「ファッションビジネスは農業の一部だ」。そんな言葉を最近よく耳にする。近い未来の製造業の在り方を話しているとリーダーたちの思考がこの考えにたどり着いているのだなと気が付くことが多い。昨日会った、とある大手アパレルメーカーのトップからもこの言葉が飛び出して正直驚いた。(この記事はWWDジャパン2020年12月7日号からの抜粋です)
言うまでもなくファッション、ビューティの製品を作り出す仕事は製造業であり、販売するのは小売業だ。農業ではない。だが、製品の素材に目を向ければコットンや麻は畑から収穫し、ウールは牧場からやってくる。シルクもレザーも然りだ。それなのに食品の製造・販売の現場のようにその素材がどこの畑から来て誰の手によって作られているかと言うことに思いをはせる瞬間はファッションにおいてはほとんどない。私自身、今着ているこのセーターの羊毛がどこの牧場から来ているかは皆目見当もつかない。メーカーや商社の素材調達担当者は仕入れの際に意識しているのかもしれないが、その情報が長いサプライチェーンの中で川下まで伝達されているとは言い難い。
これまでもファッション・ビューティの世界では素材や生地の品質や機能は熱心に語られてきた。しかしそれは工業製品としての質や機能であり、いわばデジタルデバイスの機能を語るのと変わらない。農業と実は深くつながっているファッション・ビューティの仕事に携わる人たちがこれから先、消費者にもっと伝えるべきことは工業製品としてだけではなく、農業的視点での製品の魅力ではないだろうか。素材の作り手が誰であるかその人たちがどんな理念を持って生産に携わっているのかなども然りだ。
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