11月下旬、東京・用賀の婦人服製造販売のレリアン本社。地下1階の会議室は撮影用の照明がまぶしく照らし、スタッフがひっきりなしに出入りしている。まるでテレビ番組のスタジオのように忙しない現場は、同社が上位顧客向けにビデオ通話形式で行うオンライン受注会「リモート逸品会」の真っ最中だ。
販売会は完全予約制で、期間は11月6日〜12月6日の1カ月間。同社はこれまで「逸品会」と題した優良客向けのイベントをシーズンごとに実施してきた。今年は2020-21年秋冬新作のランウエイショーなどの企画を6月に実施予定だったが、コロナの影響で延期、オンライン上への変更を余儀なくされた。そこで普段は会議室として使用している地下1階の10室を、期間中は全てオンライン通販の専用スタジオに模様替えした。さらにライトなどの撮影機材に加え、全国百貨店の230店舗と本社を中継するためのモニタ−も「全てこのイベントのためにそろえた」(西口知邦・レリアン常務経営企画部長)というから、その本気度の高さがうかがえる。
「リモート逸品会」で予約を受け付ける21年春夏の限定コレクションは71型。店舗に並ぶ通常ライン(中心価格帯2万〜5万円)よりもやや高価で、京都、福井、新潟など国内産地の生地を使い、全て受注生産形式を取る。リモート接客を希望する顧客の元には、あらかじめコレクションのビジュアル動画や生産者インタビューなどが収められた1枚のDVDが届く。顧客は新作へのイメージと期待を膨らめてから、予約当日に近隣店舗に出向く。シニア層が中心の顧客への配慮として、ルックブックや生地見本などは紙資料でも店舗に用意した。
画面越しに商品を紹介するのは首都圏店舗に勤務するベテラン販売員たち。だが普段は販売に関わらない部署や上層部の人員も、スタジオに商品を持ち運んだり、撮影を補助したりと、「いわば社員総出」(西口常務)で撮影に手を貸している。この日はトキハ別府店(大分県)との中継で、担当は高島屋日本橋店の販売員。接客に必要な顧客情報は店舗から事前に共有されており、「60代、155センチ、11号」「好みは紺、グレー基調のカジュアルスタイル」など。販売員はAD役の社員が掲げるカンペを横目に、ペイズリー柄のブラウスを主役にしたコーディネートを紹介する。「ちょっと柄をよく見せてもらえる?」「下(ボトムス)には何を合わせたらいいのかしら」。モニター越しに女性からの質問が届くと、カメラに近づけて服を見せたり、自分の体に当てて全体のバランスを見せたりと、テンポよく要望に応えていく。
週末や午後2〜5時の時間帯は予約枠の8割が埋まっているという。接客は1時間以上に及ぶこともあれば「客単価100万円以上買ってくださったお客さまもいる」(西口常務)など一定の手応えを得ている。画面越しでも映える華やかなプリント柄、シーズンレスに使えるアイテムを中心に組んだコーディネート提案が好評という。
同社は20年3月、デジタル強化のため「デジタルマーケティング部」を新設したが、その矢先に新型コロナが直撃。だが、「これまで縦割りの組織で本部と現場が連携できていなかったのが、『リモート販売会』を機に社員全員がお客さまと向き合うことができている」と前向きだ。売れた商品の傾向などはデータとして蓄積し、今後の施策に生かす。12月中には「ランバンコレクション(LANVIN COLLECTION)」でのオンライン販売会を、来年6月にはレリアンの21-22年秋冬コレクションで第2回の「リモート逸品会」実施を予定している。