2020年7月に経営破綻し、8月に米アパレル運営会社スパーク・グループ(SPARC GROUP以下、スパーク)に3億2500万ドル(約338億円)で買収された米ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)が、新体制の下で動き出した。
新たなクリエイティブ・ディレクターには、かねてより有力候補の一人と見られていたマイケル・バスティアン(Michael Bastian)が起用された。同氏による商品は今年のホリデーシーズンなどに一部投入されるものの、新型コロナウイルスの影響による生産の遅れもあり、完全なコレクションは21-22年秋冬シーズンに発表する。同氏はメンズとウィメンズの両方を手掛けるため、14年からウィメンズのクリエイティブ・ディレクターを務めていたザック・ポーゼン(Zac Posen)は退任した。
バスティアン新クリエイティブ・ディレクターは、「『ブルックス ブラザーズ』にないアイテムを作ろうと思って自分のブランドを立ち上げたので、デザイナーに就任するなんて夢のようだ。私はクラシックなアメリカらしさを得意としているが、それを育んでくれたのが『ブルックス ブラザーズ』だった」と語った。
同氏は米百貨店バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)のメンズ・ファッション・ディレクターとして活躍した後、06年に自身のブランド「マイケル バスティアン」を設立。同ブランドはアメリカントラッドをベースとしたカジュアルウエアやスーツを展開しており、10年にはカジュアルブランド「ガント(GANT)」と、13年には「ユニクロ」と協業した。20年2月からは、英アパレルブランド「テッドベーカー(TED BAKER)」の暫定クリエイティブ・ディレクターも務めていた。同氏はアメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA以下、CFDA)が主催する「CFDAアワード」のメンズ部門に6回ノミネートされており、11年に受賞している。
ブルックス ブラザーズの新社長には、スパークの親会社であるオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、ABG)のケン・オオハシ(Ken Ohashi)=インターナショナル&グローバルリテール部門社長が就任した。同氏はアパレルブランドのエアロポステール(AEROPOSTALE)で14年にわたって経験を積み、海外部門のシニア・バイス・プレジデントなどの要職を務めた。16年にABGが同ブランドを傘下に収めてからはさらに活躍の場を広げ、18年から同社の海外事業を率いていた。
同氏は、「マイケルは非常に商業的なデザイナーで、自分のビジョンをブランドより優先させるようなことはしないので、安心して『ブルックス ブラザーズ』を任せられる。彼は色彩やファブリックについて素晴らしい感性を持っていると同時に、消費者の好みをよく把握している。マーチャンダイジング、プラニング、生産に関する経験も豊富で、優れたリーダーとしてブランドを率いてくれるだろう」と述べた。
ABGのニック・ウッドハウス(Nick Woodhouse)社長兼最高マーケティング責任者は、「ブランドを買収した後は、まずそのブランドらしさとは何かを再定義して、それをどう生かしていくかを将来的な目線で考える。長い伝統を誇るブランドは、ときに新鮮な風を入れないと淀んでしまうものだ」と説明した。「ブルックス ブラザーズ」の場合、スーツ、オックスフォードシャツや畝織のネクタイ、金ボタンのネイビーブレザー、トレンチコートなどの“アメリカンクラシック”を感じさせるアイコニックな商品は残しつつ、より若い世代にもアピールするよう現代的にアップデートするという。
バスティアン新クリエイティブ・ディレクターは、「『ブルックス ブラザーズ』はトレンド感のあるブランドではないが、スタンダードであるがゆえにさまざまなトレンドに影響を与えてきた。ブランドらしさを失うことなく主要アイテムをアップデートしながら、スポーツウエアやウィメンズを増やし、サブブランドは合理化していく」と今後の展望について話した。
こうした戦略の一環として、若者を対象とした「ブルックス ブラザーズ レッド フリース(BROOKS BROTHERS RED FLEECE)」と、シルクやカシミヤなどの高品質な素材を使用した「ブルックス ブラザーズ ゴールデン フリース(BROOKS BROTHERS GOLDEN FLEECE)」は、メインブランドである「ブルックス ブラザーズ」に統合する。
また「ブルックス ブラザーズ」は品のある“アメリカントラッド”が持ち味だが、それを支えてきた米国内の3工場は20年夏に閉鎖されている。オオハシ新社長によれば、イタリア、エジプト、アジア地域のベンダーとの取引は確保しており、現在は“メード・イン・アメリカ”を維持するため米国内でスーツを生産する取引先を探しているという。
今後はまずECの強化に取り組むが、ABGがライセンスやブランド管理を中核事業としていることから、いずれ「ブルックス ブラザーズ」でも家具、アンダーウエア、フットウエア、香水、ビューティなどのライセンス事業を行う可能性がある。オオハシ新社長は、「パートナー候補となる企業がすでに複数あるが、ブランド価値や高いクラフツマンシップを維持できる相手と組みたいと考えている」と述べた。
デジタル化を加速させる一方で、実店舗も一定数を維持する予定だ。「ブルックス ブラザーズ」は米国でおよそ250店を運営しているが、スパークは買収の際にそのうち少なくとも125店を存続させることに合意している。オオハシ新社長は、「なるべく多くの店舗を存続させたいと考えており、現在のところ165店の継続が決定している」と話した。しかしマディソンアベニュー旗艦店は、ブルックス ブラザーズの前会長兼最高経営責任者(CEO)だったイタリアの実業家クラウディオ・デル・ヴェッキオ(Claudio Del Vecchio)が保有しており、協議を重ねているものの店舗の存続については合意に至っていないようだ。
スパークは、米ブランド管理会社ABGと米不動産投資信託会社サイモン・プロパティー・グループ(SIMON PROPERTY GROUP)が半々の出資比率で設立した合弁会社で、「エアロポステール」のほかにも「ノーティカ(NAUTICA)」などを管理している。また8月にはロサンゼルス発のジーンズブランド「ラッキー ブランド(LUCKY BRAND)」を買収した。スパークはこれらの傘下に収めたブランドについて、米国内でおよそ750の店舗に加えてECや卸も運営しており、合計で年間20億ドル(約2080億円)以上の売り上げとなっている。なお、スパークのマーク・ミラー(Marc Miller)CEOはもともとエアロポステールのCEOを務めていた。
ABGはブランド開発、マーケティング、エンターテインメント事業などを担うブランド管理会社で、会長兼CEOを務めるジェイミー・ソルター(Jamie Salter)が10年に創業。ブルックス ブラザーズの買い手候補として、当初はABGとサイモン・プロパティー・グループ、そして米不動産開発会社のブルックフィールド・プロパティー・パートナーズ(BROOKFIELD PROPERTY PARTNERS)の3社連合と、新進の米ブランド管理会社WHPグローバル(WHP GLOBAL)が有力視されていた。