コロナ第3波の拡大を受け、「GO TO トラベル(以下、GO TO)」の12月28日~1月11日の停止が発表された。「GO TO」の地域共通クーポンは使用対象店舗としてアパレル小売業も含まれており、ファッション業界としても今回の停止は無関係な話ではない。ただし、実際のところは「『GO TO』の還元は観光業や飲食業が中心で、ファッション小売業への還元はごく一部」と嘆く声も業界内からはこれまでも聞こえてきていた。5月にファッション小売業支援のための署名活動を立ち上げ、コロナの終息が見えない中でその後も政府や省庁に陳情を続けているシューズブランド「ユナイテッド ヌード(UNITED NUDE)」の青田行・日本法人社長に聞いた。
WWD:青田社長らが5月にオンライン署名活動を立ち上げ、その後も政治家や官僚などと面会して要望を伝え続けてきたことなどが背景の一つとなって、ファッション小売業も「GO TO」の対象となった。
青田行「ユナイテッド ヌード」日本法人社長(以下、青田):対象になるように働きかけてくださった方々にまずはお礼を言いたい。ただ、そのうえで「GO TO」によるファッション業界への還元は一部にとどまっているというのが実情だ。制度設計上、地域共通クーポンはやはりホテル内や飲食店などで使われるケースが圧倒的に多く、当社の店頭でクーポンを使用するお客さまは週に2~3人いるかどうか。ファッション小売店でもクーポンが使えるという認識を広める努力がもっと必要だと思っていたが、ここにきて感染第3波が広がって、状況も変わってきた。
WWD:感染再拡大の中で、今後の状況をどのように考えて、どんな動きをしているのか。「GO TO」は2020年度の第3次補正予算で、21年6月末までの延長(約1兆円の追加予算計上)も明らかになったが。
青田:今後、感染がさらに広がれば、一部地域には再び緊急事態宣言が発令される可能性もある。そうなると、われわれは“不要不急”業種としてまた休業を余儀なくされる。そこまでの状況には至らないとしても、消費が低迷する中でファッション小売業としても他の業界と同様、支援を得るために政府に対して働きかけを続けていくことは大切だ。5月以降、政治家や官僚の方と面会し、企業破綻も相次いだファッション業界の状況や業種を限定しない経済活性化策の必要性などを訴えてきた。引き続き、菅義偉内閣の有識者会議メンバーでもある国際政治学者の三浦瑠麗氏を通して、11月にも長坂康正・経済産業副大臣や永澤剛・経済産業省製造産業局生活製品課長などと面会する機会を得た。その場では、「GO TO」の仕組みに代わる、より小売業に直結する施策の必要性を伝えた。
WWD:具体的にどのような施策や支援を訴えたのか。
青田:「GO TO」は人の移動が伴うことで感染も拡大させてしまう恐れがある。しかし、小売業の活性化のためには旅行先のみで使えるクーポンである必要性はなく、地元で使える業種を問わない(=ファッション分野の小売りに限らない)買い物券のようなものの方が消費には直結する。また、「GO TO」は仕組みがやや煩雑で、どうすればクーポンの使用対象店舗になるのかが分からないといった声も業界内からは聞こえてきた。そこで、2019年10月の消費増税に伴って実施されたキャッシュレス・ポイント還元事業の仕組みを再度活用して、キャッシュレスで買い物をするお客さまは割り引くような形を来年度予算などで採るのはどうか、といったことも伝えた。その方式なら、小売店の側は既に一度経験していることなので新たな設備投資が必要ないし、お客さまも仕組みに慣れている。
WWD:引き続き、世の中には「経済優先・消費活性化推進は、すなわち人命の軽視だ」という批判の声もある。
青田:4~5月の緊急事態宣言下とは違い、今はコロナ禍でも「比較的影響がない、むしろ今までよりも好調だ」という人・業種と、その反対に「非常にダメージを受けている」という人・業種とに二極化していると思う。われわれの業界にも、好調企業と年末の資金繰りに苦労している企業がある。「影響がない、好調だ」という人には経済を回していってもらわないと、コロナでは助かっても経済面で困窮し立ち行かなくなるというケースが大いにあり得る。余裕がある人が経済を回すことをためらわないような、「消費をしてもいいんだ」と感じられるムード作りを政府や業界に対して訴えていくことが、今後も大切だと思っている。