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〜立ち上がれ!産地の若者たち 後編〜 一着の半纏に込める思い 長野の縫製工場で働く櫻井さんの挑戦

 海外製のファストファッションやSPA(製造小売業)アパレルの台頭により、国内の繊維産地は衰退傾向にある。そのような中、産地では若い人材が中心となって新しいビジネスチャンスを生み出そうとする取り組みも生まれている。( 前編はこちら
 
 シャツメーカー、フレックスジャパンは豊かな緑に囲まれた長野県千曲市に本社と自社工場を構える。ここで若手社員主導による、新たなアパレルブランドのプロジェクトがスタートしようとしていた。プロジェクトリーダーの櫻井太河さん(32)は机に広げたウール生地のスワッチ見本を一枚一枚丁寧にチェックする中、ふとその手を止めた。上質なつやと滑らかな質感を併せ持つその生地は、他のどれよりも理想的だった。「こんなリサイクルウールがあるのか」。衝撃を受けた櫻井さんは、この生地が尾州の毛織物卸業・大鹿(愛知県一宮市、大鹿晃裕社長)の“毛七”であると知ると、すぐに同社と提携する毛織物工場に向かった。

 フレックスジャパンは創業(1940年)から国内量販店、百貨店、セレクトショップなど幅広い取引先に良質なシャツを提供してきた。櫻井さん自身、大学卒業後は東京のセレクトショップの販売職についたが、服そのものの生産背景への興味が高まり、結婚を機に同社への転職を決めた。与えられた役割は生産管理と海外向け販売。モノづくりに携わる喜びを感じながら仕事をする一方、苦しみも味わった。外国製品に押されて需要は右肩下がり。自分たちのこだわりや提案よりも、納期の厳しさから目の前の難題を“こなす”ことで精一杯な毎日。このままでいいのか――。そんな危機感が、櫻井さんを新しい挑戦へと突き動かした。

 櫻井さんが中心となって20年夏に立ち上げた新ブランド「コドウ(CO:DO)」は、若手社員6人が主体となって運営。櫻井さんが提出した稟議書がきっかけで社内新規事業コンペが開かれることになり、全11案の中で1位を獲得してテスト事業化にこぎ着けた。ブランドはサステナビリティと伝統産業の融合がテーマ。中長期では正式な事業化を目指すが、「まずはブランドをきっかけに自分たちの会社、長野という地域を広く知ってもらうきっかけにしたい」(櫻井さん)という。
 
 櫻井さんは大鹿の彦坂雄大さん(32)との出会いを「腹の底ではお互い似たことを考えていたのが分かったし、歳も同じで不思議な縁を感じた」と振り返る。「トレンドは東京のアパレルメーカーやデザイナーだけが作るものでいいのか。これまで下請けだったわれわれが、(生産の)川上や川中から面白いことを仕掛けていけば、日本のファッション産業全体をもっと面白くできるはず」。そんな櫻井さんの熱意に彦坂さんも心を動かされ、協業が決まった。
 
 第1弾として発売するのは“ジャパニーズショートコート”。いわゆる半纏(はんてん)だが、“毛七”のダブルフェイスメルトンを使用することで防寒性、見た目の上質さを確保。中綿を使用しないことでスマートなシルエットに仕上げ、ホームウエアとしてはもちろん、よそ行き着としても使える1着を目指した。ボタンは長野県の伝統工芸品である松代焼を、包装紙には和紙の内山紙を使用するなど、ディテールにもこだわった。
  
 12月21日から地元銀行などが運営する地元密着型のクラウドファンディングのプラットフォーム「CF信州」で資金調達を開始し、すでに70万円近くの支援金が集まっている(12月末時点)。「コドウ」はシーズンにとらわれず2カ月スパンでの新作ローンチを計画し、第2弾として、袈裟(けさ)をモチーフにしたバッグの企画を進めている。「自分たちの活動は、日本のアパレル産業全体から見ればほんの小さなもの。だがこの活動をきっかけに、日本全国の産地にいる若手たちがアクションを起こすきっかけになればうれしい」

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