ファッション

メラニア・トランプ前米大統領夫人のスタイリストが明かす 4年間の思い出あれこれ

 長年にわたり「キャロリーナ ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」のクリエイティブ・ディレクターを務めた後、メラニア・トランプ(Melania Trump)前米大統領夫人のスタイリストを担ったエルヴェ・ピエール(Herve Pierre)にインタビューを実施した。ピエールはヒートアップした米大統領選をはじめとする政治的な話題には一切言及せず、純粋なスタイリストとしての経験を熱心に語った。

 初仕事はトランプ前大統領の就任式で着用するドレスのデザインだった。「夫人と初めて会った4日後にドレスのデザインを依頼された。納品まで12日ほどしかなく、細かい要望は教えてもらえなかったために完全に手探りの状態で制作した」。

 4年間を振り返り、「ファーストレディーのスタイリストは予想外だったが、とても光栄だった。大統領夫人のスタイリストはジェームズ・ボンド(James Bond)のようにとてもミステリアスで秘密主義的な役割だ。スタイリストはメディアがまだ知らない州訪問の予定なども把握しているから、情報を漏らさないことが重要だ。常に訪問先の文化や国に適した衣装を選ぶことを心がけていたし、それが難しい場合にはTPOに見合う服装や見栄えのよさに気を遣っていた」と語った。

 スタイリストの経験がデザイナーの仕事にどのような影響を与えたかを問うと、「トランプ政権でのスタイリスト経験とデザイナーの仕事は分けて考えてきた。18年にパンタナーのニコラ・カイト(Nicolas Caito)と『アトリエ カイト フォー エルヴェ ピエール(Atelier Caito for Herve Pierre)』も立ち上げたこともあり、なおさらだ」と、明確なコメントは避けるにとどまった。

 またピエールは、政治的な思想とファッションを別個に考える姿勢を絶賛してもいる。「前ファースト・レディーのミシェル・オバマ(Michelle Obama)は14年に、当時のフランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領との夕食会で私がデザインした『キャロリーナ へレラ』のドレスを着用した。政治的なメッセージをドレスで表現することもあるとは思うが、コレクションやブランドの場合はどうだろうか?例えばマイケル・コースは、カマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領が米『ヴォーグ(VOGUE)』2月号のデジタル版の表紙で着用したパウダーブルーのスーツをデザインしているが、メラニア夫人も『マイケル・コース(MICHAEL KORS)』が好きで何度も着用している。米『WWD』の読者にも民主党支持者と共和党支持者の両方がいるだろう。結局のところ、読者が求めているのは情報やリポートであって、“特定のブランドを買わないように”などと言うことはできないだろう?それは私たちも同じだ」と語った。

ファーストレディーのスタイリストの心得とは?

 後任のスタイリストには“有意義な”情報を提供したいと話すピエールは、「大統領夫人とはいえ、華やかな日もあれば通院の日もある。単にセミフォーマルやカクテルパーティー向けの衣装を探せばいいというわけではない。ファースト・レディーのワードローブは多岐に渡る。とてもクリエイティブな仕事だ。デザイナーの私にとってスタイリングは未知の領域であったため、その都度学びが必要だった。メラニア夫人に『私はスタイリストではない』と伝えると彼女は、『私もファーストレディーじゃないわ。これから一緒に学んでいきましょう』と言ったんだ」と回想した。

 また、大統領夫人のスタイリストは時に間違いを犯すこともあるという。「ジル・バイデン(Jill Biden)米大統領夫人のスタイリストは、彼女がスピーチをする際に『背景は何色ですか?』と聞かなければならないだろう。ドレスが綺麗なだけでは不十分で、カメラ越しの美しさも考慮する必要がある。公人の写真は永遠に残るため、写真映りをよくすることが重要だ。この件に関して、私は毎回上出来だったとは言えない」とコメントした。

 衣装選びはメラニア夫人と一緒に行っていたといい、「夫人のセンスはとても素晴らしい。日頃からさまざまな服装のカメラ映りについて話し合っていた。写真はインスタグラムなどで一人歩きするため、とても大事なことだ」と語った。

 メラニア夫人は普段は「マイケル・コース」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」、重要なシーンでは「ディオール(DIOR)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」といったブランドを着用していた。

 メラニア夫人といえば、2018年にテキサス州の移民児童収容施設を訪問した際に、「私は全然気にしないけど、あなたは?(I really don’t care, do u?)」の文字がプリントされた「ザラ(ZARA)」の39.99ドル(約4100円)のジャケットを着用して公の場に姿を現したことで大きな波紋を呼んだ。不法移民に対するトランプ政権の強硬策で親と引き離された子どもたちがいたこともあり、こうした夫人の行動は大々的な批判を浴びたが、スタイリストのピエールはこの件に関しては無関係であったという。「最初に見た時はフォトショップで加工されたものかと思った」。

 インスタグラム(INSTAGRAM)上での政治への関心は、オバマ政権下で勢いを増した。トランプ政権下でもその勢いが衰えることはなく、こうした状況はジル夫人と彼女のスタイリストに引き継がれることになる。ピエールはこの4年間で議論されてきた問題についてのコメントは拒否しながらも、「新しいスタイリストは民族性や象徴性、人びとが特定のスタイルをどのように受け取るか、などについて慎重に検討する必要があることを知っておくべきだ」とコメントした。

 またピエールは、19年にバッキンガム宮殿で行われたエリザベス女王(Queen Elizabeth II)主催の晩餐会でメラニア夫人が着用した「ディオール」の白いノースリーブのドレスなど、公式の場で着用された衣装を適切に整理して保管するための手伝いも行った。保存にあたってのボックスやガイドラインはスミソニアン博物館が提供したという。

 メラニア夫人のライフスタイルはこれから大きく変わることになるが、ピエールは今後も夫人と仕事をしつつ、「アトリエ カイト フォー エルヴェ ピエール」でもフルタイムで働く予定だという。

 ピエールは政治的な話題にこそ触れなかったが、お気に入りのルックをたずねると、「ネイビーのアクセントが印象的な『ドルチェ&ガッバーナ』の白いドレスに、私がデザインした白い大きなつば付きハットを着用した夫人はとても美しかった」とコメントした。

 また、17年の就任式で着用した「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」のパウダーブルーのカスタムスーツや、11月の大統領選で着用した「グッチ(GUCCI)」のプリントドレスに小さなケリーバッグを合わせたスタイルも非常にシックであったし、最後の演説で着用した「ドルチェ&ガッバーナ」のスーツは、暴力を糾弾し、自身の考えを述べる場に相応しいものであったと述懐する。

 ソーシャルメディアで反発が起きた際の対処法については、「私はもう50歳を超えているから、ツイッター(TWITTER)もフェイズブック(FACEBOOK)もやっていない。SNSにとらわれて心配したり、時間を無駄にすることもないから大いに助かっている。私が利用しているのはインスタグラムだけで、9月以降は投稿していない。正直なところ、SNSがあまり得意ではないんだ。誰かから『ツイッターがあなたの話題で持ちきりだ』と言われても、『そうか(笑)』と返して終わりさ」と語った。

 スタイリスト就任当初にケネディ政権下でホワイトハウス報道官を務めたピエール・サリンジャー(Pierre Salinger)の回顧録を読んだという。自身の体験について出版の予定があるかを尋ねると、「今のところ予定はない。もしかしたらいつか、80歳になった頃に書くかもしれないがね」と笑いながら答えた。

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