針の形は4万年前と同じ。だけどそろそろ変わるのかもしれない
針の歴史は4〜5万年前にさかのぼります。動物の骨の先を尖らせ、糸を通すために穴を開けたその道具は動物の皮を縫い合わせて衣服を作るための道具だったそうです。函館や長野の縄文博物館で1万年前の針を見たことがありますが、見た目は今の針と全く同じ。目的から考えれば形を変えようがないので当たり前ですが、衣服を作る道具が数万年単位で変わっていないことに驚きます(ちなみに水差しの形も数万年前と同じです)。
「だから、針はすごい発明なんですよ」。先月末、「ユイマ ナカザト」2021年春夏オートクチュール・コレクションの発表の場で、デザイナーの中里唯馬さんは針について、そして数万単位で変わらない針と糸を使った服作りについて熱く語っていました。そしてさらに熱く語ったのは、そんな服作りの根底をアップデートする挑戦についてでした。中里さんは、スパイバーが開発した人工クモの糸を使い、針も糸も使わないオートクチュールに挑戦しています。テクノロジーを使って人の身体情報を生地に記憶させ、糸に含ませる水分量や熱量を調整することで服の形を作るのです。数万年の針と糸を使った服作りの歴史がデジタルの力でアップデートされるとしたらそれは驚くべきことです。
アトリエには透明の棺桶のような不思議な機材があり、まさに実験室の様相です。その作り方は、服というより料理に近い。料理は食材に加える熱や水分の量や時間で味のベースが決まる科学ですよね、中里さんがトライしていることはまさにそれ、科学の服作りです。科学に「感情」を絡めている点が中里さんの仕事の1番のポイントであり見どころなのですが下記の記事からぜひ。
自由奔放かつ壮大なクリエイションが見られるオートクチュールは、デジタルになった今だからこそ楽しめます。先月末に発表された2021年春夏コレクションも面白かったです。米国の大統領就任式でレディー・ガガが着たことで話題になった「スキャパレリ」は、去年のクリスマスにキム・カーダシアンのためにデザインした筋肉ムキムキドレスがぶっ飛んでいたし、ローマのコロンナ美術館(「ローマの休日」のラストシーンのロケ地です)で無観客ショーを開いた「ヴァレンティノ」の荘厳な美しさは家のテレビの大画面でお酒を片手に見る価値ありです。ぜひ一度のぞいてみてください。
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