ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す新連載。31回目は大回顧展が話題の石岡瑛子から「タイムリー」であることを考察する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W) (この記事はWWDジャパン2021年1月4&11日合併号・18日号からの抜粋です)
コロナ禍でさまざまな展覧会が中止または延期になる中で、一人気を吐くように話題に上っている展覧会がある。東京都現代美術館で11月14日から開催されている「石岡瑛子血が、汗が、涙がデザインできるか」がそれだ。パルコ誕生時のキャンペーン広告から、ハリウッド映画や北京オリンピック開会式のコスチューム、さらにビョークのMVディレクターまで、領域や国を越えて活躍したスーパーデザイナー、故・石岡瑛子(1938年生まれ、2012年没)の集大成を体感する内容だ。
その領域の横断性と完成度の高さに圧倒されるが、私は彼女の代表作はやはりパルコの広告群だと思う。どれも大胆なイメージと明快なメッセージがある。新奇過ぎるようでいて、的確に時代の声を代弁しているところも素晴らしい。この時期のように「時代がクライアント」と感じさせてくれる作品は強い。
石岡の手掛ける領域の広さに目がくらみそうになるが、丹念に見ていくと「人をどう魅力的に見せるか」がその生涯を通したテーマとして浮かび上がる。ゆえに日本初のファッションデパートとして誕生したパルコの広告や、ハリウッド映画の衣装デザインといったファッション性の高い仕事が彼女の真骨頂だろう。
彼女の晩年を何度も取材し、500ページを超える傑出した評伝「TIMELESS—石岡瑛子とその時代—」(朝日新聞出版)を11月に出した元「広告批評」編集長である河尻亨一は、石岡のパルコ広告の誕生は、決して順風満帆ではなかったと記す。「そのイメージはパンチの効いた強いものでなければならなかった。なぜなら、パルコは赤字のデパートを引き継いで立ち上げた“ベンチャー”である」と。そう、池袋で産声をあげたパルコ1号店は、立ち行かなくなったデパートの起死回生の博打だったのだ。そこで、石岡はその広告に独自の思想と強い姿勢を込めた。
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