ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載も第15回。“You’d Better Be Handsome”では、トレンドに敏感なレイチェル(Rachel)も加って、ニューヨークのトレンドや新常識について毎回トーク。今回のテーマは、バイデン勝利で終わった大統領選挙から生まれた新世代のアイコン、カマラ・ハリス、そしてトランプのテイラースーツなどなど。
1週間続いた冷たい雨がやみ、初冬にしては暖かい外の陽気に久しぶりに外でランチをせずにはいられなかった今回は、オフィスからも近くトライベッカの住人から長く愛されている「ペトラーカ カックチーネ ヴィノ(PETRARCA CUCINA E VINO)」をチョイス。シェフのレオナルド・プリト(Leonardo Pulito)と2人の息子、さらにボスと呼ばれる奥さんの家族経営ならではの温かな本場のイタリアン料理を楽しめる。
34 White St, New York, NY 10013
メイ:長い長い大統領選挙がようやく終わったはずなのに、なんだかスッキリしないよね。
スティービー: ドナルド・トランプ(Donald Trump)が負けを認めずゴルフばっかりやっているから?彼の護衛や家族も、彼が大統領じゃなくなると無職になるからか粘っている。こうなることは分かっていたとはいえ醜い。
メイ:実際のところ、引退したトランプを待っているのは、数多くの裁判だろうし。返済しないといけない借金や未払いの税金も山のように抱えていて、それを選挙の不正とかいって時間稼ぎしている。
レイチェル:それにしても今回よく分かったけど、アメリカが広いとはいえ、ウソばかりついて何にもしないトランプをヒーローのように祭り上げる人たちが多くいて、本当に衝撃だった。選挙の後も、トランプのニセ情報に踊らされて、選挙に不正があったと抗議したり。自分たちに有利だと票を数えろと言い、不利になりそうだと票を数えるなと言う。
スティービー:破茶滅茶過ぎてストレスになるから、もうニュースを見ないという人たちがニューヨークにも多くいるけど、それももっとも。いまセラピーに通う人たちは、ストレスの理由の一つに大統領選挙を必ず挙げるらしい。ただ今回の選挙を見ているなかで、ジャーナリズムの重要性というか、作り話をネタ元も確認せずにすぐ信じる人たちがたくさんいて驚かされた。
メイ:いちばんいい例がキューアノン(QAnon)。ジョー・バイデン(Joe Biden)をはじめ、前大統領のバラク・オバマ(Barak Obama)や大統領候補だったヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)といった民主党の数名、セレブリティーらが児童売春の組織を運営しているという陰謀論。
レイチェル:それだけでも不明な発想なのに、その救世主としてトランプが登場するんだから、みんなしっかり目を開いてほしいと思う。トランプが困っている子どもを助けに行くような大統領だったら、アメリカで新型コロナの死者が250万人に達するいま、ワクチンをニューヨーク州にはあげないとか、幼稚園児みたいな発言はしていないはず。
スティービー:ソーシャルメディアも、右寄りの人たちには、右寄りの情報ばかりが入っていくシステムだから、自分で情報源をきちんと選ばないと。当たり前のこととはいえ、一人一人が真実とウソを見分けていく力、メディアリテラシーを身につけていかないと。もちろんアメリカだけの話ではなくて。
初女性副大統領に興奮のファッション界
レイチェル: 先行きが見えない2020年だけど、残すところ1カ月。それにしても、勝利演説のときのカマラ・ハリス(Kamala Harris)新副大統領は白いシルキーなパンツスーツで、まさにハンサムウーマン。久々に希望が見えた!
メイ:あれは「キャロリーナ・ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」のパンツスーツだったらしい。18年からは、ウェス・ゴードン(Wes Gordon)がクリエイティブ・ディレクターを務めているけど。キャロリーナ自身はベネズエラ出身。カマラは初の女性副大統領として、女性が創業者のブランドを選んだのかしら。
スティービー: 堂々としているからか、彼女ってミシェル・オバマ(Michelle Obama)ほどではないとしても、身長も高いのかと思っていたら、身長が157cmと知って驚いた。
メイ:それは意外、少なくとも170cmくらいはありそうだったから。ミシェル・オバマも、メラニア・トランプ(Melania Trump)も、身長180cmと大きいからね。ちなみにトランプは190cmあるらしいけど…。
スティービー:ファーストファミリー(大統領一家)ではないけれど、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)も大きく見えて、実際は155cmくらいらしい。彼女の場合はあらゆる手を尽くして背が高く見えるようにバランスを研究しているだろうけど、カマラと共通しているのは堂々とした存在感。
メイ:ミシェル・オバマが、アメリカのデザイナーの服を積極的に着てプロモートしたことは記憶に新しい。就任式にはジェイソン・ウー(JASON WU)のドレスを着たことで、彼の知名度が一気にアップしたり。アメリカのデザイナーたちには、振り返ってみるといい時代だった。それを指揮していたのが、シカゴのセレクトショップ、イクラム(IKRAM)。
レイチェル:一方のメラニアは、モデル出身で何でも似合うルックスなのに、アンチトランプばかりが圧倒的に多いニューヨークのファッション業界からは歓迎されていなかった。
スティービー:そういう意味でも4年ぶりにファッション業界も可能性を感じている。ファーストレディーで大学教授のジル・バイデン(Jill Biden)は、勝利宣言のとき「オスカー デ ラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)」を着用していたね。カジュアルだけど華のあるデザインだった。
レイチェル:故オスカー自身はドミニカ共和国出身のデザイナー。16年から韓国出身のローラ・キム(Laura Kim)と、ドミニカ共和国出身のフェルナンド・ガルシア(Fernando Garcia)が共同クリエイティブ・ディレクター。キャロリーナ・ヘレラも、オスカーも、歴代のファーストレディーに愛されてきたブランド。
メイ:カマラみたいに初の女性副大統領として歴史を大きく変えている人には、今後は新しいデザイナーブランドにも挑戦してほしいな。
スティービー:こういう場合、アメリカのデザイナーが中心になるとは思うけど、最近元気のないニューヨークのファッション業界に誰がいる?
レイチェル:そうね、現在CFDA(アメリカファッション協議会)の会長も務めるトム・フォード(Tom Ford)とかはどうかな?似合いそうじゃない?シルキーなパンツスーツに、彼女のシグニチャーであるパールネックレスで。
メイ:あとは、今回もバイデン新大統領を一生懸命応援していたレディー・ガガ(Lady GaGa)のスタイリストもしていたブランドン・マックスウェル(Brandon Maxwell)、シックに「ザ・ロウ(THE ROW)」、または「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」とかも似合いそう?
スティービー:イメージとしては、「ダナ キャラン(DONNA KARAN)」とかもいいかと思うんだけど、最近はどこで売っているかよく分からないから残念。それか、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」、「ダナ キャラン」で経験を持つ、ネリー・パートウ(Nellie Partow)のアメリカンスポーツウェアブランド、「パートウ(PARTOW)」もカマラにとても似合いそう。
レイチェル:ネリー自身も小柄でかつ有色人種の女性デザイナー。カマラにぜひ着てほしい。それと個人的には、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」とかも似合いそうと思っている。ディレクションだけでなく、今では数少ない(?)服を作れるデザイナー兼ディレクターであるマークは、店頭で見る派手なものだけでなく、ジャケットなどの少し硬い服も再評価されてもよいころかと。
メイ:どちらにしても、ホワイトハウスに女性がいる方がファッション界的には話題があっていいよね。
スティービー:誰も話題にしないけど、トランプって実はブルックリンにあるカルト的テイラー、マーティン・グリーンフィールド(Martin Greenfield)に仕立ててもらっていたのは知ってた?
レイチェル:え?あのダブダブのシルエットのスーツ?マーティン・グリーンフィールドって、どちらかというと細身のシルエットかと思っていた。「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のスーツとかも仕立てていたような記憶が。オバマ前大統領のスーツとか。
スティービー:何着か仕立てただけだと思うけど。ほかにもトランプは「ブリオーニ(BRIONI)」を愛用しているらしいけど、全く気付かなかった。
メイ:前副大統領というか新大統領のバイデンは、すらっとスーツをかっこよく着こなしているけどね。どこのブランドかまでは分からないけど、体にフィットしているという印象。
政界のニューミューズ
レイチェル:大統領レベルではないけれど、AOCの頭文字で知られるニューヨーク出身の若手アレクサンドラ・オカシオ・コルテス(Alexandra Ocasio-Cortez)議員も、最近「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」誌の表誌を飾ったり、話題の女性政治家よね。
スティービー:19年の当選のときはウエイトレスをしながら選挙活動をしていたという!当時29歳。おしゃれにすごく敏感というわけではなさそうだけど、「ヴァニティ・フェア」誌ではいろんなスーツをクールに着こなしていたという印象。
レイチェル:フォトグラファーは、「ヴォーグ(VOGUE)」史上初めてカバーを撮影した黒人フォトグラファーのタイラー・ミッチェル(Tyler Mitchell)が担当。ワードローブも、クリストファー・ジョン・ロジャーズ(Christopher John Rogers)やウェールズ・ボナー(Wales Bonner)ら注目の若手から、キャロリーナ・ヘレラや「ロエベ(LOEWE)」など大御所からアップカミングなブランドまで、面白い企画だった。
メイ:今年はどんなセレブリティーよりも、政治家が良くも悪くも目立っていたから。AOCは彼女のスタイルというよりも、発言力で目立ってはいるんだけどね。
レイチェル:夏に「VOGUE.COM」の人気ビデオシリーズ、ビューティシークレット(Beauty Secrets)で、彼女自身の毎日のルーティンを披露していた。
スティービー:鏡に向かって自分で語りながら、すっぴんからメイクしていく人気シリーズだね。ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)、ミランダ・カー(Miranda Kerr)、ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)、リアーナ(Rihanna)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)、渡辺直美、水原希子までゴージャスなラインアップ。
メイ:政治家は見かけたことがないような。AOCいわく、毎日テレビに出たり、さらにニューヨークとワシントンDCを行ったり来たりの生活らしいけれど、コントゥアーもカーダシアン並みにしっかり入れ、ハイライトもきちんと入れ、熱い演説のようなトークをしながらも、レッドリップスティックで仕上げるテクニックは見ていて気持ち良かった。
レイチェル:周りの人々からどう思われるかではなく、自分を愛するという意味でメイクアップが彼女にとっては大切だという。ビューティ哲学の根本を語ってくれた気がする。ミレニアル世代として、メイクアップはユーチューブで学んだらしいけどね。
スティービー:彼女のファンが増えるのも分かるね。米「ヴォーグ」のアナ・ウィンター(Anna Wintour)編集長も彼女のことを褒めていたよね。スタイルではなく、彼女が話していることの本質にもっと目を向けるべきと。
メイ:AOCが仲良くしている若い女性議員が何人かいて、彼女たちの今後の活躍も期待したい。
メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす
スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住
レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課