ファッション

マッシュ近藤社長が語る「女性の24時間を幸せにする」マンション 三井不動産レジデンシャルとタッグ、両社トップに狙いを聞く

 「スナイデル」や「ジェラートピケ」「コスメキッチン」などで知られるマッシュホールディングスが、不動産業界最大手の三井不動産レジデンシャルとタッグを組み、女性向け賃貸マンションの監修に乗り出した。衣・食・美のジャンルで「女性の24時間を幸せにする」ことを目指してきたマッシュが生み出す住空間とは? 近藤広幸社長と、起用した三井不動産レジデンシャルの大澤久取締役常務執行役員にその狙いや目指すものを聞いた。

Q:今回手掛ける「パークアクシス吾妻橋」はどんな物件なのか?

大澤久・三井不動産レジデンシャル取締役常務執行役員(以下、大澤):「パークアクシス」は、分譲デベロッパーだった私たちが質の高い賃貸マンションを作りたいと2000年にスタートした賃貸マンションシリーズです。現在、東京を中心に100万都市などで約180棟、1万6000戸を供給しています。通常は全60戸ぐらいのものが多いのですが、今回は、浅草エリアの吾妻橋で、全24戸で提供します。賃料は1DKで13万円前後、40平方メートル強で21万円前後。単身者プラスアルファをターゲットとしています。土地が小さいのでプランニングがとても難しい物件でした。

Q:今回、両社がタッグを組んだ経緯は?

近藤広幸マッシュホールディングス社長(以下、近藤):もともとコンピュータを使ったグラフィックデザインが当社の原点で、創業時にお仕事をいただいていたのが三井不動産さんでした。2005年に「スナイデル」をデビューさせてファッションを始める前からのご縁になります。それから20年近く、今も都心の高級分譲マンションの広告の制作・デザインを手掛けさせていただいています。

大澤:うちには担当者から部長、そして現在常務になるまでずっとお付き合いをさせていただいている、マンション広告にこだわりが強い人間がおりまして。従来、7対3で男性の入居者が多いのですが、女性にさらに入居をいだけるようなマンションをつくりたいと話す中で、近藤社長のアイデアを賃貸マンションに生かしたらどうかということになり、2019年から具体的なプロジェクトとして協業を開始しました。

Q:家賃から考えると、ある程度キャリアのある女性がターゲットになりそう。働き方も住まいに対するニーズも変わる中で、どんな部分にこだわったのか?

大澤:これまでのコンセプトは“ホテルライク”“スタイリッシュ”というイメージで高級感を出して提供することが多かった。しかし今回はコンセプトをガラリと変えて、リラックスなど女性に対して新しい価値を提供できるようにしました。

近藤:7対3で男性のお客様が多かったのを、1対1、ないしは女性の感性にしっかりと刺さり、なおかつ人気がきちんと出るような賃貸マンションにするという命題のもとに監修させていただきました。かといって、色をピンクにするといったことではありません。デザインで一番大事にしたのは「ユニバーサルスペースデザイン」とマッシュのスローガンである「ウェルネスデザイン」で、モダニズム、クラフツマンシップ、サステナブルをキーワードにしました。

「ユニバーサルスペースデザイン」では、圧迫感を感じさせない広がりのある空間や、人に安心を与えたり穏やかな気持ちになる色味、圧迫感がないこと、人と人との快適な距離感を保つようなデザインであること。そして素材を1つ1つ考えて、ハイクオリティでシンプルな飽きの来ないデザインを目指しました。そこに「ウェルネスデザイン」の、気持ちよさやサステナブル、エコロジー素材を使用するなど、身近なことで気持ちが穏やかなるようにしました。共用の廊下も木を中心に温かいウォームカラーを採用し、緊張感をほぐすようなものにしています。室内は強い色や角張った家具を少なくして、ナチュラルカラーだけどインテリジェンスやトレンドを感じるようなものにしました。男性が見ても女性用マンションとは思わず、柔らかいイメージだと思ってもらえるような、「パークアクシス」のファンの方々や初めて住まう方々にとっては、柔らかくて居心地がいいと思ってもらうことを目指しました。

Q:一番力を入れたことや、工夫したディテールは?

近藤:空間では、エントランス周りと、エントランスを入ってからエレベーターまでのロビー部分、イメージとしては木を中心にトーン&マナーを統一することです。エントランスには大理石や御影石などは使わず、壁面にガラスを使うことで、自然光を感じられる明るい造りにしました。出かけるときにも視線が壁に遮られず、明るく前向きになれるような視覚効果も狙いました。ロビー部分は密室になりやすいメールボックスルームをなくし、壁面にボックスを配することで、安心感を高めるとともに、ゆったりした空間を生み出しました。トーン&マナーでは色の温度感を意識し、心に寄り添うこと、ナチュラルだけれどもダサくならないことなど、女性の心をキャッチアップしながら、もっと居心地よく心のゆとりや健康などが感じられるものを目指しました。モデルルーム内には、マッシュグループのベッドリネンやピローケースなどのホームファブリックやフレグランス、ルームウエア、コスメや洗剤、クローゼットには洋服も配させていただきました。家具以外の約90%は自社製品を使用しています。

大澤:これまでと全然違うものができましたね。24戸だと共用スペースも狭くなりがちなのですが、近藤社長の話を聞き、なぜこれだけ広く感じるものができたのかがよくわかりました。外で頑張って仕事をしたり着飾ったりハイヒールを履いていたものを脱ぎ、寛げたり疲れがとれたりリラックスできる、けれども、上質でコジィーな部屋ができ上がりました。

Q:近藤社長はこれまでも店舗の内装デザインを手掛けてきたが、商業空間と住宅との違いは?

近藤: 商環境は延べ1000店舗以上プロデュースしてきましたが、住宅は初めてのことで、使用する素材などにも違いがありました。三井不動産さんのさまざまな基準をクリアした適性素材の中から頭に思い描いた理想を具現化するには、バランスなど難しいところはありましたが、新しさの中にも柔らかさを出せたのではないかと思っています。

大澤:当社の安全基準や予算など、けっこう厳しいものがあったと思います。それをかいくぐりながらコンセプトを具現化していただき、ありがたいと思っています。

Q:子会社としてマッシュホームズを設立した。

近藤:「女性の24時間を幸せにする」というスローガンの下、2019年に設立しました。まずは当社の3000人以上いる女性社員のための暮らしのサポート、仲介、引っ越しのサポートからコツコツと事業を開始しました。これまで衣・美・食を扱い、最後に残っていたのが住に関する仕事でした。女性の24時間をサポートする中で、最後の砦に到達しました。

Q:今後の両社の協業のプランは?

大澤:これからも協力いただきたいと思っています。この協業でよりよい暮らし周りのサービスを提供していけるはず。(マンション設計の)デザイン以外の部分でもシナジーを探っていきたいですね。われわれは不動産業のトップランナーとして走ってきましたが、競合の参入も相次いでいます。常に変化をしていかないとトップを走れません。新しい基軸を打ち出し続けていく方針です。

近藤:ウェルネスデザイン監修などの部分でいろいろなプロジェクトに参加させていただければ幸いです。まずは「パークアクシス」で女性の賃貸マンションに対する研究やデザインでの参画など引き続き協業できたらと思っています。仲介業としてのビジネスチャンスもいただきました。1月から入居者を募集します。顧客を含めて、みなさんに自信をもってオススメできます。また、住んでいただいた女性たちに対するアフターサービス提供をマッシュグループで行っていきます。仲間を増やして他の企業とも連携して、マッシュの「MAカード」のサービス提供のメリットを増やしていきます。これからのお仕事は、そういったコツコツした努力の向こう側にあると思っています。

Q:アフターサービスの内容は?

近藤:「MAカード」はマッシュグループで年間50万円以上購入いただいた方と同等のゴールド会員ランク、ビューティカテゴリーの会員サービス「GO GREEN MEMBER’S」でもプラチナ会員ランクを入居と同時に付与します。各々5000ポイントずつプレゼントしますので、それを使ってモデルルームで気に入ったものを購入していただいたり、「コスメキッチン」や「ビープル バイ コスメキッチン」などでシャンプーや歯磨き粉、オーガニックなカップラーメン、もちろん、お洋服などもお得に買い物をしていただけるようにします。

大澤:私が一番期待しているのは、マッシュさんが単にとんがったデザインを提供するのではなく、ホームプロダクトを含めてすべてを提供し、入居後もオリジナリティのあるコンテンツを提供できるという点です。私たちの「パークアクシス」のターゲットも20~40代で、「三井のすまいLOOP」(会員制メンバーシップ・サービス)には24万人の会員がいます。クロスできる領域は広いので、暮らし周りでWIN-WINの関係を気付いてアフターサービスまで提供していただきたいですね。

Q:最後に、改めて近藤社長が目指した住まいにおけるデザインや、建築デザインをして気付いたことを聞きたい。

近藤:何年も住むものなので、流行は入れず、誰を連れてきても心地よく素敵だと感じてもらえるユニバーサルな世界を目指しました。万博のドイツ館としてバルセロナ・パビリオンを建築したミース・ファン・デル・ローエは「レス・イズ・モア」の言葉で知られていますが、ユニバサル・スペースの概念を提唱しました。勉強途中なので怖さも感じながら普遍的な価値、普遍的なデザインをさせていただきました。今回再確認したのは、ファッションやオーガニックコスメは、その女性をとにかくきれいにしたいとか、人生が変わったとか、人に褒められたとか、告白されたとか、その人のステージを高めるサポートをするためにデザインします。でも、建築の世界を見ると8割はエゴなんですね。特徴を出さないと依頼が来ないということもあるのですが、何を相手に与えたいのかを本気で思ったときに、心が喜ぶデザインを改めてしたいんだな、自分は、と感じました。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。