ファッション

渡辺直美とYOPPYが受注生産でブランド立ち上げ 「私は自分を太っているとは思わない」

 お笑い芸人であり、インスタグラムのフォロワー数は937万で日本一!近年は多様な美を広めるアクティビストとしての役割も担う渡辺直美が、ウィメンズブランド「リトルサニーバイト(LITTLE SUNNY BITE)」のデザイナーであり、10年来の友人だというYOPPYと新ブランド「テン(10)」(エイト)を立ち上げた。全て受注生産で、2月5~11日にウェブ上で予約を受け付ける。昨年春の緊急事態宣言中、「クリエイティブな思いが盛り上がった」という2人に話を聞いた。

WWD:渡辺さんは「プニュズ(PUNYUS)」、YOPPYさんは「リトルサニーバイト」と既にファッションブランドを手掛けていますが、あえて新ブランドを立ち上げようと思ったのはなぜ?

渡辺直美(以下、渡辺):お互い作っているのは違うジャンルの服だし、10年前にYOPPYに出会ってからこれまで、一緒にブランドをやりたいって考えたこともなかったんですが、YOPPYの作るデニムアイテムやフリルの使い方は好きでした。ただ、サイズが合わないから「リトルサニーバイト」は買えないものも多いんだけど。そうしたら、YOPPYが「プラスサイズにも興味はあるけど、パターンなど分からない部分が多くて手が出せない」って言っていたので、「じゃあ一緒にやろう」となったんです。ユーチューブの番組で話している中で決まったので、言わば友達になって10周年の記念イベントみたいなブランドですね。

WWD:つまり、ガッチリ決め込んで「よし、売っていくぞ!」という感じではない?

YOPPY:はい、違います。とりあえず、この春夏物をやってみようという感じ。お互い本業があるし、どんな反応がくるかも分からないし。この次どうするかはそこから考えます。受注販売で売り切れたらそれでおしまいです。

渡辺:万一この7型が各5億(!)着くらい売れて、「……そんなに求められる!?」ってなったらお店出を出すことも考えますけど。あんまり「ビジネス、ビジネス」という感じではなくて、これがかわいいと思ってくださる人に届いてほしいし、大切に着てほしい。もちろん自分たちもたくさん着てSNSに投稿していくけど、「SNSではこういうPR戦略を立てています」といったこともないです。

WWD:コロナで時間に余裕ができたことがブランド立ち上げのきっかけの一つになった?

渡辺:これは表現することを仕事にしている多くの方と同じだと思いますが、昨年4~5月に緊急事態宣言が出て家に居なくちゃいけなかったときに、「この盛り上がったクリエイティブな思いをどうしよう!」っていう気持ちだったんですよ。それが最終的に行き着いたのが「テン」だった。当時既に私はユーチューブを始めていたので、最初はファッションブランドではなくミュージックビデオを撮りたいっていう案を話していたんです。ゴリゴリのヒップホップをバックに、私の地元の茨城県の農家のおじいちゃんとかが登場する、茨城県の名産品アピールのビデオ。そこに私がときどきトレーラーに乗ってカメラ目線で登場するという。

YOPPY:私も出身が栃木県なので、「それ、すごくいいじゃん」って。それで一緒に盛り上がりました。とは言え、こんなご時世なのでなかなか現地まで行って撮影するということは叶わなかったんですが、「ミュージックビデオを撮るならどんな衣装にする?」といったことは話していました。

WWD:「プニュズ」のストリートカジュアルムードに比べると、「テン」はガーリーな雰囲気が新鮮です。

渡辺:私がストリート育ち、ヒップホップ育ちなんで、「プニュズ」はそういうところが出ちゃっているんだと思います(笑)。「プニュズ」はより日常的でポップな雰囲気で、男性も着られるものを意識している。ガーリーな服って、(細かいギャザーなど)凝ったディテールが重要になるので値段が高くなるんですよね。「プニュズ」は(高くなり過ぎないように)値段を決め込んでやっている部分もあるので、あえてガーリーなものには手を出してきませんでした。

YOPPY:「テン」はデニムアイテムは素材も日本製、縫製も日本の工場で、ブラウスやワンピースはギャザーやシャーリングなどのディテールにこだわっています。みんなが着たときにきれいに見えるボリューム感を追求しました。サイズはS~XXLの4サイズですが、そこは直美ちゃん一緒にやったからこそ分かることがいっぱいあった。「体形が変わっても、骨格自体は変わらないよ」って言われたのはすごく納得しました。単純なグレーディング(拡大)じゃないんですよね。

渡辺:それね。「プニュズ」でも最初同じことが起こったけど、XXLで作るとなるとワンピースの肩ヒモ部分まですごく伸ばしたファーストサンプルが上がってきたりするんですよ。「いやいや、肩の骨の大きさ自体は体形が違っても変わらないんだよ」って。あと、「プニュズ」では肌を露出させるデザインがあまりないけど、「テン」ではそこをやっています。肌を出した方がシュッと見えることもあるし。やっぱり出したくないという場合は重ね着をしてもいいし。

YOPPY:カシュクールワンピースは肩の少し内側からボリュームが出るパフスリーブの作りにして、肩幅が大きくてもきゃしゃに見えるパターンを追求しました。鎖骨がきれいに見えるオフショルダーのトップスも作っています。ボディバランスが整って見える服にしたい、ということにはすごく熱い思いがあります。

「太っている人は白い服は着ない」の固定観念に挑戦

WWD:コロナで外出機会が減っていることで、ファッション業界では部屋着に力を入れるブランドも増えています。

YOPPY:今日2人が着ているロングスリーブTシャツの袖には「BE HERE NOW, BEST FRIEND FOREVER」って刺しゅうを入れているんですけど、心のつながっている友達とファッションでもつながりたい、おそろいにしたいっていう気持ちを「テン」には込めました。今はなかなかおそろいの服で外出をすることはできないですが、それだからパジャマを作るといったことではなく、「テン」は未来への希望を込めた服です。

渡辺:あと、皆さんに“選択”をしてほしいっていう気持ちも込めて作っています。今って与えられた情報ではなく、自分で気になった情報をチョイスしていく時代だと思うんです。サイズも与えられたサイズではなく、体形に関わらず好きなシルエットを選んでほしいから4サイズ展開しています。私たちが着る人を決めるのではなく、「テン」を着ることであらゆる人にワクワクしてほしいので、お客さまの対象年齢も12歳から120歳までって言っています。「太っている人は白い服は着ない」みたいな固定観念は昔に比べて随分なくなってきたと思うけど、「テン」では白のワンピースも作っているので是非挑戦してほしいですね。

YOPPY:「40歳になったらもうピンクは着てはいけない」とかもよく言うけど、どんな人にも似合うピンクはあるよって言いたいよね。そんなふうに、「テン」で新しい自分を見つけてほしい。

WWD:渡辺さんはここ数年で広がったボディー・ポジティブムーブメントの伝道者のような存在でもあります。多様な美を伝える立場として、改めて世の中にメッセージを。

渡辺:世の中の固定観念というか、人それぞれ考えのキャパシティーってあると思うんですよ。だから、その人が見てきたものや経験してきたことの範囲外の価値観がやってくると、びっくりして手で払いのけてしまうこともある。ただ、私のことで言えば、私は自分を太っているとは思っていないんですよ。もちろんサイズは大きいし、膝が痛いといった悩みはあるけど、この体と付き合ってきたので改めて太っているとは思わない。大切なのは、あらゆる人を体形や見た目ではなく、個々の人として見ていくこと。だから、あらゆる人にまずは自分がやりたいこと、挑戦したいことをやってみてほしいし、私はそれをやらなきゃいけないと思っています。

 ボディー・ポジティブという言葉が広がったことで、逆にそこに固定観念も生まれて、苦しんでいる人もたくさんいると思う。ボディー・ポジティブの考え方は、一律に「太っている人ももっと肌を出していいんだよ、出しちゃいなよ!」っていうこととは本来違うんですよね。例えそこに何かコンプレックスがあるとしても、それを乗り越えられる人、乗り越えられない人、乗り越えたくない人がいる。人それぞれで違うから難しいけど、それをお互いが認め合えるようになっていったらいいなって思いますね。

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