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ロート製薬が化粧品の廃棄問題に取り組む理由とは 「汗水流して作った製品が廃棄されることに心が痛んだ」

 ロート製薬はこのほど、化粧品・日用品の廃棄ロスや廃棄物を減らす取り組みの一環として、2つのプロジェクトを始動した。1つはロハコと協業して、従来は廃棄処分対象となっていた製品で品質に問題ないものをアウトレット売り場で再販売することを7月に始めた。もう1つは、マツモトキヨシと共同で始めた「地球も肌も潤うリサイクルプログラム」で、全国のマツキヨ ラボでスキンケア製品(他社製品も含む)の空き容器の回収を行うものだ。

 化粧品は使用期限が設定されているものもあり、毎年大量の製品が廃棄処分されている。そのことから、同社は化粧品業界ではほとんど行われていないアウトレットを活用を決めた。また、化粧品業界のプラスチック消費量も問題になる中で自社製品の空き容器の回収をするブランドは増えているが、メーカーが他社製品も回収対象にするのはめずらしい。以前からさまざまなサステナビリティ施策を行ってきたが、同社は日本をけん引する製薬メーカーとして、まだ課題が多く残る化粧品の廃棄ロスの減少を目指す。そこで自身も数多くの商品開発に携わり現場を見てきた角田康之マーケティング&コミュニケーション部部長に、プロジェクト始動のきっかけや思いを聞いた。

WWD:廃棄ロスは化粧品業界でも大きな問題になっている。今回の取り組みを始めるきっかけは?

角田康之ロート製薬マーケティング&コミュニケーション部部長(以下、角田):まず、メーカーの役割が変わったことが大きい。作る側の責任はより良い製品を作って、買って頂いたらそれで終わり、ではなくなっている。また、ビューティ・日用品業界においても、大量生産・大量消費を前提としたビジネスモデルの時代ではなくなっている。環境や人間以外の生命にも配慮した容器・成分などにフォーカスした、よりサステナブルな製品設計が必要だ。今後は、お客さまが製品を手に取っていただくまでの間、使っていただく最中、そして使い終えたあとの製品がどのような形で環境に戻るか、製品のライフサイクル全てにおいて作る側に責任があると考える。廃棄を減らす、サーキュラーエコノミー型ビジネスを目指さなければ、と考えていた。

さらに背景を話すと、われわれはシーズンに特化した製品やブランドを多く手掛けている。例えば1980年代後半に誕生した「アルガード」という花粉症対策のトップブランドを抱えているが、製品は花粉の飛散期は大きな売り上げを作っている。しかし花粉シーズンが過ぎると、相当量が小売店から返品されることもあった。日焼け止めブランド「スキンアクア(SKIN AQUA)」もカテゴリーで大きなシェアを持っているが、1990年代後半から日焼け止め市場も拡大傾向となり、花粉カテゴリー同様にピーク時にに向けて十分な商品供給を行なったことでシーズン終了とともに返品が増える傾向にあった。日焼け止め以外にも、制汗剤、リップ、皮膚治療薬など、所有する人気ブランドの製品の多くがいわゆる季節商材であり、季節が終わるとその多くは返品となっていた。実際に製品開発にも携わっていたが、工場に製品が大量に返品され、ゆくゆくは廃棄処分されることを想像すると、汗水流して製品を作っている側としては心が痛む思いだった。

小売店側も同様で、多くは季節の変わり目に合わせて店内の品ぞろえを大きく変更し、シーズン商品は棚替えのタイミングで返品が増える。これらシーズン商品は短期間で集中的に販売するため、大量に陳列してお客様にアピールする必要があり、緻密に計画しても売れ残りはどうしても発生してしまう。取り扱い店舗数が多い、生活必需品の人気ブランドほど、返品数絶対値も多くなる傾向にあるだろう。売らんがためのビジネスによって大量に作り、返品も多く生み出す……。じきにこの現象は、社員の間でも課題意識が高まっていた。

WWD:品切れを起こさないためにも少し多めに生産することは理解できるが、大量返品を防ぐために需要を予測し、それだけの分を作ることはやはり難しいのか?

角田:季節商材は天候が大きく影響するので、どうしても生産時点で正確に予測を立てることが難しい。例えばどんなに「今年は夏が長い、猛暑が続く」と予報されていても、実際は曇りの日が多かったりすると、日焼け止めの売り上げは左右される。返品抑制のための試行錯誤は長年繰り返してきており、メーカー1社だけで動いても成果が出ないと考え、お客さまの動向をいち早くキャッチできる小売りとの議論を重ねてさまざまな対策を打ってきた。その一例が、全国有数の小売りから販売POSデータを購入し、適正在庫・適正発注量コントロールによってリニューアルや季節品・棚替えに伴う返品を減らす対策。小さな一歩でも、新しい取り組みを続けてきたと思う。そんな試行錯誤を繰り返している中で、アスクルのロハコから新しい返品廃棄の削減取組のお話をいただき、またマツモトキヨシとは業界での環境問題に対する課題認識をお互いに話し合う中で、取り組みの必要性を強く感じ、協業することになった。

WWD:アウトレットで再販する製品の基準は?

角田:基本的に未開封かつ品質的に長期間保存しても変質しにくいアイテム。一般製品と同様に、製薬会社としての品質管理基準にかなった製品だけを販売することにしている。基準は社内で議論を重ね、100%廃棄することにしていた店頭戻り品と、廃棄率がきわめて高かった旧商品の不動在庫の中から選んでいる。ロット、使用期限の管理の徹底などを盛り込んだ「選定基準」をそれぞれの商品ごとに細かく定めている。

WWD:自社の製品の空き容器回収をしている企業はほかにもある。他社製品も回収対象にするのはコストや手間もかかると思うが、あえてそうする理由は?

角田:基礎化粧品カテゴリーでは、「肌ラボ」はブランド全体で販売個数がナンバーワンで、ゆえにプラスチックの排出量も多い。発売時から詰替えパウチを準備するなど製品単位では無駄を省くことは常に考えてきたが、カテゴリー全体で環境への取組を加速化させていきたいと考えた。また、正直に言えばリサイクルするにはボリュームが必要。ペットボトルなど生産量・消費量が多大なものは大量にリサイクルの資材が出るため再利用できているが、われわれの場合自社製品だけだと足りないため、他社製品も受け付けることにした。リサイクルした製品は、今後植木鉢にして再生させ、地球にも社会にもやさしく潤いを与えられるようにしていきたい。

WWD:ファッションは某ラグジュアリーブランドが洋服を廃棄処分したことで炎上したり、一部のファストファッションも問題になっていたりする。一方で化粧品の廃棄ロスはそこまで話題になっていないように感じる。

角田:化粧品は基本的には3年以上の使用期限を担保している。1年で販売しきれなくても、もう1シーズン販売することが可能。シーズンごとに製品を入れ替えるファッションと違って化粧品、特に通年売れるような定番製品は長く販売できる。ファッションや食品に比べるとサイクルが長いことから、店頭まで並ばずに廃棄される商品の量は他の業界と比べても少ないかもしれず、棄物量総量の規模は違うかもしれない。でも、どんなに数量が少なくても無駄が発生し環境に負荷をかけているのは事実。またシーズン終盤によるディスカウントやアウトレットも、まだ常識とまではなっていない。依然、店頭からの返品が生まれてしまう状況にはあるので、これは課題だと考えている。

WWD:今後、どのようにプロジェクトを拡大させていきたいか?

角田:ロハコとの取組はすべての返品商品が再販売できているわけではないので、品質確認体制や流通協力体制を整えて出来る限り無駄をなくすべく、取扱商品を増やしていきたい。またマツモトキヨシとの取り組みについては結果をお互いに確認しながらどういった環境取り組みが出来るのか?議論を重ねていきながらお互いの課題認識を合わせてさらなるアクションにつなげて行ければと考えている。作る側の責任として、地球に優しい製品設計に加え、廃棄ロスを削減することは、今後も取り組むべき重要な課題。化粧品も、大量生産・大量消費をしてきた時代もあったが、これからは、小売店様とも協力しながら問題提議や取り組みを続けていきたい。

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