国内の登山・アウトドア市場は2018年に5000億円を突破し、さらなる拡大が見込まれる(出典:矢野経済研究所『アウトドア市場に関する調査』2019)一方で、オーバーストアや供給過多なども懸念されている。しかし各社は一過性のもので終わらせないために、流行の先を見据えてさまざまな事業を始めている。(この記事はWWDジャパン2020年11月30日号からの抜粋に加筆しています)
東京・中目黒のセレクトショップ「バンブーシュート(BAMBOO SHOOTS)」は、1998年の開店以降ファッションとアウトドアの融合を提案し続けてきた。25歳で同店を託され、現在は統括部長を務める甲斐一彦は、アウトドアが街着として定着していく過程を最前線で見てきた一人である。名物店長兼バイヤーとして活躍した同氏は、現在のブームや今後のアウトドアファッションについてどう考えているのだろうか。
「壊滅的に売れなかった」壁を乗り越えて
WWDジャパン(以下、WWD):アウトドアファッションに興味を持ったきっかけは?
甲斐一彦バンブーシュート統轄部長(以下、甲斐):僕はもともとアメカジ少年で、ビンテージの古着が大好きだったんです。でも18歳のころに防水透湿素材で知られる「ゴアテックス(GORE-TEX)」を使ったマウンテンパーカとの衝撃的な出合いがあって、アウトドアの服に一気にのめり込んでいきました。価格が当時で約10万円だったので最初はめちゃ高くてびっくりしたんですけど、逆に(何がそんなにいいんだろう)と気になって調べていくうちに面白さに気づいたんですよね。
WWD:アウトドアウエアの面白さとは?
甲斐:僕の解釈なんですけど、ビンテージの服とアウトドアウエアって通じるものがあるんです。長いリブや着丈、パッチの付き方や年代によって作りが異なるところなど、調べれば調べるほど共通点があって面白かった。だからアウトドアの機能に引かれたというよりも、ビンテージの服を漁るのと同じ感覚でファッションとして服を買うことからスタートしました。
WWD:1998年にバンブーシュートをオープンしたころはすでに街でアウトドアウエアは流行していた?
甲斐:していましたね。原宿には「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」や「パタゴニア(PATAGONIA)」の服を着た若い人が多かったですし。その流行を意識して店を始めたので漠然とした自信があったのと、まだ若かったので「東京で一番いい店にしてやる」と意気込んでいたんですよ(笑)。実際に2年目までは売れたんですけど、デザイナーズブランドが徐々に流行して3年目で壊滅的に売れなくなっちゃった。
WWD:そのピンチはどう乗り越えた?
甲斐:オープン以来ファッションとしてアウトドアウエアを提案していたんですけど、それだけだと流行にどうしても左右されてしまう。生き残るためには、ギアとして本当に必要としている人に売る必要がありました。でもそこからですね、最高に楽しくなったのは。本気のアウトドアの人に買ってもらうために登山やキャンプにも行き、自分で機能を試しました。ギアを店に置き始めたのもそのころです。ただ、やっぱり根はファッションの感覚なのでギアは普通じゃないものを選んだし、外でかっこいい服を着たいからという欲求が最終的には勝つんですけどね(笑)。天気が悪いから着るというより、自分のお気に入りの服で外出して「雨降んねえかな」みたいな。
「アウトドアは今まで以上に定着していく」
WWD:アウトドアブームが落ち着いた後の市場の動向は?
甲斐:大体3年周期で売れたり売れなかったりする状態が続きましたけど、フェスブームは大きかったですね。「フジロックフェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」では、みんながビョーク(Bjork)やオアシス(Oasis)を雨の中でも見るために「ゴアテックス」製のウエアを当たり前のように着始めて、10年前ぐらいから徐々に浸透していった感覚です。それまで興味のなかった人たちがキャンプに行き始めたのもそのころでしたし。
WWD:今では競合の店や低価格のメーカも増えたが市場への影響は?
甲斐:確かにスポーツメーカーや他業種からの参入もあり、市場は大きく変わりました。でも特に思うことはないですね。僕らは昔と変わらず、意味のあるものを売り続けていくだけですから。それに僕は今、都会で自然を見つけて楽しもうという気分なんですよ。だから店の名前を付けたブランド「バンブーシュート」も21年春夏シーズンからリブランディングすることにしました。
WWD:リブランディングでどう変わった?
甲斐:“アウトドア生まれ、中目黒育ち”みたいな服です。アメカジベースの服にアウトドアのディテールを融合し、これまで以上に着やすさにこだわっています。アウトドアウエアでもベーシックなアメカジでもないものを目指して30型作りました。これまで店長やバイヤーは経験してきたけど、服をデザインしていたわけではないからまあまあ大変でした(笑)。あくまでショップオリジナルのブランドではなく、卸も積極的に広げていきたいです。
WWD:アウトドアブームは今後も続くと思う?
甲斐:東京の一極集中が進めばブームは続くんじゃないですか。街がハイテク化すればするほど、人は自然が恋しくなるのが普通のことです。今回のブームを機に多くの人たちにアウトドアを楽しんでほしいし、一つの遊びとして今まで以上に定着していくと思います。最近は店に若い人も来るみたいですし、アウトドアを楽しむ層の世代交代も進んでいるんでしょうね。