ファッション

“かわいい、値ごろ、サステナ”の三拍子 注目の欧州ブランド「ナヌーシュカ」

 北欧を中心としたヨーロッパのコンテンポラリーブランドに勢いがある。その筆頭がパリでコレクションを発表する「ナヌーシュカ(NANUSHKA)」「トム ウッド(TOM WOOD)」、コペンハーゲン・ファッション・ウイークに参加する「ホルツワイラー(HOLZWEILER)」「ガニー(GANNI)」「リクソ(RIXO)」などだ。これらのブランドの共通点は、独自性のあるデザインと、値ごろ感があるバランスのいい価格帯、そして、環境や社会問題への取り組みを行い、透明性が高い点。それぞれのブランド哲学を持ちながらも、SNSマーケティングを強化し、ポッドキャストや動画などの新たな取り組みに挑戦するなど企業努力が感じられる。

 「ナヌーシュカ」はハンガリー・ブダペスト出身のサンドラ・サンダー(Sandra Sandor)が手がける。“モダン ボヘミアン”をブランドコンセプトに掲げ、自然界から着想を得たデザインに機能性を加えたウエアを提案。ブランドは2005年にスタートしたが、約4年前からサステナビリティに注力し、使用する素材を再生繊維やオーガニックコットンなどに切り替えている。2018年からニューヨークでコレクションを発表し、19年からはパリを発表の場に移し、19-20年秋冬にはメンズをスタートした。

 「ナヌーシュカ」を買い付けるエストネーションの藤井かんなウィメンズディレクターは「サステナブルな姿勢とヘルシーで女性らしいスタイルがとても現代的で、価格とのバランスもいい。アイコンの滑らかな“ヴィーガンレザー”のアイテムや、3シーズン着用できる素材やカラー、デザインが多いのも魅力的。ブランド認知はまだまだだが、素材やカラーから入るお客さまも多いので、今後の伸長が期待できる」と魅力を語る。

 デザイナーのサンドラにサステナビリティへの取り組みや、コロナ禍での変化について話を聞いた。

サステナビリティは環境への配慮だけではなく、
社会的な責任であり、会社を継続するために必要不可欠

WWD:ブダペストでファッション事業を営む家庭に生まれ育ったバックグラウンドはブランドにどのような影響を与えているか?

サンドラ・サンダー(以下、サンドラ):母はハンガリーで子ども服ビジネスを始めた先駆者です。共産主義政権下の時代で女性が商売を営むには、機知に富み、明確な意思や強い決意を持ち合わせていなければならなかった中、母はビジネスを成功させ、私はその背中を見て育ちました。ロンドンでファッションを学ぶ決意を与えてくれたのも、両親の影響からでした。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)での卒業論文のテーマにバウハウスの「形態は機能に従う(Form Follows Function)」を選び、今もこのテーマが「ナヌーシュカ」の基本理念になっています。

WWD:サステナビリティの取り組みを開始した理由は?

サンドラ:私は自然が大好きで、常にデザインのインスピレーションを得てきましたが、ファッション産業の環境負荷をちゃんと知るようになったのは約5年前のこと。ここ数年で、生地メーカーからもサステナブルな素材の選択肢が出始めて、デザインや価格を妥協することなく、選べるようになったと感じています。サステナビリティへの取り組みは環境への配慮だけではなく、社会的な責任であり、会社を継続するために必要不可欠だと思います。

WWD:サステナビリティの取り組みはどのように推進している?

サンドラ:「ナヌーシュカ」ではクラフツマンシップ、実験、進歩主義という3つ柱のもと、人間と地球を尊重するもの商品作りを目指しています。ブランドの長期的な成長には、従業員個人レベルで知識を得ることも不可欠です。従業員がより良い選択ができるようトレーニングプログラムの導入を開始しました。まだ私たちの取り組みは始まったばかりですが、コミットすることでサステナブルブランドとしてシェアを広げていきたいと考えています。

WWD:素材選びで重視していることは?

サンドラ:社内のサステナビリティ担当者とともに美しさと品質に妥協しないモノ作りをするため、毎シーズンに話し合って素材をアップデートしています。ポリエステルは再生繊維を使ったリサイクルポリエステルに、コットンはオーガニックコットンに、木材をもとにしたトリアセテートやビスコースはFSC認証(森林管理における環境、社会、経済的影響を考慮した国際基準)を得たものに切り替えました。将来的には循環型経済(サーキュラーエコノミー)になるようなモノ作りに徹底していきます。

WWD:売れ筋に“ビーガンレザー”を使ったジャケットなどがあるが、素材はビーガンなのか?

サンドラ:この素材は製造過程で動物由来の物質を一切使用していません。本革と人工皮革はどちらを使用するべきか、議題に上がっていますが、ケリングが発表したEP&L(環境損益計算書)では本革と人工皮革の調査結果では、本革のほうが人工皮革よりも30%環境負荷がかかるという結果が出たといいます。人工皮革も完璧であるとはいえませんが、特になめしの加工や、温室効果ガスに通ずる森林伐採の必要がないことから、人工皮革を使用するという選択をしています。

WWD:透明性についてはどのように考えている?

サンドラ:透明性は積極的に取り組んでいる課題の一つ。「ナヌーシュカ」の商品の多くは地元生産されています。該当商品はオンラインサイトで確認できるようにしており、今後は工場や生産地の情報も開示して、全ての商品を追跡可能にする計画です。2021年プレ・スプリングのコレクションでは、85%がハンガリー国内、もしくは国境から数キロメートル以内のセルビアなどの近隣国で製造されています。現在20の工場と取引していますが、工場には頻繁に足を運んでいます。

パンデミックは過剰在庫、
過剰消費について再考するきっかけに

WWD:デザインのインスピレーションはどのように得ている?

サンドラ:バウハウスの「形態は機能に従う」をもとに、着心地がよく着る人に自信を与えられるようなものを作りたいと思っています。普遍的でどんな服ともコーディネートができるかも重要。また、異なる時代や場所のかけ離れた文化の間の架け橋になるようなブランドを目指しています。生まれ故郷のブダペストには豊かな歴史があり、東西の文化が融合する場所。旅行をすることも好きなので、そこから得た異なる文化をデザインに取り入れて、調和を生み出せるかということに挑戦しています。ハンガリー人は 10 世紀に中欧に定住するまで、何千年もの間遊牧生活を送っていたそうで、この“ノマド旅人のライフスタイル(ever-nomad, traveler lifestyle)”は、私のルーツにも根付いていると思います。

WWD:新型コロナウイルスによるブランドへの影響は?

サンドラ:店舗を一時的に閉めたほか、卸先のオーダーのキャンセルに直面し、コレクションの生産も縮小することになりました。ネガティブな問題に目を向けるとファッション業界には膨大な過剰在庫が蓄積されていて、小売りは大幅なディスカウントをせざるを得ない状況にあります。このパンデミックによって、過剰在庫、過剰消費についても再考するきっかけを与えられたようにも感じます。適正価値のない商品は需要がなくなり、心地よさ、機能性、耐久性、品質が重視されるでしょう。そして創造性と優れたデザインがブランドの成功に導くように立ち戻ると思います。

WWD:今後の目標は?

サンドラ:ブダペストとニューヨークの店舗に加え、11月にロンドンのメイフェア地区に店舗を開きました。資材も環境に優しい選択ができるかどうか、考えながら設計し、家具もビンテージのもので選び、上階には1室のみのホテルルームを設けていています。これまで卸売りに重点を置いていましたが、自社のオンラインストアを強化することで、お客さまと直接つながることも大事にしていきたいと考えています。このパンデミックで卸売りの不確実性、オーダーのキャンセルに見舞われ、B2C を成長させることが優先事項になっています。また、新たなラウンジウエアやサングラスなども開始する予定です。

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