伊藤忠商事はリサイクルポリエステル素材を軸とした「レニュー」プロジェクトを通して、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指す。核となるリサイクルポリエステル素材「レニュー」の原料は中国の協力工場で回収した端切れや残たんに加えて使用済衣服で、年間約3万トンの衣料品生地を回収する。それらを化学的に分解することで元の原料にまで戻し、機能を落とすことなく新しい繊維に再生するケミカルリサイクル技術で、バージンポリエステル同様の安定した染色性と品質を備える。下田祥朗繊維カンパニーファッションアパレル第三部繊維原料課長に話を聞いた。
WWD:「レニュー」を立ち上げたきっかけは?
下田祥朗繊維カンパニーファッションアパレル第三部繊維原料課長(以下、下田課長):私が所属する繊維原料課では2008年頃からコットン生産者のオーガニック農法への移行をサポートするプレオーガニックコットンの販売を開始し、常に環境に重点を置いたビジネスを行ってきた。さらに海外を含めた繊維業界の大量廃棄と環境の問題にわれわれとして何か貢献できないかと考え、19年度に循環型経済の実現を目指す「レニュー」プロジェクトを立ち上げた。
WWD:サステナビリティにはさまざまなアプローチがあるが、循環型に注目した理由は?
下田課長:これまでのペットボトルを原料としたマテリアルリサイクルでは、一度しかリサイクルができないためペットボトルのゴミを繊維のゴミに変えているだけだった。それではサステナブルとは呼べないだろう。繊維で作ったものを繊維にリサイクルして循環させることこそが、繊維業界の責任だと考えたからだ。
WWD:「レニュー」素材の優位性は?
下田課長:バージンポリエステルと同様の機能性と品質を持つことが最大の強みだ。お客さまは繊維から繊維のリサイクルというストーリーの部分に共感していただいているようだ。
WWD:現在はどのようなブランドと取り組んでいる?
下田課長:最近では「H&M」「GU」、デサントの「リ:デサント(RE:DESCENTE)」、アダストリアが手掛ける「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」の一部の商品で採用してもらっている。国内外ともに反応がよく、次の春夏に向けて商品展開を拡大していく。
WWD:トレーサビリティーはどのように担保している?
下田課長:われわれは環境に配慮した繊維素材の普及を進める国際NGOのテキスタイルエクスチェンジ(TEXTILE EXCHANGE)が発行する環境認証GRS(GLOBAL RECYCLE STANDARD)を取得している。これは、毎年の監査でわれわれの部署だけでなく、工場、糸の売り先も同じ基準をクリアすることで、トレーサビリティーのある生産体制を認証する仕組みになっている。
WWD:循環型経済実現に向けた技術で注目しているものは?
下田課長:特に最近増えているのが。イタリアのアクアフィル(AQUAFIL)社が手掛けているようなリサイクルナイロンだ。そのほか、レンチング社のリサイクルレーヨンにも注目している。世界的に繊維業界における温室効果ガス削減への取り組みは加速していくため、これからさらにリサイクル素材は増えるだろう。ケミカルリサイクルはさまざまな技術開発が現在ラボレベルで行われている。それらをどのように商業化していくかが、この5年での課題となるだろう。われわれもそこをサポートしていきたい。
WWD:循環型経済を目指す上での課題は?
下田課長:企業ごとの開発に加えて、消費者の文化レベルで衣料品の回収を定着させる必要がある。以前イタリアに住んでいた時には家の近所に衣料回収ボックスが常設してあり、生活に溶け込んでいた。モノを捨てて焼却するのが当たり前になっている日本では、新しい制度や仕組み作りから取り組むべきだろう。
WWD:「ファッション協定(The Fashion Pact)」のようなグローバルな枠組みに参加する予定はあるか?
下田課長:まずはテキスタイルエクスチェンジの会員として、カンファレンスに参加し意見交換している。ほかにも、エレンマッカーサー財団や環境NPOのキャノピー(Canopy)ともコミュニケーションが取れている。同時に当社が繊維業界の旗振り役となり、日本での枠組み作りにも取り組んでいきたい。9月にはクラボウと業務資本提携を結び、環境を軸にしたコンソーシアム作り目指すことを発表した。ここから消費者も巻き込んだ循環型社会を目指していく。サステナビリティは、業界全体が手を取り合って取り組むべき課題だ。「レニュー」プロジェクトは横のつながりを作るための一つのツールとしても機能するだろう。これまでは「原料といえば伊藤忠」とうたってきたが、今後は「環境素材といえば伊藤忠」というステータスを世界で作っていきたい。
WWD:「レニュー」プロジェクトの今後の目標は?
下田課長:消費者が欲しいと思って買った商品が、実は「レニュー」素材を使っていた、というような世界の実現を目指す。しかし、まだ完全にクローズドループは実現できていない。回収して繊維に戻す工程をわれわれとしてもさらに注力していきたい。究極の目標は、世界各地でこのプロジェクトを地産地消できるまでに拡大していくことだ。