森川拓野デザイナーのメンズブランド「ターク(TAAKK)」は2月8日、2021-22年秋冬コレクションを東京・池袋の自由学園でショー形式で披露した。1月にデジタルで開催されたパリ・メンズ・コレクションには公式スケジュールで初参加して映像を発表。今回のリアルでのショーは、19年に受賞した東京都と繊維ファッション産学協議会主催のファッションコンペ「ファッション プライズ オブ トウキョウ」の支援で行われた。ショーは1日3回実施され、各回には30人前後のメディアとバイヤーが来場。建築家のフランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)と遠藤新の設計によるノスタルジックで厳粛な空間の中、会場隅にはいつもより強張った表情を見せる森川デザイナーがいた。
演出の裏に素材への自信
今回のショーは「昔のオートクチュールのショーをヒントにした」という言葉通り、ウオーキングするモデルの服をデザイナー自身が解説するという演出だ。つい1時間前までは「良いショーになるよ!」と輝いていた表情がリハーサル中には「多分、何とかなる」とやや曇り始め、時間を追うごとに「っはぁ〜」という深いため息とともに強張っていく。作り手として人前に立つことが多くないデザイナーにとって、緊張するのは当たり前だ。それでもこの演出にこだわったのは決して奇をてらったわけではなく、新たに開発した素材への自信からである。
ショーの幕が開けると、マイクを手にした森川デザイナーが「このコートはポリエステルとモヘアを二重織りにし、見た目よりも軽いんです」「ジャケットは光の当たり方によって生地の見え方が変わります」「アウターは薄手の素材ですがライナーが付くので冬でも着られます」と一着一着を丁寧に解説を始めた。先ほどまでのガッチガチな表情がウソのように、コレクションについて滑らかに語る。服への集中力は必然的に高まり、中には解説に合わせて身を乗り出す客もいた。今シーズンは森川デザイナーが夢で見た曖昧な記憶を辿り、服の素材や技法、グラフィックで現実との狭間を表現した。特に目を引いたのが、服が上下で徐々に別の服へグラデーションで変化していく素材のテクニックで、「ヤバい服できちゃった」と森川デザイナー。くっ付けたり貼り付けたりするハイブリッドではなく、2つの服を霞みがかったように融合させる。ウールのジャケットが織りによってナイロンクロスのMA-1に変化したり、MA-1がリップストップのフィールドジャケットに、ウールのヘリンボーンジャケットがコットンツイルのシャツへと変わったりと、既存のハイブリッドとは一線を画す“ミスティ ハイブリッド”がさまざまなアイテムに用いられた。
人の心を動かす冒険心
前シーズンからのきれいなフォーマルのムードは継続。丈が短いジャケットや肩パッド付きのシャツをはじめ、シープレザーのワイドパンツやジャージーのフレア、カマーバンド付きのハイウエストパンツなど、多彩なフォームでスタイルに変化を加えた。強みである素材のテクニックをはじめ、メリハリを付けたシルエット、夢の光景のような花のグラフィック、優しいパステルカラーはフォーマルだからこそ一層際立ち、デザイナー自身の丁寧な語りによってディテールへの理解も深まった。
今のフォーマル路線でメジャーの舞台に駆け上がるには、まだまだ洗練させる必要はあるだろう。しかし、「ターク」の大胆で冒険心に満ちたクリエイションには心を動かす力がある。デジタルやリアル、パーソナルな映像やビジュアルなどコレクションの見せ方が多様化する中で、今回のショーは森川デザイナーの口癖である「これ、かっこいいっしょ?」という前のめりな熱量を伝えるにはぴったりだった。