先端技術だけがテックじゃない
先日、アイスタイルが主催する「ジャパン ビューティテック アワード」の審査員を務めさせていただきました。大賞を含む各賞の発表は来月なので多くは語れませんが、人を幸せにするためのビューティテックを讃える同アワードには、「テクノロジーで、こんなコトが可能に!?」なんてモノから、「正直めっちゃハイテクではないけれど、こう使えば、新しい価値になり得るの!?」なんてモノまで、さまざまなビューティテックが登場。それをJAXAにも携わるハイテクの学者から、いまだCMSのセットに心的ハードルを感じているローテクの私までが審査させていただきました。結果発表については、今年も「WWDJAPAN.com」で紹介したいと思っています。
テックとの付き合い方は、さまざまです。上述の通り「先端テクノロジーでワクワク」と、「めっちゃハイテクという程ではないけれど、使い方次第」という2つの方向性を考えた時に思い出したのは、「アンリアレイジ」と「ダブレット」という、パリコレでも活躍する東京ブランドでした。
「アンリアレイジ」については、皆さん、ご存知のことも多いでしょう。太陽光にあてるとモチーフが浮き出るフォトクロミック技術を筆頭に森永さんは、テクノロジーと呼ぶにふさわしい技術をファッションと融合し、イノベーションを起こしています。
一方の「ダブレット」をテクノロジーのブランドと捉える人は、国内においては、そんなに多くないかもしれません。でも最新の2021-22年秋冬コレクションでも、例えば“解析度”が従来よりもはるかに高い刺しゅうなど、新たな技術に果敢に挑戦しています。あ、「『アンリアレイジ』に比べると、ずいぶんローテクだなぁ」って思った人、いませんか(笑)?確かに、フォトクロミックなどの技術に比べれば、細かな刺しゅうはイノベーティブというほど革新的ではないかもしれません。「ジャパン ビューティテック アワード」で例えれば「革新性」や「技術性」は、「アンリアレイジ」の勝ち。でも、総合点で言えば「ダブレット」も負けていないのです。
では、「ダブレット」が負けていない理由は何か?それは技術を、エモーショナルな洋服づくりに生かしている点です。もちろん「アンリアレイジ」だって、そうなんですけれどね。
たとえば21-22年秋冬コレクションでは、リンク3本目のLOOK23のように、“解析度”が従来よりもはるかに高い刺しゅうの技術でパーカやTシャツを作成。でも刺しゅうで描いたのは、架空のレトロな映画のポスター。井野さんは、「絵柄にUFOを入れると、全部面白く見えるんです(笑)」と話し、なんとも“ほっこり”させてくれます。架空の、しかもちょっと“おバカ”な映画のポスターを、最先端ではないけれど、まぁまぁ新しい技術で本気で描く。「アンリアレイジ」ほどイノベーティブではないかもしれませんが、ファッション&ビューティが本領を発揮すべきエモーショナルであることは間違いありません。
テクノロジーとの融合は不可避ですが、その方法はさまざまです。そして、そこまでハイテクじゃないテックをエモーショナルに使うは私たちにもできそうだし、結局それが、ことファッションにおいては真骨頂になり得るのかもしれないとも思っています。
FROM OUR INDUSTRY:ファッションとビューティ、関連する業界の注目トピックスをお届けする総合・包括的ニュースレターです。「WWDJAPAN Digital」が配信する記事から、特にプロが読むべき、最新ニュースや示唆に富むコラムなどをご紹介します。エディターズレターとは?
「WWDJAPAN」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在8種類のテーマをお選びいただけます。届いたメールには直接返信をすることもできます。