中国発のスポーツアパレル、シューズブランド「リーニン(LI-NING)」は、9月に行われた2021年春夏パリ・ファッション・ウイーク(パリコレ)でデジタルショーを開催した。「リーニン」は中国で“体操王子”と親しまれてきた国民的体操選手、李寧(リー・ニン)が1990年に創業し、これまでに多くのアスリートの活躍を支えてきた。すでに中国では、1、2を争うスポーツブランドとして地位を確立している。18年には海外市場を視野に入れ、コレクションラインをスタート。同年、ニューヨーク・ファッション・ウイークに初参加した。コロナ禍でのパリコレは、中国の気鋭メディアアーティスト、ルー・ヤン(Lu Yang)とモーションキャプチャーを用いたムービーを制作。ショー前日には渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンをジャックして、ティザームービーをゲリラ放映した。「リーニン」の潜浅ブランドディレクターにパリコレを振り返ってもらい、今後の展望について聞く。
WWD:ルー・ヤンとの協業の経緯は?
潜浅ブランドディレクター(以下、潜):2021年春夏シーズンは、スポーツとアートを包括的に考える“The Art of Movement”をテーマにした。私たちはアートをライフスタイルとスポーツを繋ぐ重要な要素として捉えており、このテーマにはアーティストとコラボレーションし、「アーティストの視点で作るスポーツ」という意味を込めている。ルー・ヤンは中国を代表するメディアアーティストの一人だし、人体の動きや身振り、所作について研究するとともに、これまでも中国カルチャーをテーマにした作品を制作してきた。それがコラボレーションをする上での決定的なポイントになった。
WWD:ブランドとアートの取り組みについて、詳しく教えてほしい。
潜:「リーニン」は中国発のプロスポーツブランドとして、中国文化の伝承を社会的な責任と考えている。近年はさまざまなアーティストやデザイナー、人気ファッションブランドとのコラボレーションを通して、若い世代とのコミュニケーションを重ねてきた。19年からはパリの美術館「ポンピドゥー・センター」と3年間の戦略的パートナーシップを結び、アート交流プロジェクトを立ち上げた。今やアートは、プロスポーツブランドにとっても欠かすことができないアイデアソースの一つだ。私たちは芸術作品を作るのと同じような気持ちでプロダクト生産に挑んでいる。
WWD:渋谷のスクランブル交差点でビデオを公開した理由は?
潜:日本はアジアにおける重要な市場の一つ。日本の消費者によりよい場所で、中国発のスポーツブランドへの理解が深まることを期待して、ファッションとカルチャーの発信地である渋谷を選んだ。
WWD:現在の中国国内のビジネスの状況は?
潜:「リーニン」は中国を代表するスポーツブランドとして、すでに多くの消費者に認知されている。とりわけ、ミレニアル世代がわれわれのメインの消費者というのが強みで、このような状況は今後も中国国内市場において続くだろう。世界規模でさまざまなアーティストやデザイナー、ファッションブランドとのコラボレーションを行い、時代に合ったマーケティングモデルに転換していくことが、今後の成長のカギを握ると考えている。
WWD:海外のビジネスの状況は?
潜:18年に初めて参加した「ニューヨーク・ファッション・ウイーク」以降、インターナショナルなファッションショーや展覧会への参加、ハイファッションブランドとのコラボレーションを通して、「リーニン」の影響力は急激に高まったと実感している。19年秋冬コレクション以降は、日本やヨーロッパなどの有名ブティックやセレクトショップとのコラボレーションを行ってきた。その中には、「キス(KITH)」や「エッセンス(SSENSE)」「エンド(END)」「セルフリッジズ(SELFRIDGES)」といった世界的な知名度を誇る小売店もある。
WWD:日本市場をどう見ている?
潜:日本はファッションやトレンド、デザインの中心であり、そのマーケットは積極的で活発だ。長い間、潜在的なニーズのある日本市場への参入を望んでいた。中でもファションの動向や流行に関心の高い若い世代の消費者に、われわれのブランドをアピールしたい。これまでも「アトモスコン(ATOMOS CON)」(アトモスが主催するスニーカーコンベンション)への参加や日本のカルチャーシーンをけん引するブランド、デザイナー、小売店とコラボレーションしてきた。近い将来、このようなコラボレーションの機会はさらに増えるだろう。日本市場においても今後ますます期待してほしい。