コロナ第3波の拡大で再び我慢の時を強いられていますが、こうした状況になる前の11月8日に、群馬・桐生市を訪れました。目当ては同地で約40年にわたって営業しているセレクトショップ「エスティーカンパニー(ST COMPANY)」。ファッション業界関係者の間では、「群馬に名店あり」として昔から非常によく知られる存在です。同店がファッション文化を育んできた桐生は今、IターンやUターンしてファッションやライフスタイル関連のお店を開く若者が多く、訪れる度に面白い街になっていきます。コロナ禍もあって東京一極集中の価値観が揺らぐ中、桐生のような個性ある地方都市は今後ますます注目を集めそうです。
私が「エスティ―カンパニー」に出合ったのは今から7年ほど前。「『ハイク(HYKE)』の前身である『グリーン(GREEN)』が休止する前、都内の有力百貨店よりも『グリーン』を売っていた店が群馬にある」「今や海外でもよく知られるようになった『ファセッタズム(FACETASM)』を、まだ誰も知らない初期の初期から買い付けていた店がある」。そんな数々の伝説を確かめに、初めて桐生を訪れたのでした。
出迎えてくださったのは環敏夫社長。前述の「グリーン」「ファセッタズム」をはじめ、才能あるデザイナーを見抜く目利き力が抜群で、面倒見がよくてとっても温かい。そんな環社長を“ファッション業界のお父さん”的に慕うデザイナーや業界関係者は非常に多く、私もその一人です。環社長だけでなく、スタッフもみんな家族のようなアットホームな雰囲気。顧客一人一人のワードローブを熟知していて、そのきめ細かな接客力やホスピタリティーは「スゴイ」の一言です。
リニューアルでさらに飛躍、若い世代の新客が増加
「エスティーカンパニー」は2018年に、桐生駅そばの旧店舗から古い商店街沿いの現在の場所に移転リニューアルしました。以前から有力店でしたが、移転リニューアルでさらに飛躍した印象です。和菓子の工場だったという2棟の建物をリノベーションしたカフェ併設の新店舗を目指して、県外から訪れる客も多数。一般的に、地方のセレクトショップは「長年の顧客との関係性は非常に深いが、新客の呼び込みが課題」といったケースが多いですが、同店は移転以降、ファッション好きの若い世代やカフェ目当ての近隣の客など、新客を多く取り込んでいます。東京や埼玉、新潟などから訪れる人も少なくなく、わざわざ出掛けていきたい“デスティネーションストア(そのためだけに行きたい店)”になっています。
コロナ禍を受けて、都心のセレクトショップからは苦しい声が聞こえてきます。しかし、「(秋冬物の立ち上がり月として重要な)7月も非常に好調だったし、2021年春夏物も保守的にならずにしっかり買い付けた」と環社長。顧客をしっかりつかんでいて他に代替がきかない個性ある店は、コロナ禍という危機の中でもやはり強いですね。そんな「エスティーカンパニー」をリスペクトして、近年では同店への協業やポップアップストアの依頼も増えているようです。例えば昨秋、新生・渋谷パルコがオープンした際にも、パルコに請われてポップアップストアを行っていました。
デザイナー、スタッフ、客の垣根を超えて親しくなれる街
「エスティーカンパニー」では以前から、デザイナーが接客する受注会や地元の飲食店などと組んだマルシェなどを定期的に行っています。こうした企画力もファンを集める秘けつ。私もイベントに合わせて年1~2回訪れているのですが、今回は同店からすぐ近くのアウトドアコンセプトショップ「パーヴェイヤーズ(PURVEYORS)」、アトリエ兼ボードゲームカフェ「ふふふ」の3店合同で、植栽を売るイベントを行っていました(今回の企画の発案者は「パーヴェイヤーズ」だったそう)。「パーヴェイヤーズ」と「ふふふ」については次回以降の記事でご紹介します。
私がお邪魔したのと同じ週末に、「エスティーカンパニー」と縁の深い「ファセッタズム」の落合宏理デザイナーも桐生を訪れていました。これまでも何度か桐生でご一緒しています。今回、落合さんご一家とは「ふふふ」でボードゲームもしちゃいました。そんなふうに有力デザイナーも交え、お客さん、お店のスタッフなどと垣根を超えて親しくなれる街、コミュニティーを感じられる街。それが桐生の魅力だと思います。東京みたいなメガシティだと、なかなか難しいことですよね。
■ST COMPANY KIRYU
住所:群馬県桐生市川岸町177-4
営業時間:11~20時
定休日:水曜