブの視聴者からリクエストが届くことも多い?
きうてぃ:僕らのもとに届くのはミリタリーを求める声。「ナイジェル・ケーボン(NIGEL CABOURN)」や「コモリ(COMOLI)」の影響もあると思うが、決定的なのはなんちゃって古着にはミリタリーがない(少ない)ということかと。
WWD:彼らのような若者の存在は、サファリにとっても応援団なのでは?
村山:その通りで、アメリカンビンテージをモチーフにしたメンズファッション誌「フリーアンドイージー(FREE & EASY)」(イースト・コミュニケーションズ)が休刊した時は、“さぁ、これからどう市場を維持してこう?”と悩んだ。ゆーみん&きうてぃの専門はヨーロッパ古着だが、きうてぃの働く「アンコール」は高円寺におけるUK古着の先駆的ショップで、正直、最初は“高円寺で英国物は無理なのでは?”と思ったが今や行列店に成長している。これからはアメリカではなく、英国をはじめとするヨーロッパなのだろうと感じた。
WWD:ヨーロッパ物の追い風は感じる?
ゆーみん:僕らのチャンネルが跳ねたきっかけはフランス軍のカーゴパンツ“M-47”の解説動画だったのだが、これが今やバブル状態で価格も高騰。4万~5万円が中心で、サイズがよければ7万円で売買されている。
村山:僕ら世代の感覚では8000円なので、ものすごい値上がり率だ!
ゆーみん:ジャンルではなく、アイテム単位で火が付くのが若年層の特徴だと思う。オーセンティック古着の価値が認められることはうれしいが、それは点でしかないから危険だ。一方で、単純に“知らない”ことの裏返しだとも思う。だから僕らがもっともっとがんばらなくては。
きうてぃ:チャンネルを運営していて、視聴者の古着感が変わってきていると感じる。皆がミーハーでいてくれたから盛り上がったことは事実だが、最近は“もっと深い情報を知りたい”というコメントも届くようになり、内心“やった!”と思っている。
WWD:かたや古着の体系化が進み、ビンテージが投資対象となっている一面もある。
村山:残念ながら、指摘の通りだ。「リーバイス(LEVI'S)」「ロレックス(ROLEX)」「ゴローズ(GORO'S)」がビンテージ市場における人気トップ3で、古着店としてはやはり好きな人に買ってほしいが、そうも言っていられない状況になっている。もちろん、それもビジネスなのだが……。
WWD:自粛期間中、総じてアパレルECは伸長した。古着は?
村山:サファリでも4月にEC制作サービスのベイス(BASE)を導入した。まさに救世主的活躍で、それまでEC化率はほぼゼロだったが、6~7月の売り上げの6~7割を占めるまでに急成長した。
きうてぃ:僕の働いている「ミリタリア」や「アンコール」でもベイスを始めた。緊急事態宣言を受けて実店舗を約2カ月閉めたが、その間の売り上げを維持することができた。
ゆーみん:僕が運営する古着EC「フロムアンティーク」も、19年の売り上げがまだ小さかったこともあるが、3~6月は前年同期比をクリアできた。当然、ユーチューブの影響が大きい。
村山:古着というジャンルは案外、コロナのダメージを受けていないのだと思う。少なくとも古着店が閉店したという話を現時点で聞いていない。
WWD:それはベイスやユーチューブなどデジタルツールで、実店舗休業中も顧客とつながり続けられたことが一因?
きうてぃ:そうだと思う。それに、これは古着ファンとして意見だが、ひいきのショップが大変な時に応援したいという気持ちもある。続けてほしいから、それが消費行動につながったのでは?
WWD:サファリは今後もデジタル化を進める?
村山:そう考えている。それこそユーチューブを始めようかと(笑)。
ゆーみん&きうてぃ:ぜひ!
村山:古着の持ち込み客はもちろん新客を増やしたくて、そのためには認知拡大が必要。だからこそのユーチューブだ。
「WWDJAPAN.com」では近日、3人の“今、気になるアイテム”や“プロが教える値上がり必至のアイテム”について紹介する動画もアップ予定なので、そちらも楽しみにしてほしい。