美濃島:明けましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします。正月気分からようやく抜け出せたと思ったら、2021-22年秋冬メンズ・コレクションが開幕しました。デジタル形式がメインとなりますので、今回もPCとにらめっこしてリポートしていきましょう。まずピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)とミラノ・メンズ・ファッション・ウイークから印象的だった10ブランドをざっくりとプレイバック。今年はピッティもデジタルプラットフォーム「ピッティ コネクト(PITTI CONNECT)」を整えてコレクションを発表しましたね。
大塚:いやーコレクションサーキットの開幕感がないですねえ(苦笑)。デジタルでの取材も2シーズン目となると、モチベーション維持もわれわれの使命ですな。そんな中でも主要都市に続き、ピッティもいよいよデジタル発表に本格参入したね。どう出るのか注目していたけれど、もうひたすらトーク。「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」は30分、「ヘルノ(HERNO)」は20分ほぼずっと話していました。それはそれでピッティのブースにいるようで臨場感はあるのだけど、全部集中して見るには相当な気合いが必要だったわ。後者は字幕なしのイタリア語オンリーで全然分かんなかったし。
30分におよぶ怒涛のトークセッション
大塚:ウンブリア州ソロメオの本社からの中継だったね。マスクを付けたモデルが並んでいて、服の紹介はいつかな〜と待っていたらそのまま終了しちゃった。後日オンラインで紹介はあったけれど、ファブリックやコンセプトが毎回素敵で楽しみにしているからちょっと驚いたよね。テーマは“昨日と明日との統合”で、実際に見られる日が待ち遠しいです。ピッティとデジタルをどう融合していくかはまだまだ試行錯誤が必要だな。
ジャージーでテーラリングを“リセット”
大塚:めちゃかっこ良かったわ。服もよく見えるし、素材感も伝わるし、映像もコンセプチュアルで引き込まれた。テーマに合わせて、新常態のライフスタイルをコレクションで再定義するクリエイションでした。自分たちの強みをしっかり理解して映像を作っているよね。編集部には事前にこんなノートが届いたよ。
美濃島:そんなノートが届いていたんですね。絶賛リモート中の僕は明日の出社時に拝読しようっと。ジャケットやパンツだけでなくインナーもニットで統一するのが新鮮でした。
大塚:ラウンジウエアとフォーマルを融合した、インドアとアウトドアをつなぐシームレスなスタイルですね。きれいなテーラードにワークやスポーツを合体させるのはサルトリの得意技だから。素材はジャージー中心で基本はイージーフィットなのに、ショールカラーのローブやダブルカシミアのスーツ、トラックパンツはどれもエレガントで素敵だった。
美濃島:動画はウオーキングの映像とホテルで撮影したイメージ動画をミックス。前回に続き、「ゼニア」はクリエイションの伝え方が上手いですね。
大塚:15分の長尺って全部見るのはまあまあキツいのだけど、あっという間。映像終盤のサルトリさんの登場も渋すぎたわ。
オマージュ盛りだくさん(?)の気鋭ブランド
美濃島:序盤は身構えちゃいましたが、終わってみたらなんとも言えない心地よさでした。手書きのレターモチーフをのせた白シャツやぶどうを表現したニットなど、キャッチーな洋服の世界観に合った映像でしたね。後半の男女が体を支え合うシーンは金八先生の「人という字は〜」を勝手に連想しました。
大塚:古っ。美濃島さん25歳だよね(笑)?
アウトドアストリートが今っぽい
大塚:きれい目カジュアルに、ワークやアウトドア由来のファンクショナル要素をプラスする今っぽいスタイルだね。タイドアップはやや蛇足だったかな。ラストにデザイナーがランウエイショーっぽく登場するのがかわいくて癒されました。しっかしミラノのサイトは見づらい!喝!
美濃島:サイトデザインを頑なに変えませんね(笑)。逆に愛おしくなってきました。
日本人ラッパーがミラノで大暴れ
美濃島:海外人気も高いラッパーのHideyoshiとRalphを起用したMVで、インパクト抜群でしたね。ゴリゴリのストリートの世界観に合うキャスティングだし、ブランド得意のバンダナモチーフもめちゃくちゃ似合ってました。ただHideyoshiは髪が長いイメージだったので、一瞬誰だかわかりませんでした(笑)。
大塚:なるほど。そこは一応海外を意識しているのかな。前回の15分間スケボー乗り倒しといい、世界観の発信にこだわっているよね。ただここのブランドの服って見た目の瞬間的な面白さと、ヘンタイ的な作り込みが武器でもあるから、もうちょっと服をしっかり見せてもよいなとは感じた。あと海外、特にミラノの人がこの動画を見てどう反応するか気になるかも。今度本人(志鎌英明デザイナー)に聞いてみよう。
美濃島:PVの見せ方に振り切ったブランドは他になかったので、存在感は示せたと思います。志鎌さんからの返答は僕にも聞かせてください!
“今の普通って何?” 「フェンディ」がやっぱり強かった
美濃島:ネオンの光が変化するにつれてルックのカラーブロックも切り替わる面白い演出でした。ラウンジウエアでニューノーマルの気分を反映させた一方、サイケなアートワークやBGMからは「落ち着いたムードだけじゃ楽しくないでしょ!」というメッセージを感じました。
大塚:そうそう、演出も面白かったね。BGMの「What is Normal Today?」という声はシルヴィア・フェンディ本人だったり、「FENDI」の文字を抽象化したグラフィックはロンドンのアーティスト、ノエル・フィールディング(Noel Fielding)が描いたりと、盛りだくさんでした。
美濃島:「FENDI」の文字を落書きっぽくアレンジしたアートワークはすごいかわいかったです。普通にロゴを載せるだけじゃ機械的すぎるけど、手仕事感のあるアートワークに昇華していて、ロゴブームが去った今でも受け入れられそう。バランスの良い遊び心が素敵です。
大塚:あと如実なのが、見た瞬間「これ絶対に着心地いいやつ」って分かる服が多く登場すること。これは「ゼニア」もしかりで、一時期のストリートブームで各ブランドがビッグロゴや派手なモチーフで“分かりやすいデザイン”が多く登場したけれど、今は“分かりやすい着心地”を、映像でいかにアピールするかに主要ブランドは結構こだわっている気がする。ラウンジ・フォーマルで着心地コンシャスは、この後も続いていきそうな予感。
美濃島:昨シーズンも「ルメール(LEMAIRE)」などが近いアプローチの映像表現をしていましたね。パリでもこの流れは強そうです。
ストリートに舵を切った「エトロ」
美濃島:ロゴ入りパーカとキャップ、シャカシャカのブルゾン、バミューダショーツなどグッとストリートテイストになりました。モチーフは相変わらず柄を多用してアクセルを踏み込んできました。モデルたちが建物の中からストリートに飛び出していくフィナーレは見ていて気持ちが良かった。夕日が差し込んでるのかと思ったら外は昼間だったから、窓に色付きのフィルターを張っていたんですかね。
大塚:もともとはリアルでのショーを予定していたから、無観客での映像配信になって急遽用意した演出なのかも。
スキーがトレンド候補? 「MSGM」のストリート×アウトドア
大塚:スキーは定期的にトレンドに浮上するし、アウトドアへの欲求は世界中で確実に高まっているもんね。コレクションは、1990年代に東京でも流行したストリートとアウトドアのミックススタイルでした。「カンゴール(KANGOL)」のバケットハットとかドンズバ。「スカルパ(SCARPA)」とのボリューミーなシューズもかわいくて、1930年代のポスターに着想したノスタルジックなグラフィックも好き。登山家のヴァルテル・ボナッティ(Walter Bonatti)の本を参考にし、リゾート地のポスターを参考にしたのだとか。「MSGM」はいつも変わらず明るくて安心するよ。
ラフ加入後、初のメンズを披露した「プラダ」
美濃島:柄を多用しているのが新鮮でした。ラフは写真やグラフィックなどをよく使う一方、パターンにはあまり手を出してこなかったので勝手に苦手意識があるのかと思ってましたが、デジタル感のある総柄がめちゃくちゃ格好良かった。裏地が目立つボンバージャケットとニットの柄on柄の組み合わせは最高でしたね。トライアングルをあしらったもこもこグローブは冬の新定番として人気が出そうです。グラフィックが無いためか、9月に発表した21年春夏ウィメンズ・コレクションよりもラフ感は控えめ。少し物足りなさも感じました。
大塚:なるほどね。確かにピーター・サヴィル(Peter Saville)感はなかったけど、僕はめちゃくちゃラフだなと思ったけどな。ミウッチャとラフの個々のバランスをまだ探り合っている印象だけど、融合しようとしている試みている意図は感じました。あの複雑な柄は、自宅で過ごす時間が長くなりって自身の感情と向き合った結果なんだって。そしてここでも出ました!部屋着のようなニットのボディスーツ。ただこれは単なるリラックスとは違ってピッタピタ。コロナ太りしているようでは着られないよ(笑)。アウターは巨大なMA-1やVネックニットはまさにラフの代名詞という印象。ジャケットを二の腕までたくし上げてインナーを見せるスタイルは「ラフ シモンズ」21年春夏でも披露していたね。僕も挑戦したいけど、腕立て毎日100回やんないとな。
美濃島:僕はコロナで3kg太ったのでこういった服を着るために痩せます!!ラフとミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)に向けて服飾学生が質問を投げかけるトークセッションも実施されました。日本からは文化服装学院の生徒が出演し「どんな革新的な技術を取り入れた?」と質問していました。ファッションの面白さを後世に伝えようとするブランドの思いも伝わるし、学生も一生の思い出になる素晴らしい企画でした。
大塚:演出も独特で面白かったわ。音楽は21年春夏ウィメンズと同じく、プラスティックマン(Plastikman)名義のリーチー・ホウティン(Richie Hawtin)。「ゼニア」も「フェンディ」もだけど、服をがっつり見たいわれわれにとっては静かなテクノみたいな音楽が相性いいのかなとふと思った。ちょっとホドロフスキーチックな怪しいダンス(笑)は、ラフいわく「ポジティブで楽しい雰囲気を表現したかった」らしいよ。
美濃島:たしかに、静かなテクノは鑑賞の邪魔にならず洋服に集中できます。表現が自由すぎていろいろやりたくなりますが、「あくまで服が主役」という考えが根底にあるとバランスの良い演出に到達できるかもしれません。
ヒゲの接写&チープな格闘ゲームに苦笑
美濃島:新卒で入社した時は、コレクション取材でヒゲや脇毛のドアップを見せられる日が来るとは思ってませんでした。
大塚:「今シーズンは“イラっ”の方かな」と考えながら我慢して見ていたら、最終的にその肌とヒゲはデザイナーデュオのもので、特設サイトに案内するための案内動画だということが最終的に判明しまして。で、そのサイトにアクセスしてみたら、とんでもなく低いクオリティーの自作格闘風ゲームがプレイできるというね。キャラは最新コレクションを着ているのだろうけど、ゲームの意味が全く分からず「何すんねん(SUNNEN)」と思いながら適当に操作するうちに段々クセになってきちゃって、最終的には大笑いさせてもらいました。
美濃島:ゲームは最後まで意味不明でしたし、大塚さんの「何すんねん」もギリギリですよ……。でも新しいことに挑戦しようというブランドの勢いは伝わってきました。問題の服はジェダイっぽいコートや大判のダイヤ柄などゲームキャラらしいアイテムもありましたが、ダウンジャケットやタートルニットなどリアルクローズも多め。ゲーム表現と合わせて、もっと攻め攻めなクリエイションでも面白かったかもしれません。
大塚:唯我独尊すぎてゲーム×ファッションの時代に乗ってるんだかどうかは分かんないけど、人を楽しませようというマインドには好感が持てたね。