ファッション

“若手の登竜門”「第35回イエール賞」でデビューした新星に心奪われる セリーヌ・シェンを見逃すな

 10月に開催された「第35回イエール国際フェスティバル(35e Festival International de Mode, d’Accessoires et de Photographie à Hyères以下、イエール賞)」に参加してきました。同フェスティバルは“若手デザイナーの登竜門”として知られており、毎年4月に行われています。しかし今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により10月に延期され、さらにフランスへの渡航者も少ない状況での開催となりました。ファイナリスト10人はプレゼンテーションやランウエイショーによる審査に臨みましたが、審査員長のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)をはじめ、ジャーナリストのティム・ブランクス(Tim Blanks)やモデルのカイア・ガーバー(Kaia Gerber)ら審査員の姿は会場になく、テレビ電話を通して審査が行われました。

 そんな異例の状況でグランプリに輝いたのは、ベルギー出身のトム・ヴァンデル・ボルクト(Tom Van Der Broght)でした。来場者の投票による市民賞(Public Prize City of Hyères)もダブルで獲得しました。昨年は全ての受賞者を的中させましたが、今年はことごとく外れでした……。グランプリのトム・ヴァンデル・ボルクトはファイナリストの中で最もサイケデリックで異彩を放っており、芸術作品という印象が強かったです。クリエイションに対する純粋な情熱は熱いほど伝わり、審査員からもその点が評価されたようです。

才能の片鱗を見せたフランスの新星

 個人的には、セリーヌ・シェン(Celine Shen)の作品に心を奪われました。フランス出身の彼女はパリ国立工芸学校でファッションデザインを学んだ後、「メゾン アライア(MAISON ALAIA)」でインターンシップを経験し、「イエール賞」に応募した今回がファーストコレクションです。「時代を超越した機能的なデザインを目指し、自分を解放して飛び立たてるような洋服作り」が彼女の哲学だと言います。コレクションはトルソー(フランスの古風な嫁入り衣装)から着想し、白と黒のモノトーンにゴールドのメタルを組み合わせていました。18世紀のドレスの襟や袖口を解体して取り外し可能なデザインとして盛り込み、それらを繊細な紐やチェーンで編んで繋ぎ合わせます。ドレスやロングシャツの円形状のシルエットは針金で形成されており、18世紀のロココの片鱗が見られました。特にハットやバッグなどのアクセサリーはコマーシャルピースとしても完成度が高かったです。賞は獲得できなかったものの「『LVMHプライズ(LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ)』に挑戦したい」と次の目標に向けて目を輝かせていました。

 過去のイーエル賞グランプリ受賞者には「サン ローラン(SAINT LAURENT)」のアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)や「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」のジュリアン・ドッセーナ、「ケンゾー(KENZO)」のフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)らが名を連ねています。2年前には「ボッター(BOTTER)」のルシェミー・ボッター(Rushmey Botter)とリジ―・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)が受賞後間もなく「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティック・ディレクターに抜擢されており、「イエール賞」はますます注目を集めています。昨年の受賞者も着々とステップアップしており、グランプリ受賞者であるクリストフ・ランフ(Christoph Rumpf)はパリでブランドを始動する予定ですし、特別賞を獲得した日本の「リコール(REQUAL)」は2021年春夏の「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」に参加しました。ショーをオンラインで見て、パワーアップした独自の世界観にワクワクしました。若手デザイナーの純粋な情熱と無限の可能性がファッション業界の未来を明るく照らしているようで、私にとって前向きなエネルギーを受け取れた「イエール賞」でした。

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