※この記事は2020年10月2日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
ラフ・シモンズと私
ラフ・シモンズが加入した「プラダ」は、胸元で握りしめたケープにより“未だベールに覆われている”感もありますが、「これから楽しみ!!」なカンジになりました。トライアングルのモチーフや素材使い、ミニマルなムードは「プラダ」のまま、ますます顕著になったアート志向や工業的デザインはラフ・シモンズの得意技。まさにミウッチャ・プラダとラフ・シモンズ、2人の共同クリエイティブ・ディレクターがイーブンな立場で働いたコレクションだなぁ、と痛感しました。以後、素敵なマリアージュになりそうです。
とっても嬉しかったのは、コレクションの直後に公開した、ミウッチャ・プラダとの対話で笑顔を見せたことでした。
10年以上前になりますが、彼には一度、まぁまぁな長さのロングインタビューをしたことがあります。ちなみに以後は、バックステージでショートインタビューを1回、日本で1回、残りの突撃は玉砕続きです(笑)。
パリで発表した「ラフ・シモンズ」のコレクションについて、パリメンズが終わった翌日、ショールームに赴きました。「ジル サンダー」のトップも手掛けていた頃のお話です。「ジル サンダー」の香水に関する打ち合わせで遅れているとのことで、2時間くらい待った記憶があります。そして今はもうそんなコトありませんが、当時の「ラフ・シモンズ」は、ショールームでも「サンプルを着ちゃダメ」なブランドでした。撮影なんて、もってのほかです。今だったら「そんなバカな!!」と反論の1つも試みるでしょうが、当時はまだビビっていました。ただひたすらに彼を待っていた記憶があります。2時間遅れのラフは、開口一番「Tired(疲れた)」と呟き、ますますビビります(笑)。「君は、僕に会うには若すぎる」的なジャブも繰り出され、「いや、もう30過ぎてます」と返すと「そうか。驚いた」との答えでした。今思えば、ジョークだったのでしょうか?
振り返れば、もっとも緊張したインタビューの1つです。もはや内容はほとんど覚えていませんが、「イーストパック」とのコラボレーションが始まり、多くのモデルが巨大なバックパックを担いで、ケミカル・ブラザーズの「ALL RIGHTS REVERSED」をBGMにランウエイを闊歩したシーズンでした。インタビューで最後に「あなたなら、あの巨大バッグに何を入れて、どこに行く?」と聞くと、「夢だよ。少年はいつも夢でいっぱいなのさ」と笑って返され、胸を撃ち抜かれました。
以来、世間はミニマリストと評する、彼の人間臭さが大好きです。「ジル サンダー」のラスト・コレクションでの号泣、映画「ディオールと私」で垣間見せたプレッシャー、そして早々に破談となった「カルバン・クライン」を去った直後に見せつけた怒りに溢れるコレクション。感情をグラフ化したら乱高下していた印象の彼が、ミウッチャとの対談で見せた笑顔に、新たな時代の訪れを勝手に感じたのです。
10歳の子どもからの「ファッションデザイナーになりたいんだけど」なんて質問にもにこやかなラフを見て、「自分もずっと、こんな風に笑える人でありたい」と思いました。それが、豊かな人生の秘訣ですよねぇ。最近、非常にバタバタしており、心の余裕をなくしかけておりました。あらためなければ!
ということでワタクシ、本日はお休みをいただきます。ので、来週月曜日のお手紙はありません!長々、「週明け、お手紙を休みます」というお手紙をお送りしてしまいました(笑)、ゴメンなさい。次回は、水曜日。夏休みはまだ消化しきっていないので、どこかでまた会社を休み、お手紙もお休みするかもしれません。悪しからず、です。
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