バーチャルリアリティー(VR)空間上でさまざまな展示や体験、3Dアイテムやリアル商品の売買ができるイベント「バーチャルマーケット5」が12月19日から2021年1月10日まで開催される。
「バーチャルマーケット(以下、Vケット)」は18年に初開催され、今回が5回目。前回は伊勢丹新宿本店が出店して、婦人靴のPB「エヌティー(NT)」やメンズブランド「ミノトール(MINOTAUR)」がアバター着せ替え用の3DCG素材を販売したり、伊勢丹のタータンチェックの紙袋の3Dデータを無料配布した。また、「ウイゴー(WEGO)」は実際のアイテムをもとにしたアバター用の衣装を販売。リモートワークでショップスタッフがアバターを操作して接客した。今回の「Vケット5」には東宝やタカラトミー、大丸松坂屋百貨店、ビームスなど73社が参加するほか、1100人超のクリエイターが出展する。
世界から70万人以上の来場者が集まる、世界最大級のバーチャルイベントを主催するHIKKYの舟越靖代表取締役に「Vケット5」について聞いた。
WWD:ゴールデンウイークに行われた前回と今回の「Vケット5」とで進化した部分は?
舟越靖代表取締役(以下、舟越):今回はワールドワイドを意識しています。前回は「パラリアルトーキョー」という渋谷や秋葉原、東京のランドマークを集めた、バーチャルならではの街を作って、日本の文化とコロナ禍でバーチャルの中で生活したり商売したりしている人たちを日本の人たちに向けて盛り上げました。ところが、米「フォーブス」誌に「Vケット3」が取り上げられたり、SNSなどでどんどん拡散されていき、知らず知らずのうちに海外からの流入が増えて、来場者の半分近くになっていて。今回はそういう海外から来る人たちにも向けています。それが最大の違いです。
WWD:具体的には?
舟越:全世界をまさに寄せ集めて、時間とか距離の概念が曖昧になるような空間をイメージして設計しました。歩いていくと、象徴的なキャラクターがいたりとか、長い通路の中にいろんな演出があったりとかして、その高められたものからいろんなものを買ってもらったり楽しんでもらうという環境を目指しました。
あとは英語対応ですね。出展企業はもちろん、個人のクリエーターさんたちにもまずは英語対応を促しています。今回は啓蒙レベルでしかできていないのですが、そのうち自動化したいです。せっかく世界からたくさんの人に見てもらえる、たくさん買ってもらえるかもしれないじゃないですか。弊社の方でも問い合わせなどに対応したり、英語で海外にもプレスリリースを配信したり、さまざまな策を細かく重ねています。
WWD:出展者にも海外からが増えている?
舟越:クリエイター出展で如実に増えています。英語での出展問い合わせも増えたので、きちんと体制を作って対応しました。コロナ禍での開催だったこともあり、前回は終了後2カ月で5000件ぐらいの問い合わせが来ました。その中には海外の企業や政府関係からのものもありました。
WWD:「Vケット4」で特に人気だったコンテンツは?
舟越:やはり「アウディ」がすごかったですね。高級自動車をバーチャル空間で体験させるってどういうこと?じゃないですか。彼らは車のデータをそのまんま僕らに託してくれました。それを動かせるように僕らがデータを作って、それをトップセールスマンのすごく上手なトーク共に試乗体験できるというのは画期的でしたね。日本全国や海外からお客さまがずっとアクセス待ちという状態でした。
「アウディ」にとっては、試乗体験がお客さまとの一番のタッチポイントになるそうです。そこに来させるために、テレビCMを含めたいろんな導線が必要で費用がかかるんです。でもバーチャルだと、まず時間も距離もあまり関係なく、ひとまず体験させることができちゃうんですよ。そうすると今まで車とかに興味なかった人が、「え、カッコいいかも」ってなることもある。そこでリアルな試乗体験への申し込みが殺到するわけなんです。街を歩いていたら、なんかカッコいい車があって、すごく気軽に体験できて――ということはこれまでのチャネルではありえなかったですよね。
ちょっと極端な例ですが、その場で欲しいという人も出てきたそうです。買おうと思ってたシリーズの最新作が出たけど、遠くにいるから見れなかったんだよね、でもこれだけちゃんと中を見られたら、「これは買いだわ」というふうに判断する人も別にいなくはないじゃないですか。しかも非常に良い接客とともに紹介されて、しかも試乗体験もできるとなると、決定打にもなるわけです。
WWD:ファッションにも繋がるものがある。
舟越:購入って、体験をベースに決めるケースが多いと思います。美味しそうとか、それ素敵とか。「ウィゴー」は若い女性向けの服の3Dアイテムを販売しましたが、実際の販売員がアバター接客してくれました。普通はゴーグル着けてVR空間で接客するのって慣れるのに時間がかかるのですが、驚くほど早く慣れて、楽しんでいましたね。ブースも人気でしたが、その販売員自身のSNSもすごくフォロワーが増えたりしていました。普段からあんまり固定概念なくって、楽しいものは楽しいというふうになる人は入りやすいようです。実際に商品も売れたので、バーチャル上の接客はすごく大事です。通常の動画配信よりも相手へのインパクトが強いので購入のきっかけには十分なりうると実感しました。
WWD:「ウィゴー」は「Vケット3」にも参加している。
舟越:109の実店舗とVR空間をつなげて接客するという試みでしたが、あれも画期的だったと思います。しかも働いてる人は体に障害があって歩けないが手は動かせるという方でした。病院から遠隔で憧れだったアパレルブランドの店員さんをやれて、ちゃんとみんな喜んで買ってってもらって、お給料ももらえた――これってSDGsへの1つの解決にもなっていますよね。「Vケット3」で手応えを感じて、「Vケット4」で本格的に物販にトライしたという感じでした。
WWD:今回はビームスが出展するが?
ファッション業界って、クリエイターやアーテイストを大事にするじゃないですか。ここに新しいチャネルがあって、その人たちに新しい環境をつくれるんだという意識のもと、この先商品やコンテンツをどういうふうに提供しようかを考えてもらえれば、僕らは企画屋でもあり制作屋でもあるので、一緒にいいものができると思っています。そして、今回の取り組みを発信源に、こういう使い方ができたとかこうやればもっと気軽にやれるよとか、大きな初期投資なく、ちゃんと売り上げにつながるような事例をつくっていきたいです。
WWD:すごく楽しみだ。新たなVR空間が次々と生まれているが、「Vケット」の最大の強みとは何か?
舟越:一番の魅力はとにかくクリエーターの作品です。今、ツールの進化でかなり簡易的に結構かわいいのが作れたり、工夫によってより良いものが作れるようになってきています。個人がそのツールを使い倒して、最近までコンビニでアルバイトをしていたり、公務員だったような人たちが趣味をベースに作ったものが、そのまま売れてしまう。3DCGをCtoCで販売できる初めての場が「Vケット」なんです。回を重ねるごとにスタープレーヤーがどんどん誕生していて、彼らの力によって「圧倒的な体験を提供している」と自負しています。また行きたくなる環境をつくるっていうものですね。ですから、クリエイターたちによって、思い出になったり、コミュニケーションのきっかけになるような環境を意識してつくっているという点が大きな違いだと思います。うちの社員たちは皆エンターテイナーです。ただ商売をするために効率的に物を作るというよりは、どう喜ばせるかとか、どう驚かせるかとかそういうことばかり考えています。
「Vケット5」については「WWDジャパン」2021年1月18日号で詳報予定だ。