弊紙11月9日号では、コロナ禍以降のニューノーマルで求められる企業のあり方として、社会の「役に立つ」こと、つまりは他を利することを“大戦略”として掲げる「無印良品」(良品計画)を特集した。取材の中で、同社が新潟県上越市の直江津店で行っているバスを使った中山間部での移動販売に1日密着したが、これがなかなか目からウロコが落ちる経験だった。1日密着の詳細については同号に掲載したのでそちらを参照してほしい。端的に振り返ると、「小売業の未来は明るい」ということを強く感じた取材だった。(この記事はWWDジャパン2020年11月23日号からの抜粋です)
良品計画の金井政明会長は「MUJIが生まれる『思考』と『言葉』」(KADOKAWA刊)などの著書の中で、「小売業は人のくらしに直接コミットすることができる。これは製造業など他の産業では難しい」といった内容のことを語っている。それに対して私は、これまで「そうした考え方は小売業を手掛ける側の理想論というか、こうありたいという希望にすぎないのではないか?」と思っていた部分がある。しかし、直江津店の中山間部での移動販売に集まる高齢者を見て、従来の考えを改めた。買い物難民の高齢者はもちろんそこに生活用品を買いにきているわけだが、それ以上に、コロナ禍もあってなかなか会えなくなっている旧友や知人との交流を楽しんでいた。モノの売り買いの場だけでなく、地域コミュニティーの絆を強化する場、ひいては(大げさに聞こえるかもしれないが)人の生きがいにも小売業はなり得るのだ。
良品計画だけでなく、「ユニクロ(UNIQLO)」を運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も、「われわれには国内だけで約800店がある。それは社会のプラットフォームだ」といったことをよく口にする。例えば、「ユニクロ」店頭では不要になった同ブランド商品の回収を行っており、“ウルトラライトダウン”に関しては回収品のダウンを使用した「服から服へ」のリサイクル商品第1弾も今秋発売した。800店でこうした取り組みを行うことで、循環型社会の推進に貢献でき、小売業の立場から社会をより良いものへと変えていくことができる。「社会のプラットフォーム」という言葉にはそういう意味が込められているのだと思う。
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