アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。前回(「ネット通販のアパレル3割も 『返品が当たり前』のアメリカ」)で報告したように、米国ではEC(ネット通販)の普及で返品問題が改めてクローズアップされている。各社はどんな対応をしているのか。
商品の流れは大きく、上流から下流へのフォワードロジスティクスと、下流から上流へのリバースロジスティクスの2つに大分類できる。アメリカの大手企業はフォワードだけではなくてリバースの効率化にも長く取り組んでいて、ウォルマート(WALMART)やターゲット(TARGET)といった大手企業は返品専用センターすら持っている。
ところがEC市場の成長でフルフィルメントからラストマイルへと新たな商品フローがここ数年で膨らみ、合わせてラストマイルのリバースロジスティクスも急速に拡大している。従来ならば店舗が返品デポとなるため、店舗で返品を集約できるのだが、ECの場合は単品が逆宅配でフルフィルメントセンターに戻ることになるので、これを小売企業負担とすると大変なコストがかかる。
数年前の調査数字だが、返品商品をお客が自社店舗に持ってきた場合の返品処理コストは1パッケージあたり3ドル、お客がEC企業に直接送り返した場合は6ドル、そしてすべてを返品に特化していない3PL(サード・パーティ・ロジスティクス。物流代行)にアウトソースすると8ドルを要するという。また物流だけではなく顧客サービスや商品の流動化といった要素を加味すると、50ドルの原価に対して29.50ドルのコストがかかるという試算もある。
つまりECの返品はリアルの返品よりもコスト高なのである。そのため各社ともにEC返品の効率化を急ピッチで進めている。
返品をどこに集約するかがカギ
カギはどこで集約するかだ。フォワードにおいて物流の真ん中にハブを一つ置くことで物流線を減らすことができるのはロジスティクスのイロハのイだが、リバースにもこれがあてはまる。
例えばアマゾンは衣料チェーンのコールズ(KOHL'S)店内に専用返品カウンターを設置したり、ドラッグストアチェーンのライトエイド(RITE AID)で返品できたりと、リアル小売企業と提携する戦略を取っている。お客に返品を一つ一つセンターに返送してもらうのではなくて、チェーンストアの店舗でいったん集約するのである。
一方のウォルマートは当然店舗で返品を受け付けているのだが、店舗に加えてフェデックス(FEDEX)と提携し宅配人が返品を集荷するプログラムを開始している。アメリカの宅配業界は、集荷はオフィスのみで、宅配人がお客から荷物を受け取るということをしてこなかったので、大きな変化だ。宅配車の帰り便が空、つまりバックホールで空気を運ぶという無駄を続けているわけなので、これを変えることにつながるのかどうか。またウォルマートはフェデックスのオフィスでも返品可能としている。
おそらくウォルマートの店舗だけではさばききれなくなってきているので、返品の集荷場所を増やそうとしているのだろう。
私が注目しているのはEC返品に特化した企業である。スタートアップ企業のハッピーリターンズ(HAPPY RETURNS)は「リターンバー」と呼ぶ返品専用カウンターをショッピングモールや小売店舗内に設置し、契約するEC企業(エバーレーンやアンタックイットといった著名衣料EC企業を含む)の返品を処理するシステムで成長している。
ECの返品処理に特化した企業は他にも複数存在する。ナーバー(NARVER、契約企業はリーバイス、パタゴニア、セフォラなど)、オプトロ(OPTORO、契約企業はステープルズ、イケア、ベストバイなど)といった企業が知られている。
またアマゾンやウォルマートは、ユーザーが返品の意思を示したときに、返品させずにそのままとし、返金するか代替品を送ってしまう政策を取り始めているという。既述のように返品は高くつき、とりわけ低価格商品は返品させないほうがコスト安となる場合がある。これは私自身がアマゾンで経験したことがあるので、今に始まったことではなくて返品政策として公に認めたと言うことなのだろう。
昨年は大きなECシフトが起きた年だったが、それに付随するようにEC返品の効率化が大きな取り組み課題となっている。