コロナ禍を受けて欧米の有力百貨店やスペシャリティストアには元気がなく、それらの店での販売に力を入れてきた日本のデザイナーズブランドにとっても、難しい状況が続いています。そんな中にあって「海外からの引き合いが高まっている」というのが、奥出貴ノ洋(おくで・たかのひろ)さんが手掛けるバッグやスカーフのブランド「ラストフレーム(LASTFRAME)」。奥出さんは、ミニサイズのバッグが大ヒットした「ナナナナ(NANA-NANA)」のデザインも手掛けており、名前は出せませんがそれ以外にも関わってきたブランドをヒットさせています。そんなふうに時代を読むのに長けた奥出さんですが、「今はサステナブルじゃないということがファッションではない時代」と語ります。
「ラストフレーム」は、2018年秋に奥出さんが個人で立ち上げたブランド。現在、国内ではGR8やリステア(RESTIR)、バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)などで販売しており、21年プレ・スプリングや21年春夏からは、英のEC大手マッチズファッション ドットコム(MATCHESFASHION.COM)、中国・北京の百貨店SKP、英の百貨店ブラウンズ(BROWNS)などでの販売も決まりました。「(コロナ禍もあってバイヤーは保守的になっていると思ったが)だからこそ、比較的買いやすい価格で元気の出るようなカラフルな色合いの商品が支持されているんだと思う」と奥出さん。
同ブランドがコンセプトとして掲げているのは、「年々職人が減少している日本の伝統技術を未来につなげる」こと。奥出さんがこれまで関わってきたブランドは、「ナナナナ」しかりカジュアルやストリートといったジャンルなので、このコンセプトはやや意外に感じます。「(これまで関わってきたブランドで海外のバイヤーなどと話す中で)『日本人なんだから、もっと日本のいいものを世界に発信すればいいのに』と言われる機会があった。そう言われても何をやればいいのか分からなかったが、偶然地元の石川県のシルクの機屋と知り合う機会があり、そこから日本の素材産地に足を運び、伝統技術について調べるようになった」そう。
その結果生まれた第1弾商品がシルクスカーフです。石川県で作られる紋織りという技法のシルク織物にプリントを重ねていて、手触りや仕上がりは非常に繊細。でも、プリントではバンダナ風のペイズリーとチェッカーフラッグを組み合わせたりしていて、毒っ気を感じるところがポイント。価格は90センチ×90センチの商品が2万円前後です。奈良県のニッターとの出合いから生まれたというスーパーのビニル袋風ニットバッグ(2万2500円)もアイコン商品。日本に数台しかない特殊な編み機で編んだ生地を使っているといいます。
廃盤にはせず、年間を通して販売
毎シーズン、少しずつ新商品を増やしていきますが、基本的にどの商品も廃盤にはせず、通年で提案し続けていくそう。そんな考えを象徴するように、21年春夏の展示会では“SSAW”という文字を無数にプリントしたスカーフも企画していました。通常は「2021SS」で2021年春夏シーズンを、「2021AW」で21年秋冬シーズンを表しますが、年を示す数字は組み合わせず、SSAWと4文字全て並べることで、いつのシーズンかを限定しないようにしているんだとか。そういった話をしていた時に奥出さんから出てきた言葉が、冒頭で紹介した「今はサステナブルじゃないということがファッションではない時代」というものでした。半年ごとに新しいトレンドを打ち出して、買い替え(つまり廃棄)を促してきた今までのファッション業界のシステム自体が、もはやファッショナブルではなくなっているという皮肉を表していますね。
サステナビリティって、近年急速にファッション業界内で意識されるようになりました。でも正直なところ、完全な循環型商品の開発などが自社内でできるのはグローバルSPAやスポーツブランド、ラグジュアリーブランドなどの大資本に限られます。そういった中で、中小のデザイナーズブランドがサステナビリティの問題とどう向き合うべきかの好例の一つが、「ラストフレーム」のように“シーズンを超えて、長く使えて愛される商品を作る”といったことかもしれません。
さて、これまでいくつもヒットを生んできた奥出さんに、「なぜみんなが欲しがるモノが分かるのか」なんてことも聞いてみました。その答えは、「自分がゼロからデザインしている感覚ではなく、世の中で広がっているものとか、自分の中で気になるもの、好きなものがホワッとある。それらが重なって形になったときに『あ、これだな』と形になる。ヒットするアイテムの時は企画の段階からそれが分かる」というものでした。商品企画に携わる人なら多かれ少なかれみんな同じような思考をしていると思いますが、そう簡単にはいかないもの。それがサラリとできちゃうというのが嗅覚というものなんですね。奥出さんのようにストリートやカジュアルといったリアルなマーケットを主戦場にしてきた人が、技術を次代につなげる、長く愛されるサステナブルなモノ作りを志向しているということが、まさに今の時代だなと感じます。