昨年12月28日発表の三陽商会に続き、1月8日にはオンワードホールディングス(以下、オンワード)、13日にはTSIホールディングス(以下、TSI)、2月3日にはワールドとコロナ禍の2021年2月期・3月期第3四半期(以下、3Q)決算が出そろったが、コロナ禍のダメージと財務状況の逼迫度は必ずしも一致せず、コロナ禍以前からの失策のツケが露呈した感がある。各社の実態をどう捉えるべきだろうか。
3月期決算のワールドを除く3社は2月期決算。三陽商会は前期が14カ月変則決算のため前期比数値が算出できない
4社の売り上げダメージと衣料消費の激減
3Q累計売り上げの前年同期からの落ち込みは三陽商会が最も大きく(月次単純平均で37.9%減、三陽商会は以下同)、オンワードの28.3%減、ワールドの27.2%減が続き、TSIの22.7%減が最も軽かった。いずれも緊急事態宣言に直撃された1Qの落ち込みが大きく、百貨店比率の高かった三陽商会の65.0%減に対し、TSIは49.4%減、ワールドは45.0%減とやや落ち込みが浅く、ECの急伸に救われたオンワードは34.9%減に収まった。2Q、3Qの回復はTSIが最も早く、ワールド、オンワードが続き、三陽商会が最も鈍かったのも百貨店依存度に相応している。
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店舗の休業などで上半期のEC・通販売上比率が前期の12.7%から24.4%に急伸したとはいえ、三陽商会の百貨店売上比率は前期の62.3%から56.9%と高止まりしており、3Q累計国内売り上げでECが32.4%と百貨店の29.6%を凌駕したオンワードと比べれば百貨店依存の高さが際立つ。ワールドは3Q累計でECは22.2%に過ぎないが、駅ビルやSC(ショッピングセンター)など非百貨店が42%ほどを占めて百貨店は20%程度まで落ちたと推計される。TSIは3Q累計で非百貨店が42.7%、ECが29.8%を占め、43%も減少した百貨店は9.7%と1ケタに落ち込んだ。
コロナ禍の20年は消費が冷え込み、経済産業省の商業動態統計では「衣服・身の回り品小売売り上げ」が16.8%減少、総務省家計調査でも「被覆及び履物支出」が19.8%減少したが、日本百貨店協会による商品別売り上げで衣料品は31.1%、身の回り品は27.1%、化粧品は39.1%も落ち込んだ。衣料消費全体では20%前後落ち込んだと見られるが、百貨店を中心とした高額品の落ち込みが大きく、低価格の生活衣料は落ち込みが浅かった。
ロックダウンが続いた米国(米国商務省小売統計)では食品スーパーなどエッセンシャル消費が伸びて「小売売り上げ」総体(自動車・機械・ガソリン・飲食を除く)が6.9%増加し、ECが大半を占める無店舗小売が22.1%も伸びた中、衣料・服飾小売りは26.4%も減少した。米国に比べればわが国の衣料・服飾売り上げの落ち込みは浅かったが、日本の「衣服・身の回り品小売売り上げ」は「小売売り上げ」(自動車・機械・ガソリンを除く)の7.96%も占め、米国「小売売り上げ」に占める「衣料品・服飾小売売り上げ」の4.95%の1.6倍にも及ぶから、コロナ禍による市場縮小が一過性で済むと見てはなるまい。
4社の財務的ダメージ
売上対比の営業損失は三陽商会が25.2%と突出して大きく、他3社は7.3〜8.5%に収まる。三陽商会は純損失を12億6900万円に抑えたが、固定資産売却益67億円や有価証券売却益、助成金収入で補填した結果で、経常損失は68億1200万円に上る。オンワードは経常損失102億4500万円に特別損失85億9200万円が加わり、固定資産売却益25億9200万円、助成金収入16億9700万円等で補填しても142億円の純損失を計上している。TSIは経常損失70億1200万円に特別損失49億600万円が加わり、固定資産売却益18億2800万円や有価証券売却益、助成金収入等25億8500万円を補填しても111億9600万円の純損失を計上している。ワールドは営業損益段階で構造改革費用52億800万円を計上して78億8200万円の純損失を計上しているが、3Q段階では固定資産売却益などによる補填は見られなかった。
結果、三陽商会の純資産は365億2000万円と前期末から23億200万円減少、オンワードは678億8700万円と261億4900万円減少、TSIは804億400万円と150億4700万円減少、ワールドは747億300万円と85億9400万円減少したが、コロナ禍の今期だけで評価するべきではない。各社ともその前から業績が行き詰まり、純資産が大きく減少していた。15年2月期と比較すれば、オンワードは1174億2800万円/63.4%、TSIは414億5900万円/34.0%、三陽商会は286億2700万円/43.9%も減少している。ワールドは17年3月期の129億1000万円から20年3月期は832億6300万円と年々積み上げたが、今3Qは747億3400万円と85億9400万円減少している。
財務の逼迫度と構造改革
今3Qの有利子負債はオンワードで887億円と前期から223億1300万円、TSIも423億3600万円と同87億8800万円、ワールドも799億2100万円と同15億6400万円増えたが、固定資産売却益などで補填した三陽商会は60億2000万円と同30億1200万円減少している。ワールドは05年のMBO(経営陣が参加する買収)の借金2300億円の残債など1059億3800万円(18年3月期)を18年9月の再上場で引き継ぎ、20年3月期までに781億1800万円に圧縮していたが、コロナ禍で圧縮が止まった。
純資産対比負債比率はオンワードが130.7%と突出し、虎の子の欧州子会社オンワードラグジュアリーグループを20年12月11日付で売却することになった(22年2月期に計上予定)。次いで高いのがワールドの106.9%で、含み資産も限られることから2月3日、新たに7ブランドの事業廃止と450店の閉店、子会社2社での100人の希望退職募集に踏み切っている。それに比べればTSIの52.7%はまだ健全だが、今期末までに243店を閉め、300人の希望退職を募集する。
意外に健全なのが三陽商会の16.5%で財務的には逼迫していないが、営業損失があまりに大きく(3Qで売り上げの25.2%)、今期中に160店を閉めて販売員を500人削減し、4度目の希望退職(150人)も募集する。三陽商会の希望退職は13〜18年で770人にも達しており、今回を合わせると920人を超えることになる。なまじっか財務に余裕があったことが抜本的な改革を遅らせ、度重なる希望退職もあって人材の流失も激しく、脱百貨店もECシフトも遅れ、後手に回って出口が見えなくなっているが、それでも破綻には遠いアイロニーが悲しい。
傷が軽かったように見えるTSIとワールドだが、両者はコロナ以前に構造改革を断行してある程度、贅肉を落としていた。TSIは13年2月期、14年2月期に941店を閉め、16年2月期には528人が希望退職していたし、ワールドは16年3月期に500店を閉めて453人が希望退職し、20年3月期にも294人が希望退職している。オンワードも20年2月期に423人が希望退職しているが、大量閉店は21年2月期からだ。
財務的な余裕がそれほどなく(ワールドは借金を抱え)先んじて構造改革に踏み切った非百貨店系大手アパレルとて、コロナ禍では少なからぬダメージを受けて追加の構造改革を強いられたが、長年の蓄積で財務的に余裕があった百貨店系大手アパレルは構造改革に遅れを取り、コロナ禍で急激に追い詰められたと総括されよう。
商品財務と運転資金負担
在庫回転はSC向け低単価商品も多いワールドが前年同期から0.36回減速の3.07回、在庫を17.2%絞ったTSIは逆に0.17回加速の2.81回、オンワードが0.37回減速の2.36回と大差なかったが、百貨店比率が突出して高かった三陽商会は前期から0.6回減速の1.66回(棚資産回転220.2日)と過剰在庫が積み上がった。2Q末では1.45回(棚資産回転250.9日)だったから3Qで多少は在庫圧縮が進んだが、危機的水準であることは変わらない。
運転資金回転日数も三陽商会が206.2日と最も長く201億6300万円、純資産対比55.2%の運転資金を要しているが、オンワードも118.4日と短いものの564億2900万円、純資産対比では83.1%の運転資金を要している。TSIは92.3日、326億4100万円、純資産対比では40.6%と抑制できており、ワールドは以前からのマイナス日数を維持して163億1900万円の回転差資金を稼いでいる。商品財務は各企業のサプライチェーンを反映しており、コロナ禍以前から政策的に運転資金回転を制御できていたかが問われた。
4社の将来性
通期の売上見通しはオンワードが前期比24.5%減、ワールドが24.7%減、TSIが22.3%減と落ち込み幅は大差なく、三陽商会は380億円(前々期比35.7%減)と落ち込みが大きい。
来期以降の売り上げも百貨店比率とEC比率で趨勢が決まるが、百貨店比率が際立って高く人材の散逸も激しい三陽商会はもちろん、大量閉店と事業撤退、急激なECシフトの反動でオンワードも売り上げの回復は鈍く、コロナが長引けばさらに落ち込むリスクも指摘される。大量閉店とブランド廃止、人員整理でワールドもTSIも厳しいが百貨店比率が低く、回復に転ずるのは三陽商会やオンワードよりは早いと思われる。
売り上げの回復にはDX(デジタルトランスフォーメーション)やロジスティクスなど新たな投資も必要で、財務基盤から見ればTSIが優位にあり、三陽商会も経営主体次第でチャンスはあるが、オンワードとワールドは財務の立て直しを先行せざるを得ず、反転攻勢に出るのは一歩遅れるかも知れない。
コンテンツ(ブランドや商品)の市場性という点では、価格が高く旧態な通勤服が大半を占める三陽商会やオンワードは再構築が必要で、市場と大きく乖離した価格の抜本的訂正も必須だから、マーケットに受け入れられるには長い時間がかかる。D2C・C2Mブランドは売り上げのスケールが小さく、全体を押し上げるパワーは期待できない。ワールドやTSIが抱える多様なブランドもアフターコロナのマーケットに受け入れられるのは一部であり、新たなライフスタイルに応えるエッセンシャルなブランドや商品の開発には時間がかかるが、百貨店系2社に比べればまだ組織も思考も柔軟だから可能性は小さくない。
大手アパレル、とりわけ百貨店系アパレルは幾度、警鐘を鳴らしても、見たい未来と見たい顧客の幻影ばかりを追って現実に目を向けようとしなかった。もはや「レナウンとどこが違うのか」と問われても答えに窮する状況であることは否めないのではないか。