ファッション

パリコレを陰で支えたヘアメイクや写真家が明かす舞台裏 激変する環境下で闘うプロたち

 新型コロナウイルスの影響により10月に行われた2021年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウイークはデジタルとリアルの両軸で開催された。スポットライトを浴びる華やかなショーの裏側には、その舞台を陰で支える多くのプロたちがいる。ショーを通じてファッションが持つ夢の力を届けながら、クラスターを発生させることなく無事に閉幕できたのは、彼らが細心の注意を払って仕事をしたからこそである。10月のパリコレは例年と比べて何が違い、舞台裏では何が起こっていたのか。ヘアスタイリストやメイクアップアーティスト、カリグラファー、フォトグラファーに聞いた。

ニコラ・ウシュニール/カリグラファー
コレクション仕事激減を機に新たな分野に挑戦

Q.ファッション・ウイークでの主な活動内容は?

A.ブランドが発送するショーの招待状に住所や名前、座席を手書きするカリグラファーとして17年前から活動しています。毎シーズン、パリコレに参加するほぼ全てのブランドと仕事をしていて、1シーズンに約6万枚の招待状を書いていました。

Q.今季は仕事内容がどのように変化した?

A.多くのブランドがデジタル発表に切り替えたため、仕事量は大幅に減りました。リアルのショーを開催したブランドも電子メールでの招待状に変更したり、招待客を減らしたりしたため、今季書いた招待状は約2000枚。これまで招待状としてガラスやレザーなどをさまざまな素材が使われていましたけど、今季はシンプルな紙の素材が多かったです。

Q.今後のファッション・ウイークに期待することはあるか?

A.今季はパーティーやイベントも自粛だったのでパリコレらしくなかったですね。早く安全が確保されて、活気に満ちたファッション・ウイークが戻ってくることを願っています。僕の仕事は減ったけれど、建築やインテリア、フードなどモード界以外で活動の幅を広げていて、パンデミックを機に新たな分野にどんどん挑戦していきたいです。

前田麻美/ヘアスタイリスト
テーブル間の仕切りで作業は1人きり

Q.ファッション・ウイークでの主な活動内容は?

A.ショーのバックステージでヘアスタイリングを手掛けています。10年前からパリコレに参加し、最も多いシーズンで4都市で40ブランドのショーに携わりました。ここ数年はショーに招待された著名人のヘアスタイリングを行うことが多くなりました。1シーズンに4〜5人の女優を担当し、多数のショーに出席する場合はヘアチェンジを含めて8〜12時間張り付くこともあります。

Q.今季は仕事内容がどのように変化した?

A.フランス以外からの著名人が渡航を自粛したため、今季はリアルのショーを実施した「エルメス(HERMES)」と「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のバックステージで仕事をしていました。

Q.バックステージの変化は?

A.メイクとヘアを行う各テーブルの間は透明のアクリル板で仕切られていました。通常ならヘアを複数人で仕上げるのですが、その仕切りによってスペースが縮小されたため1人で作業しました。バックステージでは常時マスク着用が義務化され、会場に到着するとブランドが用意したマスクに付け替えるという徹底ぶり。モデルもショーが始まるギリギリまでマスクを着けていたため、メイクアップアーティストは直しが何度も必要で大変そうでしたよ。バックステージの様子を写真撮影するのは通常時でも禁止されていますが、今季は注意書きの紙が配られたり、スタッフが見回りチェックしたりするほど特に厳しかった。ケータリングの食事がいつものビュッフェ形式ではなく、個別包装された軽食を各自が注文して受け取る形式で、行列ができていたのも今季を象徴する光景でしたね。

Q.今後のファッション・ウイークに期待することは?

以前のようにリアルでショーを開催することが難しくなったけれど、各ブランドがデジタルで世界同時配信する様子にパワーをもらいました。今後はフロントローのような臨場感を味わえなくても、シーズンテーマやブランドの世界観、素材の質感、そこに携わるヘアメイクの繊細なこだわりを伝えていけるようなショーやプレゼンテーションが増えてほしいなと期待しています。

長嶋加奈/メイクアップアーティスト
いつもより空間が広く快適に

Q.ファッション・ウイークでの主な活動内容は?

A.メイクアップアーティストとしてショーのメイクを手掛けています。2012年1月に初めてアシスタントとしてパリコレに携わり、16年9月からはメイクアップアーティストとして参加し続けています。ロンドンとミラノ、ニューヨークのファッション・ウイークでも仕事をし、多いときで25ブランドのショーを担当しました。パリでは一番多いシーズンで10ブランドを手掛けました。

Q.今季の仕事内容は?

A.ミラノで「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の3ブランド、パリで「ディオール(DIOR)」「クロエ(CHLOE)」「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」「エルメス」「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の6ブランドに参加しました。

Q.バックステージで見られた変化は?

A.ブランドによっては事前に新型コロナウイルス陰性の検査結果の提出や、健康状態に関する書類にサインを求められました。会場に入るときにはFFP2マスク(FFP2はヨーロッパが定めたEN規格に適合したマスクで、日本の防じんマスクのDS2に相当するもの)や医療用マスクが配られました。各テーブルには自分専用の消毒ジェルとフェイスシールドが用意されており、メイク用具には常時アルコールスプレーをかけるなどそれぞれが自己責任で万全の注意を払っていました。通常時のパリコレのバックステージは狭く密集状態で、1テーブルを2〜3人でシェアするような状態が当たり前でしたが、今季は感染対策で空間が広くなり、1人1テーブルや2人で大きいテーブルを使うなど、いつもより快適に仕事ができましたね。

Q.今後のファッション・ウイークに期待することはあるか?

A.10月は開催されるのかギリギリまで懸念されていたましたけど、各方面の努力で無事に開催されたのはうれしかった。やはりファッションショーは私にとって季節の変化を感じられるビッグイベントであり、ファッション・ウイーク中には世界各国の人と会うことができる貴重な機会ですから。来季以降も無事に続けられることを祈っています。

アシエル・タンベトヴァ/「STYLE DU MONDE」主宰、フォトグラファー
たった1人の「シャネル」バックステージ撮影

Q.ファッション・ウイークでの主な活動内容は?

A.2008年にアントワープでストリートスタイルを撮影し始め、その後すぐにパリコレにも参加して世界各国へと活動範囲を広げました。現在も各国のファッション・ウイークでストリートスタイルやバックステージを撮影しています。

Q.今季は仕事内容がどのように変化した?

A.渡航制限のため、ミラノとパリでしか撮影を行えなかったんです。ニューヨークとロンドンには参加できず、私の長年のルーティーンが崩れたのは初めて。

Q.今季の現場で見られた変化は?

A.通常のスケールとは異なっていたけれど、仕事が継続できたことはとてもうれしかった。 会場の外で待ち構えるフォトグラファーの人数や、招待されるゲストも明らかに少なかったですね。でも、そのおかげで私たち全員がいつもより安全な環境で仕事をすることができました。マスク着用の義務にはみんなが従い、ガイドラインを可能な限り守ろうとする姿勢が見られました。 バックステージは各ブランドの安全対策がとても厳しく、わずかな人数のフォトグラファーしか入場を許可されていませんでした。「シャネル(CHANEL)」は私1人だけでしたから。

Q.今後のファッション・ウイークに期待することは?

A.2021年は正常通りに戻ってほしいですね。

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