ビューティ

ニューノーマル時代に求められる香りとは? 香水特集でジェンダーについて考えさせられる エディターズレター(2020年10月27日配信分)

※この記事は2020年10月27日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

ニューノーマル時代に求められる香りとは? 香水特集でジェンダーについて考えさせられる

 「WWDジャパン」10月26日号の付録「WWDビューティ」の特集を担当しました。これまでも毎年行ってきた香水特集ですが、今年は新型コロナウイルスで変化する日本の香水市場や海外の香水事情について取り上げました。日本では“おうち時間”が増えたことによりキャンドルやルームディフューザーなどのホームフレグランスが急伸し、フレグランスは外出する時につける特別なものから、日常の一部になっています。一方で以前から香りは日常の一部だった海外では、外出自粛により香水市場は厳しい状況が続いているようです。

 特集を作っていて面白かったのは、米「WWD」の「ニューノーマルの時代で求められる香水とは?」という記事でした。詳しくは特集で取り上げていますが、内容としては、今後支持される香りは「ジェンダーフリー」「パーソナライズ」「クリーン」の3つのキーワードを体現するものということです。これまでの香水ははっきりメンズ・ウィメンズで分かれ、香りを説明するのに“フェミニンなフローラル”“マスキュリンなウッド”など、ジェンダーを男・女に分けた言葉がたびたび使われてきました。また広告も、マッチョの男性が上半身裸な状態で出てきたり、嫌らしいくらいセクシーな表現の広告も当たり前でした(テリー・リチャードソンが撮り下ろした「トム フォード ビューティ」の広告を見てみてください)。

 しかし、ダイバーシティーを大切に思う今の若年層には、そういったセクシストなメッセージは響かなくなっています。確かに今の時代は、“男性を魅了するためにつけるセクシーな香水”“女性にモテる香り”など、異性を意識した打ち出し方はインクルーシブとは言えないのかもしれません。そもそも、今の時代において“セクシー”とは?異性・同性を魅了するもの?自分に自信を持つこと?ほかにはない魅力に誇りを持つこと?人それぞれ、いろいろな答えがあるでしょう。だからこそ、メーカーが一方的に「これをつけたら男性を釘付けにする香りです」と決めつけてしまうのは、違和感を抱かれるのだと思います。

 ただ、特集でインスタグラム媒体を運営するフレグランスベンチャーやユーチューバーにもインビューをしたのですが、彼らいわく反響がいいコンテンツはやっぱり「モテ香水まとめ」「(異性に)褒められた香り紹介」といったものだそうです。だから、異性を意識した香りやメンズ向け・ウィメンズ向け香水、セクシーな香りなどが今後なくなるとは思いませんし、そこには需要があるのは分かります。そもそも香りとはとてもパーソナルでときにロマンチックなものでもありますし。しかし、そのメッセージの発信の仕方を考えないと、今の時代は厳しいのも現実です。ファッションでは、米「ヴィクトリアズ・シークレット」や「アバクロンビー&フィッチ」がセクシー路線で苦戦したのも、まさにそういうことですよね。

 少し話がそれますが、ジャン・パトゥが1930年にデビューした香り“ジョイ”は、世界大恐慌時に彼のクチュールピースを買えなくなってしまった顧客のために、少しでもメゾンのスピリットを纏えるように、という思いで作った香りです。「ニナ リッチ」の“レールデュタン”も、第2次世界大戦後の平和をイメージして作られた香りです。どちらもその時代の情勢や出来事によって生まれた香りで、今も名香として愛されています。新型コロナウイルスや5月に米国で起きた黒人差別も世界中に大きなシフトをもたらしています。ダイバーシティーやサステナビリティへの意識のさらなる高まりはまさにその一部です。そんなニューノーマルの時代ではどんな香りが生まれるのでしょう?

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