ファッション

「キジマ タカユキ」が業界を25年間走り続けられた理由とは? 木島隆幸デザイナー本人が語る

 卓越した技術と洗練されたデザインで人々を魅了し、日本が世界に誇る帽子ブランド「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」。デザイナーの木島隆幸は、帽子デザイナーの第一人者である平田暁夫氏のもとで、オートモード(オートクチュール)の技術を学びキャリアをスタートさせた。洋服とは違いコーディネートに必ず必要とはされない帽子だが、木島デザイナーはそれを物ともせずファッション業界を25年間走り続けてきた。その技術はファッションデザイナーにも大きな影響を与え、これまで「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.)」、「オーラリー(AURALEE)」などとのコラボアイテムを製作。また1999年に初の直営店となる代官山店を、2019年には渋谷パルコ店をオープンするなど、経営者としての顔も併せ持つ。この業界で生き抜いてきた術や次世代への継承について本人に聞いた。

WWD:なぜ帽子を作ろうと思ったのか?

木島隆幸デザイナー(以下、木島デザイナー):10代の頃は帽子ではなく古着が大好きで、他の人が真似できないオリジナルのスタイルを追求していました。その後ヒップホップカルチャーに出合い、その格好良さに魅了されたと同時にパンクやロンドン・ファッションも好きになりました。20代の前半になると、それまで購入していた「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」や古着を売却し、今度はスーツスタイルに路線を変更しました(笑)。それらの経験を通して、自分が洋服を作るとまとめることができないと感じたのです。でもファッション業界には携わりたかったので、コーディネートに付随する帽子を選びました。

そして後の師匠となる平田暁夫先生が主催する帽子教室に一年間通うことにしましたが、何も習得できずに時間だけが過ぎてしまいました。一年経った後、「就職先ありますか?」と教えて頂いていた先生に問うと、「あるわけないでしょ」と言われてしまいました。でもその先生が「平田先生のアトリエに空きがないか確認してみるよ」と手を差し伸べてくださいました。そして平田先生から「すぐにでも来てほしい」と返事をもらい、すごく幸運なことに入社することができました。私がアトリエに入った時は、ファッション自体の盛り上がりが最高潮で、ブランドのショーに対する投資額はすごいものでした。当時はデコラクティブなもので競い合っており、毎回苦労の連続。ミシンでは縫えないようなゴムやビニールを持ち込まれ発注を受けていました。この世界に飛び込んでからの経験が刺激的で、いつの間にか、帽子づくりに没頭していましたね。

WWD:「キジマタカユキ」の帽子の一つの特徴である“カバンの中にしまっても型が崩れない”。そこに行き着いた理由は?

木島デザイナー:私は平田先生のアトリエで5年ほど修行を積んだ後、独立しました。独立した当初はビジネスの仕方すらもわかりませんでした。そこで、修行を積んでいた際に通い詰めていたユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)の栗野宏文さんに「商品を見てください」と連絡しました。栗野さんに「物が良いのは分かるけど、この帽子を被るシチュエーションが私には分からない」と言われたことで、「洋服に合うものでなければ何の意味もない」ということを気付かされました。そこから“帽子単体ではなく、洋服とどれだけマッチできるか”ということを根本的に考え、帽子をかぶる際のデメリットを消していったなかの一つです。

WWD:さまざまなファッションデザイナーとのコラボを行なっているが狙いは?

木島デザイナー:一つの価値観だけで物事を考えてしまうと、自分の容量の中でしかデザインが生まれないし抜けだすことができなくなります。彼らは帽子に関しては素人なので、その発想はもの凄く面白いものや突拍子のないものがあり、刺激を受けることが多い。自分の中の枠を広げるには必ず必要なもので、欠かさず行うようにしています。

WWD:これまでに一番衝撃を受けたファッションデザイナーは?

木島デザイナー:「アンダーカバー」の高橋盾デザイナー。「『ボルサリーノ』のようなハットを少し凸凹させてほしい」と発注を受け、それを自分なりに解釈して作ったことがありました。それは今でも私の大好きなモデルの一つになっています。

「慢心せず、考え続けることが大切」

WWD:服とは違い無くても良いとされる中で、生き残ることができた要因は?

木島デザイナー:帽子という枠だけに留まらず、ファッションという大きな枠を意識してきたからだと思います。あとは「自分がまだまだ未熟者」と反省ばかりしていることかな。

WWD:経営者としての苦悩はあった?

木島デザイナー:本当に運だけです。自分たちだけでは絶対に続けることができなかったし、周りの人たちに支えていただきました。

WWD:ブランドを継続できる人とできない人の差をどう考える?

木島デザイナー:私は悪い意味で優柔不断。良い意味ではフレキシブルに色々なことへの対応ができました。ブランドの世界観は崩さず、それぞれの時代に合わせた商品を提案できるかどうかが大切だと思います。今は多様化の時代で、過去と比較することは難しいですが、短命では終わらないブランドづくりを常に意識し、自分からは一切営業をしないというやり方をしてきました。

WWD:理想とする帽子の被り方・合わせはあるか?

木島デザイナー:私は帽子が元々好きな人や似合う人には興味がありません(笑)。そういう人たちは自分が似合うものを知っているし面白くない。私は帽子が嫌い・似合わない人に対して「キジマ タカユキ」の帽子を勧めていきたいです。そういう人たちが喜んでくれるのが一番うれしい。100人いれば100通りの被り方があると思っています。

WWD:木島さんの技術・ノウハウを次の世代にどのように伝えていく?

木島デザイナー:私は手取り足取り教えることはしません。好きであったり興味があったりする人間は、見ている視点が違うので言わなくても出来るようになります。私は「作り方に正解はない」と考えています。率先して自分たちで「もっと良いものがないか」を模索していかなければ、彼らの成長は止まってしまいます。

WWD:コロナ後、コレクションの在り方は変わっていくと思う?

木島デザイナー:デジタルでは味わえない雰囲気や空気感は実際に行かないとわかりません。私はパリに行く度に、打ちのめされて帰ってきています。それが私の中ではとても重要だし肌で感じ取りたい。

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