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岐阜発の高級美顔器が中国で人気沸騰 年商は3年で10倍の300億円に トップが語る「成功の方程式」

 中国の巨大セール「独身の日(W11)」で、日本の中小メーカーが一際大きな売り上げを残した。岐阜県羽鳥市に本社を構えるアーティスティックアンドシーオー(ARTISTIC&CO.)は、1台10万円の高級美顔器でポジションを築き、今年の独身の日期間には前年比150%増の30億円を売り上げた。自社で本格的に展開を始めたのは昨年5月、中国最大のECサイトTモール(天猫)で海外旗艦店をオープンしてからだが、今や約8割が中国の売り上げで、年商はこのわずか数年で10倍の300億円に達したという。なぜ地方の中小メーカーが中国で爆発的な成長を遂げられたのか。

 アーティスティックアンドシーオーはエステサロン向け美容機器の製造・販売会社として2008年に設立し、2010年から小型の家庭用美顔器「ドクターアリーヴォ(Dr.Arrivo)」を販売開始した。現在中国で絶大な人気を誇るのも、この「ドクターアリーヴォ」の商品だ。中国には2013年頃から代理店を通じて卸していたが、在日中国人の口コミやソーシャルバイヤー(代購)の転売が増えたことなどをきっかけに、2016年頃から本格進出を検討。2018年には自社主導で中国でのプロモーション活動をスタートした。

 まずはKOL(Key Opinion Leader、インフルエンサーのこと)による拡散で認知度を向上するプロモーションを実施。実際の愛用者を中心に、KOL数百人を招待した豪華な発表会も行ったという。さらにブランド名が広まると、今度は高級製品としての価値を伝えるべく、有名女優をアンバサダーに起用した。今年はウェイボー(Weibo)で1308万フォロワーを持つ張雨綺(キティ・チャン)をグローバルアンバサダーに起用している。

 多くの場合、中国外の企業はこういったプロモーション活動を中国企業に一任するが、アーティスティック&CO.は自社で企画している。金松月(きん・しょうげつ)取締役は「必要な場合にそれぞれ外注するため、一貫性がないと見えるかもしれない。しかし市場を見て感じたこと、お客の声を聞いて思ったことを都度実行できるため、お客が求めるものを提供できる」と利点を語る。

 同社はプロモーションのみならず、商品の企画から製造、販売も自社で一貫している。今年9月には、これまで分散していた研究開発や製造、物流、営業の国内オフィスを一か所に集約した。営業らと密な連携をとり、顧客の細かいニーズを研究開発に反映していくためだ。さらに製造工程から物流拠点までを一体化することで、高品質な製品を、小ロットから素早く届けることも可能になった。

 近藤英樹社長はこの一体化について「中国市場は日本と全く異なる市場。変化が早いので、日々顧客と対話してどんどん新製品を開発し、すぐ販売することが大切だ」と語る。中国では模倣品も課題の一つだが、その対策としても開発スピードは重要で、「真似できない技術を開発していくことは重要だが、それでも時間が経てばコピーされてしまう。だから次々に作っていく必要がある」という。

 そのスピード感は日本市場でも生かされている。同社は新たな施策を行う際は最小限の費用で小さくテストするというが、12月12日には日本でのライブコマースの第一歩として、リアルイベントと連動したインスタグラムライブを配信。金取締役によると「実際の購入にもつながるなど手応えを感じた」といい、次回配信をすぐさま決定した。次は大晦日の23時から元旦にかけての24時間配信を予定している。

トップKOL頼みのライブコマースから方針転換、その理由は?

 中国市場で注力するライブコマースも、経験を元に方針を変えてきた。昨年半ばにライブコマースでの販売を開始した際には、トップKOLの薇娅(Viya)や李佳琦(Austin)らに販売を依頼した。しかし、一瞬で莫大な売り上げが立つ反面、返品も多かったという。「冷静でない状態で購入を決断していること、また短い紹介時間で製品の価値を理解仕切れていないことが原因ではないか」と金取締役は振り返る。また一時的にセール価格で販売することで、その後の売り上げにも響いたという。

 そのため、現在は自社でのライブコマース配信がメイン。現地社員による毎日の配信に加え、本社の自社スタジオからも週2回配信している。KOLへの依頼も、より熱心に商品説明をしてくれる中規模のKOLが中心だ。最も重視するのは「価値の発信」だと金取締役は力説する。「中国の消費者からは日本ブランドというだけでも信頼は得られるが、ポジションを確立するためには、商品を売るのではなく『価値を売る』ことが重要だ」。

 そのためライブコマースでの配信や中国SNSの小紅書(RED、Xiaohongshu)、ウェイボーなどを通じて、製品情報だけでなく美容知識や、時には他社製品の紹介など、ユーザーの勝ちとなる情報を配信している。

 本格進出にあたって大物女優の起用や発表会などに投資をしてきたが、近藤社長は「KOLらの起用も、既に利益を上げた中から、必要な箇所のみに投資してきた」とリスクとは捉えなかった。適切な投資でブランド価値を高めたことで、現在はKOLによる口コミ投稿も自然に生まれるようになり、中には自ら志願して本社見学に訪れるKOLもいるという。

成功の鍵はメイド・イン・ジャパン品質と経理の社員?

 こういった成功の裏には、いち早く中国市場に商機を見出した金取締役の活躍があった。実は2015年に経理の一社員として入社した金取締役は、中国語が話せることから展示会の中国人対応を任された。「その時にお客の反応がとても良く、中国でも売れるのではないかと可能性を感じた」といい、本格進出を猛プッシュ。当時の中国での取引量は現在の成功には程遠いもので、近藤社長もその先見の明には「中国市場は中国の人でなければできない」と唸る。

 こうした個人の活躍が生きたのも、土台となる製品あってこそ。近藤社長は「成功するには技術力は欠かせない。当社の美顔器は肌に触れる部分が特許技術を用いた24金加工で、何度使用しても剥がれない。こういうところは使っていくうちに分かるコピー品との大きな違いで、真似られないオンリーワンの技術だ」とメイド・イン・ジャパンの品質を強調する。真似されない確かな技術力と中小企業ならではの一体感が合わさったことで、変化の激しい中国市場で成功を収めた。

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