※この記事は2020年10月2日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
レナウンの売却価格 たった11億円の衝撃
テレビのバラエティ番組で美術品などの鑑定士が一般家庭を訪問して、その家の絵画や陶器の価格を言い渡す場面をたまに見かけます。先祖代々のお宝として継承されていた掛け軸が二束三文だったり、逆にぞんざいに扱われてきた壺(つぼ)に高値がついたり、見ているこちらまで一喜一憂してしまう。バラエティ番組なので、想定よりもケタ違いの安値がつけられても笑い話に落ち着きます。
でも、企業ビジネスの場での査定は時に非情です。
経営破綻したレナウンの債権者集会が9月9日に行われました。レナウンが保有する主要ブランドは大阪の小泉グループに切り売りされたわけですが、その売却価格が発表になったのです。「アクアスキュータム」「ダーバン(「スタジオバイダーバン」を含む)」が10億円、「シンプルライフ」「エレメントオブシンプルライフ」が1億円。合わせて11億円でした。300〜400店舗を継承するにもかかわらず、です。
ピーク時の1991年には売上高が2438億円に達し、グループ会社(当時)のダーバン、レナウンルック、レリアンなどを加えれば3000億円を優に超え、日本のファッション業界のリーディングカンパニーとして君臨していた企業の価値が、倒産後とはいえ、たったの11億円。
紳士服の「ダーバン」は百貨店ではビジネススーツの代表的なブランドだったはずだし、「アクアスキュータム」のトレンチコートは「バーバリー」と並ぶ逸品とされてきました。歴史や伝統などの無形のブランド価値よりも、現在の市場で実績や将来性で容赦なく査定した金額なのでしょう。かつて傘マークで一世を風靡した「アーノルド・パーマー」の後継である「アーノルド・パーマー・タイムレス」や、婦人服の「エンスウィート」などは値段さえつかず、廃止されることになりそうです。
往年を知る業界人にとって11億円という金額はショッキングでしょう。さらにブランドに誇りを持って働いてきたレナウンの従業員の気持ちを考えると言葉もありません。
ブランド価値とは何か。維持して、高めるためには何が必要なのか。とても考えさせられるニュースでした。
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