ファッション専門学校のエスモードジャポン東京校は先ごろ、中里唯馬「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」デザイナーを迎えてオンラインによるセミナーを行った。
「コロナ禍で時代や価値観がドラスティックに変わる中、デザイナーが今とどう向き合い、どんな提案をできるのか。夢や希望が持てるわくわくする話がしたい」と、“新しい時代のデザイナーズブランドの在り方”“捨てる服、捨てられない服”などをテーマに、自身が挑む実験的な服作りやパリ・オートクチュール・コレクションへの挑戦などについて熱弁を振った。そして約1時間の講演の後、エスモードジャポンの学生の質問に答えた。その内容は、以下の通り。
Q:デザイナーになりたいと思ったきっかけは?
中里唯馬(以下、中里):服になんとなく興味を持ったのは小学生のころ。おしゃれをすると周りの人からほめられたり、自分が大切にされているような気持ちになったので。中学生のときもファッションを楽しみましたが、高校生のときは店で販売されている服だけでは物足りず、古着やウィメンズの服をリメイクするなどして楽しみました。そして高校時代のある日、後に留学したアントワープ王立芸術アカデミーの存在を新聞記事で知りました。それから海外のモードに一気に目が向き、服は着るものだけでなく、服で自分を表現する素晴らしいデザイナーが世界にたくさんいることを知って、ファッションにどんどんのめり込んでいきました。そこがファッションを目指すようになった原点です。私は、何でも直感的に突き進む性格なのです。
Q:デザインのインスピレーション源は?
中里:日常生活の中の経験や体感から生まれること多い。自分が興味を持っていること、違和感や疑問とか何でもいい。感じていることに対してセンシティブに向き合い、自分と対話することがインスピレーションにつながります。思いつかない人は、1週間、気になったことを毎日メモしてみましょう。書きためたキーワードを並べてみると、なにかしらの方向性や答えが見えてくるのでおすすめです。
Q:趣味からインスピレーションを受けることはある?
中里:趣味がないことが私の悩みでした(笑)。しかし、自宅とアトリエの片道10キロを自転車で往復するようになり、毎日、気温や天候に合わせて着る服を考えるようになったことが面白くなりました。電車やタクシーを利用していたときは気にしなかったことです。自転車通勤は気持ちいいし、CO2を排出していないと思うと、ちょっといいことをしている気分になってハマっています。これが、モチベーションやインスピレーションになっているかもしれません。
Q:デザイナーとして活躍するには才能が必要?自分の努力だけではどうにもならない?
中里:自分に才能があるかはわからないかもしれませんが、“自分には才能がある”と思い込むことはできる。そう思い込むことで、才能が生まれてくることもあります。また、自分の中にわいてくる不安感やプレッシャーを押しのけて突き進むエネルギーを持つことも大事です。どんなに才能があるデザイナーでも不安感やプレッシャーを感じ、それをはねのけてこれたからこそ今がある。完成度が高い哲学を持つブランドは時代を超えられます。不安感を抑える技術は、トレーニングで何とかなるもの。不安になったら、いったん立ち止まって冷静に考え、心の波をつかみましょう。私は、小さなチャレンジを繰り返しながら、自分が元気になれるカンフル剤をいくつもためています。不安を感じたら、そのカンフル剤を使って不安に打ち勝っています。
Q:デザイナーを目指す学生にアドバイスを。
中里:時代の流れなど周囲の環境を気にせず、自分が作りたいと直感的に思うものを素直に表現することが大事です。自分が美しいと信じて作れば、必ず共感してくれる人がいる。歴史に名を残すデザイナーはトレンドより、自分の内面から湧き出るものと時代の空気感をうまくミックスして変化しながらも、変わらない自分らしさをバランスよく貫いている。私も学生時代からそれを意識しています。目標を持つことが、一番の原動力です。ベルギー留学もパリ・オートクチュール挑戦も、自分がやりたいと素直に思ったことで、英語の勉強など下準備もせず興味と直感で突き進みました。資本力や知名度が低くても、独自の視点やアイデアで力の差は埋められる。自分の身の丈より少し上の目標を飛び越えていくことを意識しています。いばらの道になることが多いのですが(笑)、そこから見えてきたものがたくさんあるし、自分の作った服が歴史を変えるかもしれないと思うと苦労を忘れてわくわくします。小さな作品の発表でもいい。みなさんもアクション、チャレンジをしてみましょう。