「ランバン(LANVIN)」のアーティスティック・ディレクターを14年間務めたアルベール・エルバス(Alber Elbaz)による新ブランド「AZファクトリー(AZ FACTORY)」のデビューコレクションが、2021年春夏オートクチュール・ファッション・ウイーク期間中の1月26日に公開された。15年10月に「ランバン」を去って以来、約5年ぶりの完全復帰だ。
エルバスは19年10月に「カルティエ(CARTIER)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)とジョイントベンチャーを設立し、新ブランドを立ち上げた。「AZファクトリー」では自身の持ち味を活かしつつ、最先端のスマートファブリックや“プロジェクト”中心の新しいビジネスモデル、ストーリー性、問題解決志向、エンターテインメント性を織り込んだデザイン、コミュニケーションといったさまざまな要素を取り入れている。
コレクションの発表はランウエイショーではなく25分間の映像作品を用いて行われ、3つの異なる“プロジェクト”が発表された。ムービーにはエルバス本人も出演しており、クライマックスではドレスやプリント柄のパジャマなどを着用した18歳から70歳までのさまざまな体型の20人のモデルたちが、ステージ上でダンスを踊り歓喜するシーンが映し出されている。
エルバスは、「デビューコレクションは映像で披露したいと考えていた。従来通りのファッションショーではなく、新しい形でファッションを届けたいと思っている。これは女性のためのパーティーだ。ショートムービーのラフ映像を確認する際、洋服は見ずに出演者の顔だけに注目した。みんな生き生きとしていてうれしかった。映像では演技をせず、普段通りに話をしただけだ。ファッションとはエンターテインメントであり物語でもある」とコメントした。
なお“プロジェクト”の第1弾、“マイ ボディー(My Body)”は、「AZファクトリー」のウェブサイトおよびリシュモン傘下のECサイト「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」や「ファーフェッチ(FARFETCH)」で即日発売された。
エルバスは「AZファクトリー」を「ファッションハウスというよりは製作とコミュニケーションの会社だ」と表現しており、衣服が体にフィットすることに加えて着心地の良さも追求し、ドレープをはじめとした高度な技術を随所に施している。
ニット素材のランニングシューズから着想を得た自然なカーブを描く複雑な構造のドレスを製作するために、イタリアの工場に着圧ニットの開発を依頼して慎重に検討を進めてもきた。また、「機能的な要素をファッションに落とし込むため、デザイナーというよりはエンジニアに近い仕事をしていた」と話す一方で、当初の計画にあった11着の黒いドレスに加えて、アイボリー、ベージュ、マルチカラーも追加し、取り外し可能なリボンをあしらった華やかなデザインのドレスも製作するなど、機能性とファッション性の両面からアプローチした。
“マイ ボディー”発売の約6週間後には、スウェットスーツにアーティスティックなパジャマを加えたラインアップの“スイッチウエア(Switchwear)”を発売する。グラマラスなイブニングウエアにリサイクルのサテン生地を使用しており、ブランド全体として環境に優しいリサイクル生地や染色に天然顔料を使用するなど、サステナビリティも意識している。
“スーパーテック スーパーシック(SuperTech-SuperChic)”では、通常下着や運動着にのみ使用されるナイロンマイクロファイバーを用いてタキシードやビスチェを製作した。価格は350ユーロ(約4万4000円)から1300ユーロ(約16万3000円)だ。D2Cブランドとラグジュアリーブランドの中間のような価格設定は「AZファクトリー」の特徴的な一面でもあり、エルバスにとっては初めての試みだ。
また、男性用の衣服は前で閉じるものがほとんどである点に着目して、ドレスの後ろやサイド部分のジッパーに長いチェーンを取り付けることで着脱を容易にするなど、工夫を凝らしたデザインも施している。ポインテッドトウのスニーカーやカラフルでキラキラしたコスチューム・ジュエリーなどのアクセサリーも印象的だ。なお、サイズ展開はXXSから4XLまでと幅広く、さまざまな体型の女性をターゲットにしている。
エルバスは、「私のデザインは全く新しいものだ。自分にとっての新たなクチュールの形だと言える。クチュールは実験的かつ個性的で、これらのプロジェクトはまさにそのものだ。有名ブランドのクチュールでは、デザイナーとトップクライアントは個人的な強い絆で結ばれているが、私たちは別の方法で顧客との距離を縮めていく」と語った。