ファッション
連載 不易と流行のあいだ

菅付雅信連載「不易と流行のあいだ」 SNS時代の美女と野獣

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 ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す新連載。33回目は現在進行形の美女と野獣を考察する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年2月1・8日号からの抜粋です)

 今、世界には2種類の新しいテロリストがいる。一つは過激なトランプ支持者。2021年1月6日にトランプ前大統領の支持者たちが米国会議事堂に乱入した事件は記憶に新しい。この騒動でアメリカの民主主義の砦である国会議事堂で警官を含む5人が亡くなるという前代未聞の悲劇が起きた。マイク・ペンス前副大統領は「関係者は法の限りにおいて起訴する」と警告した。反乱者をテロリスト指定し、FBIは既に100人以上を逮捕している。

 もう一つの新たなテロリストは、過激化する「モテない」男性だ。欧米で「インセル」と呼ばれる男性たちがテロ事件を起こして社会問題となっている。インセル(Incel)とはInvoluntary celibateの略称で、「不本意な禁欲主義者」という意味。要するに、付き合う相手がいないため、不本意ながら性的に禁欲を強いられている男性のこと。大半は若年層の白人男性の異性愛者という。

 インセルが起こした事件には次のようなものがある。18年4月23日にカナダ・トロントで車が通行人に突っ込み、10人を殺害、死者の多くが女性という事件が起きた。犯人はアレック・ミナシアンという25歳の白人男性。彼は事件後、自身のフェイスブックに「インセル革命はすでに始まっている!われわれはチャドやステイシーどもを全滅させる!最高の紳士エリオット・ロジャー万歳!」と投稿した。

 彼が敬うエリオット・ロジャーとは何者か。インセルを標榜してテロを起こした起源とされているのが、14年5月にカリフォルニア州で起こった大量殺人事件。その犯人が22歳のエリオット・ロジャーという若者だ。銃とナイフで6人を殺害後、自殺した彼は、137ページにも及ぶマニフェストとユーチューブに動画を遺した。そこにはインセルである彼らの敵、「チャドやステイシー」について言及をしている。聞きなれない言葉だろう。これらは付き合う相手に不自由しない「モテる」人々のことで、イケメンを「チャド」、美女を「ステイシー」と呼ぶスラングだ。

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