アイウエアビジネスが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を軸に大きく変わろうとしている。アイウエア業界で立ち遅れていたデジタル化の動きを加速しているのはジンズと、「ゾフ(ZOFF)」を手掛けるインターメスティックだ。(この記事はWWDジャパン2020年11月30日号からの抜粋です)
田中仁ジンズホールディングスCEOは、先ごろオンラインによる決算会見で「新型コロナの影響で、『ジンズ(JINS)』の課題と新たなチャンスが明らかになった。実店舗に依存したビジネスモデルはぜい弱だ。今後は、DXがポイントになる」と語った通り、10月に「ジンズ」の公式アプリまたはLINEで商品選びから決済まで完了できる新サービス“クリック アンド ゴー”をスタート。11月6日、“コンフォートテクノロジー”をコンセプトとする別業態「ジェイ アイウエア ラボ」初の路面店を東京・中目黒にオープンし、デジタル&テクノロジーを取り入れた次世代型戦略を次々と打ち出した。
また、「ゾフ」のリブランディングを進めるインターメスティックは、研究・開発機関「ゾフ アイパフォーマンス スタジオ」(以下、ZEPS)を新設し、テック企業と業務提携しながら眼鏡開発、店舗作り、接客サービスをこれまでより一歩踏み込んだアプローチで根本的に見直している。創業20周年を迎える来年に向けて、来春をめどに第一弾プロジェクトをお披露目する計画だ。
“アイウエアはファッションアイテムの1つ”といわれながら、眼鏡店を訪れるハードルはいまだに高いイメージがあり、多くの商品の中から自分に似合う眼鏡選びは一苦労、服とコーディネートしたアイウエアの提案不足など消費者ニーズとの隔たりがある。両社はアイウエアビジネスが抱えるこれらの課題を克服するため、XR(VR/仮想現実やAR/拡張現実などの総称)技術を用いて接客サービスの充実やデジタルコマースとの連動を図るほか、将来的なスマートグラスの開発も視野に入れ、店作りと眼鏡の機能性の両面でアイウエアビジネスの新しい可能性に挑戦している。共通するビジョンは、社会に貢献し、日常生活を豊かにする未来のアイウエアライフの構築だ。
JINS ジンズ
実験店「ジェイ アイウエア ラボ」の挑戦
ジンズホールディングスの「ジェイ アイウエア ラボ」は、2018年にスタートしたハイエンド層向けアイウエアブランド「ジェイ オブ ジンズ」をリブランディングしたもので、最新技術を活用した快適な掛け心地の追求をコンセプトとする。これに伴い今年8月にオフィシャルオンラインストアを立ち上げたほか、FONTが運営するファッションブランド「ミノトール インスト(MINOTAUR INST)」の東京・渋谷のレイヤード ミヤシタパークの店舗でポップアップストアをオープンした。
「眼鏡作りの技とサービスを掛け合わせ、唯一無二の心地よさを追求します」
「ジェイ アイウエア ラボ」中目黒店も「ミノトール インスト」との共同出店で、アパレルとコーディネートしたアイウエア選びができることが1つの特徴だ。“ラボとミュージアムの融合”がテーマで、アイウエアとアパレルの商品が約半分ずつディスプレーされている。「ジェイ アイウエア ラボ」の旗艦店であり“次世代の試着体験の場”と位置付けた実験店舗とし、今後オンラインとのシームレスな購入手段の導入、ARやVRを活用した販売も計画している。同店では、アメリカのカーボン社が手掛ける3Dプリンタを使用して共同開発した高機能サングラス「ニューロン フォーディー」(2万8000~3万円)などを販売している。同店で得られた成果が、「ジンズ」の既存店にも生かされるかもしれない。
ZOFF ゾフ
研究・開発機関設立、テック企業と提携の目的は?
インターメスティックの研究・開発機関ZEPSは、人の行動や感情を検知・解析するヒューマンセンシング技術(行動認識技術)を軸に画像認識アルゴリズムを開発・提供する東京大学発のAIスタートアップ企業エーシーズと業務提携して、客の購買行動パターンを解析した店舗運営を考えたり、半導体レーザや応用製品の企画・設計開発・販売などを行うキューディーレーザと業務提携してスマートグラスの共同開発に着手するなど次世代の店舗と眼鏡の開発に本格的に乗り出した。
「AIやITを活用して、本当に必要とされる商品開発につなげる」
ZEPSの責任者である逆井浩之インターメスティック事業基盤本部本部長は、「視力矯正器具としての眼鏡の可能性を追求するだけでなく、人のパフォーマンス向上など幅広く役に立てる研究・開発をすることがZEPSの使命だ。大切なことは、社会に役立ち、お客さまの生活を快適にする眼鏡であること。そのためには、お客さまのことをもっと知る必要がある。店頭スタッフの人間力が重要なことに変わりないが、人それぞれのライフスタイルの中でどのデザインが似合うのか過去のデータからリコメンドできるシステムなど、安心、納得してお買い上げいただくため、ディープラーニングやIoTを活用して店舗運営や接客サービスに生かし、新しい価値観やアイデアを創出したい」と話した。
スマホを超える?
KDDIやフェイスブックもスマートグラスを開発
スマートグラス開発の動きは世界で広まっている。
KDDIは、中国のエンリアルと共同で開発したスマートグラス「エンリアルライト」を12月1日に発売する。軽量でコンパクトなデザインが特徴で、5Gスマートフォンに接続することで、5GとXR技術を組み合わせた映像体験ができる。スマートフォン接続型とすることで、通常のアイウエアのデザインに近く、持ち運びが便利な小型化を実現した。目の前の3m先に広がる100インチ規模の仮想スクリーンで、動画視聴やゲームなどを楽しめる。同社担当者は、「今後、新しいアプリケーションが開発されることによって機能性や利便性は拡大する。ビジネス、教育、決済などあらゆる用途に可能性があると思う。ポスト・スマホのデバイスとして期待できる」と話した。価格は6万9799円。
また、世界最大のアイウエア企業であるイタリアのエシロールルックスオティカとフェイスブックが、共同開発した「レイバン」のスマートグラスを来年発売する計画を明かにした。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、先ごろオンラインで行った会見の中で、「われわれの目標は、一日中着用できる通常サイズで見栄えのよいアイウエアを開発し、皆さんを取り巻く世界中の人々とさまざまなビジュアル、デジタルオブジェクト、情報を共有できるようにすることだ。(スマートグラスの機能を活用することで)携帯電話を持ち歩く必要もなくなるかもしれない」と自信を見せた。詳しい機能や価格、発売日は今後明らかにされる予定だ。