婚約指輪に対する価値観は、男性が購入してプロポーズするのが当然というものから大きく変わり、給料3カ月分の予算という概念も薄れてきている。今では意思決定の場に女性の意見が大きく反映されるようになり、異性愛カップルのみならずあらゆる恋愛の形や予算に合う選択肢が用意され、購入の際にはサステナビリティが優先されることもある。
中でも、若手ジュエリーブランドはオンラインサービスや、サステナビリティを重視してラボグロウン(合成)ダイヤモンドの取り入れなどに注力している。キャンペーンの内容もロマンチックなものから、朝刊を読んだり、ランチを食べたりする女性の手元など婚約指輪のある日常生活にフォーカスしたものが増えている。
D2C(Direct to Consumerの略。オンラインを通じた直接販売)ブランドでエシカルに調達された宝石のみを扱う「フェントン(FENTON & CO.)」は、ブランドのミッションを“次世代に受け継がれる宝物”を作ることと掲げている。同ブランドのローラ・ランバート(Laura Lambert)最高経営責任者(CEO)は、1960年代にダイヤモンド業界によって生み出された婚約指輪に3カ月分の給料を費やす風潮について、婚約時に経済的プレッシャーを与えているようなもので「祝うどころか、重荷になっている」と主張する。
「私たちはそのような先入観に対して働きかけ、ブライダル業界内で幅広い文化的背景や性的指向を持つ人々やカップルと対話を重ねてきた。愛や誓いといったトピックはまだまだ異性愛の視点のみで語られることが多く、その他の多くの人を排除してしまっている。婚約の主役は、婚約指輪ではなく、婚約する2人であるべきだ。しかしジュエリー業界の中には顧客に対する尊敬の気持ちが欠けているところがあると思う。今ある婚約指輪に対する価値観の多くは、マーケティングの産物であるに過ぎない。婚約当事者の考え方や気持ちが尊重されるべきだ」と述べた。
ベルギー発のジュエリーブランド「キマイ(KIMAI)」は、コロナ禍における婚約指輪の需要の増加に合わせて、初のエンゲージメントリングコレクションを発表した。同コレクションは6つのタイプからなり、伝統的なダイヤモンドが施されたものもあれば、アシンメトリーなデザインで普段使いができる指輪もそろえてある。同ブランドはカジュアルなイメージの婚約指輪の広告も出しており、ジェシカ・ワーフ(Jessica Warch)共同創設者は「現代を生きる女性を描きたかった。広告に登場する女性は働いていたり、ジーンズやスニーカーを履いている。ドレスを着てパーティーに行くこともない。日常のカジュアルなシーンにあえてフォーカスした」と語る。
同じくシドニー・ノイハウス(Sidney Neuhaus)共同創設者は、「指輪を身につける女性に焦点を合わせたかったし、婚約指輪に男性の給料の3カ月分を費やすというルールを取り除きたかった。婚約指輪は経済力の賜物ではなく、2人の愛や婚約の瞬間を祝うものだと思う。エゴや経済力を見せびらかすためのものではない」と述べた。
「キマイ」はD2Cモデルを採用し、ラボグロウンダイヤモンドを使用することで、消費者の手にとりやすい価格設定に挑んでいる。宝石の品質は伝統的なジュエラーが提供するものに劣らないという。ワーフ共同創設者は「ラボグロウンダイヤモンドと、採掘されたダイヤモンドはどちらも同じ方法で鑑定を受け、等級がつけられる。この鑑定書により顧客との信頼関係が築けている」という。
一方で、消費者の間でもラボグロウンダイヤモンドに対する需要が高まっているという。「キマイ」はそのコミュニティーをさらに活性化させ、パーソナライズされたサービスを提供することを目指している。「古い方法や伝統にとらわれている顧客を教育するつもりはないが、オープンマインドな顧客を啓蒙し、ダイヤモンドの採掘が及ぼす悪影響について認識してほしい」と述べた。
ラボグロウンダイヤモンドを扱うブランド「ラーク&ベリー(LARK & BERRY)」も、“紛争に関与していないと保証され、地球への負荷が少ないダイヤモンドを求める倫理的な消費者”の増加を感じているという。ローラ・チャベス(Laura Chaves)創設者によると、「こういった消費者は従来の婚約指輪にありがちなものではないデザイン性の高いものを試している。だからブランドは、ブライダルコレクションを発展させるために、デザイン性の高いリングを次々と提案している」という。
「婚約指輪がダイヤモンドでなければいけないというルールなんてものはない。私たちが今実感しているトレンドの1つは、アシンメトリーなデザインのクラスター(中央の石を中心に周りを一回り小さい石で囲む花のようなデザインの)リング。価格を抑えながらも、華やかさを演出することができる。従来のソリテール(一粒石の)デザインから大きく変わりつつある。オーダーメードの顧客には、指輪に隠された小さなディテールも人気だ」と語った。