※この記事は2020年11月10日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
「ユニクロは安くはないでしょ?」に世代間ギャップ
テレビをつけたら、たまたまユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正社長の顔写真が出ていたので見始めました。クイズ番組です。「この人が社長を務める会社は?」といった問題でした。「長者番付国内1位」「コロナ研究のために京都大学に100億円寄付」とった柳井社長に関するトピックスが紹介されたのち、さらにヒントとして正解を知る4人のプレゼンターから漢字一文字が提示される仕組みで、「安」「衣」「衣」「服」の言葉が並びました。回答者は10〜20代の若いタレント16人です。
正解は3人だけでした。
「しまむら」など他の企業をあげた人の方が多かった。正解できなかった複数の回答者が、漢字ヒントの「安」を指して「ユニクロは安くはないでしょ?」と首をかしげていたのが印象的でした。漢字ヒントを出したプレゼンターは全員40代以上のタレントでした。
興味深いのは、若者はユニクロに対して必ずしも「安い」というイメージを持っていないこと、そして40代以上の大人はユニクロを象徴する漢字一文字として「安」を選んだことです。
私は40代なので後者の立場で番組を見ていましたが、そうか、若者にとってユニクロは必ずしも安いブランドではないのだな、とジェネレーションギャップを教えられた感じです。
ユニクロが市民権を得たのは1998年に出したフリースがきっかけです。それまでフリースのジャケットはアウトドアブランドの専売特許のようなもので、1万円以上が相場でした。ユニクロはこのフリースのジャケットを1900円という衝撃的な価格で売り出し、社会現象を引き起こしました。その後も衣料品の価格破壊者としてジーンズ、カシミヤセーター、ヒートテックなどヒット商品を連発して、今日の姿を築き上げます。
一定以上の年齢の人たちは、ユニクロが次々に価格破壊を起こしていった記憶を共有しています。私はフリースブームの頃に記者になったので、ユニクロがけん引する形で衣料品市場全体のボリューム価格が下がり続けていった様子を業界の中から見てきました。
でも物心ついたころからユニクロが当たり前に存在する“ユニクロネイティブ”の世代にとって、その価格はけして低価格ではなく、中価格くらいなのかもしれません。確かに市場を見渡せば、いまやユニクロよりも安いブランドはたくさんある。品質やデザインなど安さ以外の付加価値のイメージが強くても不思議はありません。
1990年代後半以降、中国や東南アジアなど賃金の安いエリアで大量生産が可能になったため、この四半世紀で衣料品の市場価格は激しく下がりました。かつて衝撃的だったユニクロの価格(現在もそれほど変わっていない)が安く感じられなくなっていることを思い知らされます。
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