通年で襟のある服を着る。相手に失礼があってはいけないと考えるからだ。体感が40度を超える真夏のビル街でもそれは変わらない。俄然、アロハシャツが真夏のユニホームの本命となる。つまり東京が熱帯化する4月から10月くらいまで、僕のアロハシャツ着用率は急上昇する。もはや1年の半分以上だ(笑)。しかし、僕以上にアロハシャツのことを考えている人がいることを知った。1999年に沖縄でアロハシャツ専業ブランドとしてスタートした「パイカジ(PAIKAJI)」の吉田康秀チーフデザイナーオフィサー(以下、CDO)のことだ。
WWD:コロナ禍で当社も引き続きリモートワーク中で、2020年はさすがにアロハシャツを着る機会が減った。事業に悪影響は?
吉田康秀「パイカジ」CDO(以下、吉田):ビデオ会議システムを使ったコミュニケーションの増加により、一方でコロナ疲れにより、7~8月はオンライン会議でも夏を意識したアロハシャツを着ようという機運が高まった。そのため、悪影響は最小限にとどめられた。また開襟シャツは沖縄では、かりゆし(“縁起がよい”の意)ウエアとしても認知されており、襟があることで礼節も保てると人気だ。
WWD:「パイカジ」の顧客層について教えてほしい。
吉田:9割が男性客で、中心となるのは40代後半~50代前半のいわゆる“サザン世代(カラオケでサザンオールスターズやチューブを歌う世代)”。プロダクトは100%日本製で、主に沖縄・豊見城市にある自社工場で作っている。平均単価は1万7000~8000円だ。
WWD:アロハシャツを日本生産するブランドはほかにもあるが、「パイカジ」の特別性とは?
吉田:色と構図だ。それらは目から入る情報で、脳科学者いわく脳に与える影響が最も強い。僕は、「パイカジ」のウエアを通じてストレスフリーになってほしいと本気で考えている。またマイナーチェンジはあるものの、アロハシャツの形はほぼ決まっており、感覚的にはキャンバスに近い。だから僕は図案のことを1年中考えている。風景や映画を見ても、アロハシャツの図案に結び付けてしまうのは職業病と言えるだろう(笑)。アロハシャツに関連するものであれば、書籍でもレコードでもとりあえず手に入れてしまう。
WWD:「パイカジ」で図案を考えるのは主に吉田CDOである?
吉田:8割ほどを僕が考える。半期に30~40の候補を出し、そのうち10~15が採用される。3、4の定番柄はあるものの、毎シーズン図案は入れ替わる。
WWD:クリエイティブにおいて吉田CDOが最もこだわる点は?
吉田:アロハシャツの場合、モチーフにはある程度パターンがある。だからこそ色と構図が重要となる。過去に「ドラゴンボール」や「機動戦士ガンダム」とコラボしたこともあるが、そこでも色と構図に注力した。
WWD:アロハシャツは夏の商材だが、冬の活動は?
吉田:変わらない。ありがたいことに、真冬でも那覇・国際通りの直営店や自社ECで「パイカジ」を購入される方は多い。ジャケットのインナーに着たり、さらにその上にコートを重ねたり。こだわりが強い人がリピーターになってくれている。
WWD:13~18年まではイタリア・フィレンツェで開催されるメンズファッション最大の見本市、ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMAGINE UOMO)にも参加した。
吉田:その甲斐あってドイツやデンマーク、スウェーデンにも卸している。「マリメッコ(MARIMEKKO)」に代表されるように、冬が長くつらい北欧の人はファブリックにハッピーを求めるのかもしれない。それも意識して、冬物も“あまり冬っぽくしないこと”を心掛けている。
WWD:国内の主な販路は?
吉田:銀座・和光やディストリクト ユナイテッドアローズなどだ。意外かもしれないがアロハシャツメーカーにとっては12~3月が最も忙しい。夏に向けての仕込みもあるし、営業活動が重なるからだ。
WWD:世の中は引き続き混迷を極めるが、21年に向けた「パイカジ」の抱負とは?
吉田:引き続き着る人、そしてそれを見る人がハッピーになる図案を作りたい。そのためには僕自身が、日常の中でアンテナを思いっきり立ててハッピーの種を見つけられるよう努力しなければならない。