「バーチャル渋谷」はKDDI、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会を中心とする参画企業で組成する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が運営する渋谷区公認の配信プラットフォームだ。渋谷のスクランブル交差点一帯をバーチャル空間で再現。“第2の渋谷”として24時間世界中どこからでも無料でアクセス可能で、5月19日のオープニングイベントには延べ5万人が参加したという。そんな「バーチャル渋谷」が10月26日から6日間ハロウィーンフェスを開催した。
初日20時に予定されていたきゃりーぱみゅぱみゅのバーチャルミニライブはアクセス殺到で延期に。28日に開催された。イベントに参加するには30分前から開設される専用ページに入るが、そこで選べるアバターはカボチャかオバケ。交差点ステージ前に集まり、ペンライトを振ったり拍手をしたり飛び跳ねたりができる。アバターを後ろから眺める視点だとオバケ越しにライブを見ることになり、ある意味リアル。2曲を披露した。他にもネットフリックスオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」が特設スクリーンで上映されたり、アイドルグループBiSHのライブやVチューバーミライアカリのトークショー、和牛が司会を務めるお笑いライブなど、毎日さまざまなイベントが用意された。
最終日、ハロウィーン当日の夜はバーチャルライブ配信アプリ「リアリティ(REALTY)」でアバターを作成し、「クラスター(Cluster)」と連携させて参加。さぞかし盛り上がっているだろうと思ったが、意外とオバケで徘徊する人が多かった。
しかし、21時からのサージョン(SURGEON、バーミンガム)、エレン・エイリアン(Ellen Allien、ベルリン)、ケン・イシイ(Ken Ishii)、ダーシャ・ラッシュ(Dasha Rush、ベルリン)ら4組の世界的DJによるパフォーマンスは満員で会場に入れず。どうしても観たかったのでドミューンとユーチューブで視聴。バーミンガムにいるサージョンがプレイする動画をバックに、サージョンのアバターが渋谷のスクランブル交差点でオバケたちの前でプレイし、さらにスーパードミューンらしいAR技術も駆使されて、なんとも不思議な空間が広がっていた。
エンターテインメントはもちろんだが、ファッションの分野でも大きな可能性を秘めていそうな「バーチャル渋谷」の課題と今後について渋谷未来デザインの長田新子理事に聞いた。
WWD:「バーチャル渋谷」でハロウィーンフェスを開催した経緯は?
長田新子渋谷未来デザイン理事(以下、長田):渋谷のハロウィーンは例年多くの人で賑わうが、路上にゴミがたくさん落ちていたり、お酒を飲んで大騒ぎしたりと、街としては警備などの課題があった。特に今年はコロナ禍ということもあり、長谷部健渋谷区長も自粛を呼びかけていたこともあり、「ニューノーマルのハロウィーンができないか」というところから企画が立ち上がった。
WWD:6日間で40万人が参加したというが目標値には達したか?
長田:アクセスは目標値をはるかに上回った。初日のアクセス集中によるダウンは予想以上の集客になったことによるもので、きゃりーぱみゅぱみゅさんは海外からのファンのアクセスも非常に多かった。そこからチームで日々改善を重ね、どうやってバーチャル空間で多くの人を受け入れればいいのか、滞在時間をどう伸ばせるかを研究しました。あの1週間でいろんなことが見えてきて、まさしくいろんな文化の実験の場として、課題と可能性が実感できた。
一方でこのコロナ下で渋谷に人がたくさん集まらないように“ステイバーチャル”を掲げて取り組んだが、今年の渋谷のハロウィーンは仮装している人が例年に比べて少なかった。自粛を皆が受け入れてくれたことが最大の成果。ニューノーマルでのイベントのは、リアルとバーチャルの両面を持つことになると思うが、それを実現できたのではないか。31日にリアルな渋谷で大パニックが起こらなくて本当にうれしかった。
WWD:参加者からの反響は?
長田:アバターってある意味“自分”。例えばライブを普通に画面で見るよりも、その場に行ってインタラクティブに楽しめたという声が多かった。渋谷に行かなくても楽しい取り組みに参加できるというポジティブな意見をもらった。車が走らない渋谷のスクランブル交差点でライブが楽しめるというのもバーチャルならではの体験だったと思う。
WWD:ライブ会場の参加人数がだいぶ少ないように見えたが?
長田:見えている数が少ないだけ。見える人数を増やすとデータが重くなってしまうという技術的なところで制限をかけた。実際のアクセスは1000人を超えたりしていた。見た目に盛り上がりに欠けるかもしれないが、例えば会場に1万人見えたとしたら、重なりすぎて見えづらくなってしまう。アバターの種類を限定したのも同じ理由で、データを重くしないため。しかし、もう少し人数が見えた方が盛り上がりやすいかもしれないと話し合っている。
WWD:来場者の属性は?
長田:既にバーチャル空間に親しんでいる人がほとんどだったが、今回のハロウィーンフェスは、バーチャル空間が初めてという一般の人がかなり参加していた。Eテレのコンテンツも用意したりしたので親子で楽しんだりもしていたようだ。イベントによって年齢層や男女比、国籍もバラバラだったと思う。ただ、意外と若い人よりも上の年齢の人が多かった印象だ。
WWD:仮装コンテストは盛り上がったか?
長田:ハッシュタグを付けて応募してくれたのは100人以上。優勝者にはミライアカリちゃんが賞を授与したが、そこに皆集まって「おめでとう!」とコメントしたりして盛り上がっているのが見ていて面白かった。ハロウィーンの仮装って変身願望が満たされるという部分もあると思うので、そういう意味でもバーチャルとの親和性があると思う
WWD:「シブヤ・ファミリーセール」への誘導も行なっていたが?
長田:「シブヤ・ファミリーセール」については宣伝効果はあった。実は今回が初めての物販のトライアルで、ラインアップもまだまだ。「バーチャル渋谷」内で全て完結するのにはまだまだ時間がかかる。しかし、ゆくゆくは経済活動ができるようにしていきたいと考えている。来たからには何か買って帰りたいとう人たちにも対応したい。
WWD:ファッションビジネスの可能性は?
長田:渋谷にもともとある店やブランド、渋谷発のファッションと一緒にファッションショーをしたり、ここでしかできないことを世界的に見せていきたい。もう1つはブランド品をアバターが身につけられるようにして、ファッションやコミュニケーションを楽しんだりでできるようにしたい。街の良さって歩いたり、人と出会うの他に、着飾って楽しむということもあると思う。「バーチャル渋谷」はエンタメ、ファッション、デジタル技術、商業施設などいろんな人が一緒に取り組める。さまざまな技術があるし、行動心理学やブランディングやマーケテイングといった多角的な視点が必要だ。アバターの行動を分析して、そこから何が生み出せるかは個人的にも非常に楽しみ。
WWD:中でも力を入れていこうと思う分野は?
長田:バーチャルだけで完結しない仕組みを作りたい。もともと街を回遊させながら渋谷の街を楽しんでもらいたいというのがもともとのコンセプトとしてあるので、リアルとバーチャルの掛け合わせで新しい価値を作ることだった。リアルとの連動性を模索したい。
もう1つは経済活動なり、街に還元できる仕組みを作りたい。ゴミ拾いなどの支援できる仕組みでもいい。渋谷ってもともと賑やかしの象徴になり、自粛の象徴になってしまったが、こうした街としての発信をし続けることも大事。実は海外メディアの取り上げがすごく多い。新しいバーチャルの都市として取り上げてもらえ、それがブランド価値になる。内閣府が世界に向けて発信してくれたので、そういうアイコニックな街としてどんどん進化させて発信していきたい。
WWD:課題は?
長田:デジタルの技術の発展と共にできることであって、皆さんが妄想するようなことは全部できないので、それをいかに早く実現していくか。5Gもまだごく一部でしか使えないし、多言語化もできていない。海外から来れないタイミングだからこそ、バーチャルの渋谷に行ってみようと思う人を受け入れる街としての土台を作らないと。「リアルでも行きたい」と思ってもらえるきっかけにしたい。皆さんにとって何が一番いいのかを優先順位をつけながらやっていく。
WWD:次の取り組みは?
長田:年末年始に向けてこの試みを受けてどうやるかを検討しているところ。季節に応じたことをどうやっていくかを考えているところだ。