※この記事は2020年11月24日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
「サステナビリティ サミット」の裏テーマは「モードって何?パート2」。
その理由を川崎和也さんと語る
みなさん、こんにちは。今回のレターはゲストを迎えたインタビュー形式でお送りします。「WWDジャパン」は12月1日に、無料オンラインイベント「サステナビリティ サミット第1回~これからのイノベーション、クリエーション、コラボレーション~」を開催します。今日登場いただくのは、このサミットの登壇者でもある川崎和也さん。川崎さんは正確な肩書きが3つあります。スペキュラティヴ・ファッションデザイナー、デザインリサーチャー、シンフラックス主宰。謎めいていますよね。実はイベントの企画を考え始める段階から「何のためにこのイベントを開くのか?」といった思考を深め、コンセプト作りの相談に乗ってもらったのが川崎さんでした。このインタビューでは企画の経緯などを振り返ります。それではどうぞ!
向千鶴WWDジャパン編集長(以下、向):「サステナビリティ サミット」の内容を考えるとき、誰かに知恵を借りたく最初に思い浮かんだのが川崎さんでした。
川崎和也シンフラックス主宰(以下、川崎):自分に声かけるなんてチャレンジグだな、と思いましたよ(笑)。
向:そうですか?私にとっては自然でした。なぜなら昨年9月に作った「WWDジャパン」の特集「モードって何?」で川崎さんに取材した際に聞いた話が印象的だったから。唐突に聞こえるかもしれませんが、今回のイベントは私にとって「モードって何?パート2」のような位置付けでもあるのです。「新しい服を世の中に送り出すことの意味」を問い直すという意味で。川崎さんはこのサミットを通じて伝えたいことはなんですか?
川崎:21世紀に突入して四半世紀がもうすぐたとうとしている今は、まさに「ファッションシステム変革の刻」であることを伝えたいと思っています。
向:期待通りの壮大な答えです。
川崎:これまでも、ファッションが変革の必要にさらされる局面が何度かありました。第一には、19世紀パリにおいて、大量生産・大量消費の産業的仕組みを確立しようとしていたときに、チャールズ・ワースがオートクチュールというサービスを広めたとき。あるいは、1950〜60年代、消費者とデザイナーの感性が多様になるにしたがって、プレタポルテが華開いたとき。今はそれに次ぐ変化の時代であり、いうまでもなくその背景には、ファッション産業が抱える廃棄の問題や世界的な環境危機があるわけです。今まさに、持続可能なビジネスやサービス、製造や素材などの「システムレベルの変革」から、次のエコロジーを新たにインスピレーションとした「クリエイティビティの変革」がともに求められていると思います。
向:今回のイベントの根底にあるのはまさにそういった考え方です。大きな痛みも伴う変革ですよね。
川崎:変わるためには、時に不安や苦しい思いをもたらすこともあるかもしれません。事実、環境のためにはいますぐ生産消費を完全にストップすれば良いのだという極端な意見もあります。だけど、衣服はほとんど全ての人間が着用するものであり、ファッションはこれからの人間にとってとても大切な文化として持続発展することを、僕自身は望んでいます。
向:イベントのタイトルを「サミット」としたのはまさにその「議論」の場としたいから。「セミナー」だと先生が聴き手に一方的に話すイメージですが、12月1日のイベントは一方通行ではない「対話」の場、さらなる「議論」のタネが生まれる場にしたい。イベントの英語サブタイトル「Collective dreaming for future sustainable fashion」は川崎さんにもらったアイデアです。サステナビリティとビジネスってともすると「せねばならない苦しいこと」と捉えられがちだけど、そうじゃない。むしろ新しい扉を開く、一つのチャンスなんだ、そのためにテクノロジーを活かすんだ、知恵を出し合うんだ、という意味がそこには込められています。
川崎:閉鎖的な文化から開放的な文化へ、廃棄前提の製造から持続可能な生産へ、特権的な創造性から多元的な創造性へと「変化(Transition)」するためには、デザイナー、研究者、編集者、ビジネスパーソンなど、国内外問わず多様な人々と共に議論すること(Collective Dreaming)が必要です。今回のイベントがその第一歩になることを願っています。
向:ところで「研究者」と「デザイナー」どちらか一つだけ選ぶとした川崎さんの肩書きはどちらですか?
川崎:デザイナーを選びます。ファッションデザイナーの、常に新しさを産むことと、モードの伝統を担うという2つの複雑なアイデンティティーを持つことを宿命づけられた姿勢に強いリスペクトを持っているからです。他方で、デザイナーが衣服という製品単体や表層的な意匠のみならず、仕組みや技術、思想を設計する役割へと変容しているとも思っています。こうしたサステナビリティの時代における新しいデザイナーとしてこれからも活動していきたいと思っています。
向:川崎さんは視野が広いな、といつも思います。たくさん本を読んでそう。最近読んだ本や文章で面白かったものを教えてください。
川崎:ステラ・マッカートニーや関山和秀スパイバー取締役兼代表執行役の発言にはいつも刺激を受けています。彼女・彼の言葉は科学的であると同時に思想にあふれています。サステナブルなファッションのためには、具体的な行動や実装と、言葉や思考の両方が重要なのだといつも思い出させてくれます。あるいは、エコ志向をナイーブに妄信するのではなく、「そもそもなぜいま環境危機について思考する必要があるのか」という根本的な考えを促してくれる言説として、思想家であり京都大学総合生存学館特定准教授である篠原雅武の『「人間以後」の哲学─人新世を生きる』や『人新世の哲学─思弁的実在論以降の「人間の条件」』をとても面白く読みました。
向:最後に好きなファッションブランドを教えてください。
川崎:「イッセイ ミヤケ」は、衣服を通したセンスオブワンダーを届けてくれるブランドとしてとても尊敬しています。また、ブランドと「ラボ」を一つの企業として両立させ、今よりもっとヨーロッパ一辺倒だったあの時代に、一枚の布というコンセプトを世界に投げかけた偉大な先行企業として、その活動方法についてもいつも参考にしています。
向:ありがとうございました。12月1日は壇上でお会いしましょう!
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