サステナビリティ先進企業として知られ、トレーサビリティー(追跡可能性)への取り組みでも注目を集めるのが「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「ヴァンズ(VANS)」、そして「シュプリーム(SUPREME)」を傘下に持つ米VFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFC)だ。同社はサプライチェーンの情報を消費者に共有するため、2016年に全製造工程を可視化したトレーサビリティーマップの開発に着手し、18年からホームページで掲載。現在、主要12ブランド計46製品が公開されている。
アパレル産業のサプライチェーンは複雑で、把握するのが困難といわれている。だが自社の製品に責任を持つには、原材料生産から製品ができるまでの製造工程を把握することは必要不可欠だ。トレーサビリティーを追求することは、自社の労働環境や環境への負荷などの問題を浮き彫りにし、その解決の糸口となる。シャネル・オートン(Shanel Orton)=レスポンシブル・マテリアルズ&トレーサビリティー・シニアマネジャーに同社の取り組みを聞いた。
WWD:トレーサビリティーに着手したきっかけは?
シャネル・オートン=レスポンシブル・マテリアルズ&トレーサビリティー・シニアマネージャー(以下、オートン):2013年にバングラデシュの首都ダッカ近郊で死者1000人以上を出したラナ・プラザ崩落事故です。ラナ・プラザの縫製工場に発注はしていなかったものの、自社のサプライチェーンで働く労働者のために工場の安全性や人権問題を改善する必要があると痛感しました。世界中の工場で100万人以上の人々が当社の製品製造に携わっており、100万人以上の消費者がそれらを購入してくれています。品質はもちろん、労働者や消費者の安全に至るまで、私たちは製品に関わる全ての人々に対して責任があります。
WWD:トレーサビリティーマップは製品の製造背景を知ることができる画期的なシステムだ。
オートン:マップ上でサプライチェーンのデータをビジュアル化したことで、原材料や各パーツがどのような工程を経て製品化されたのかがクリアになりました。ただ、大企業の複雑なサプライチェーンに対応したプログラムを構築することは並大抵ではありませんでした。私たちは年間4億ユニット以上の製品を作っています。調達先は40カ国以上、一つの製品を作るのに50以上の工場が関わることもあり、仕入先は世界中に何千とあります。
WWD:どのように確立していったのか?
オートン:マップの開発を始めた頃は、現在ほどトレーサビリティーや透明性が社会に認知されていませんでした。でも、問題を認識しなければ解決策に取り組むことはできません。開発する過程で提携先のサプライチェーンと協業して信頼関係を築き、このプログラムの重要性や正確なデータが必要であることを理解してもらいました。また常に新たな原料やサプライヤーが加わるので、その都度課題を洗い出し、プログラムに含めていく必要があります。
WWD:現在マップ上でデータ化されている製品は?
オートン:「ティンバーランド」の“イエローブーツ”こと、“6インチ プレミアム ウォータープルーフ ブーツ”や「ヴァンズ」の白黒チェック柄の“チェッカーボード スリッポン”、「ザ・ノース・フェイス」の“サーモボール エコ フーディ”などです。追跡できる製品数は全体に対してまだ低い割合ですが、いずれも主要製品なのでボリュームは大きい。アイコニックな製品のサプライチェーンを完全にできたのは意義のあることだと思います。2021年末までに140製品に増やすことが目標です。
WWD:VFCでは、トレーサビリティーを徹底するために全工場をモニタリングしていると聞く。
モートン:タナリー(皮なめし工場)から織物工場、カッティングや縫製工場、スクリーン印刷会社、刺しゅうアトリエ、製品洗い工場、梱包施設、完成品の生産工場まで全てモニタリングしています。特に注視しているのが皮革で、現在はブラジル産の使用を禁じています。理由はアマゾン地域の大規模な森林火災をめぐり、傘下ブランドに使用される素材が環境の悪化につながっていないという確証が持てないためです。トレーサビリティーを推進することでこれまでモニタリングできなかった分野も可視化でき、“人と地球にポジティブな影響を与える”という目的主導型の経営判断が可能となりました。
そのほか、新規の森林伐採や森林劣化の原因となった土地で放牧された動物の皮革の使用も禁止しています。より信頼性の高いデータを得るために、オンライン調査に加え、原材料サプライヤーの施設へ現地調査も行っています。
WWD:トレーサビリティーへの積極的な投資の先に目指すものは?
オートン:「サステナブルなファッションを発展させるには、プロダクトデザインと開発、調達、生産など、事業全体のテクノロジーに投資する必要がある」という理念のもとに投資しています。私たちの根底にあるのは“人と地球にポジティブな影響を与えたい”という願い。その実現には、製品をエシカルかつサステナブルな方法で生産する事業戦略が不可欠です。トレーサビリティーの範囲を広げ、サプライチェーン全体の透明性を高めることは、よりよい経営判断につながります。