従業員の健康を経営的な課題として捉える健康経営を推進する企業が増える中、女性特有の健康課題に向き合うフェムテック企業を中心にこれまで見過ごされてきた問題に取り組む動きが出てきている。欧米では、業界の多様性推進や優秀な人材の確保のため、フェイスブックやグーグル、アップルなどが卵子凍結の費用補助を福利厚生に導入。特にミレニアル世代やZ世代の間では、家族や健康に関するサポートを企業に求める声が高まっている傾向にあるという。国内では女性の労働人口の増加に伴い、育休や産休、働き方に関する制度は整備されてきたものの、真に女性が働きやすい環境に向けた支援は十分とは言えないのが現状だ。多くの女性が活躍するファッション&ビューティ業界でも企業制度の見直しが不可欠になるだろう。(この記事はWWDジャパン2021年2月8日号からの抜粋です)
経済産業省の調査によると、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などが原因で職場で困った経験があると回答し、そのうちの多くが生理痛や月経前症候群(以下、PMS)などの月経困難症によるものだ。PMSとは月経前の3~10日の間に起こる身体的、精神的症状で、個人差はあるもののイライラ、集中力の低下、頭痛、乳房の張りなどの症状が見られ、女性にとっては仕事のパフォーマンスにも影響する深刻な問題だ。
女性のための健康情報サービス「ルナルナ」を展開するエムティーアイは、健康経営の一環として、生理痛やPMSなどの症状に悩む女性従業員を対象に、同グループ会社のカラダメディカが提供するオンラインによる婦人科受診と低用量ピル服薬の支援を福利厚生として導入した。低用量ピルは避妊薬として開発されたが、現在は生理痛やPMSをやわらげる月経困難症の治療に多く使われている。一般的にピルの費用は月に3000円ほどかかるが、同社は診療代やピルの配送料なども含めた全額を負担する。織茂千絵エムティーアイ広報室室長は「ピルを飲んでもらうことが目的ではなく、社員がきちんと体調管理をし、長く働ける環境を整えることに企業としてもメリットがあると考えた。なかなか産婦人科に行く機会がない若い社員にも、体調不良があったときに気軽に相談に行ける環境を提供したい」と話す。導入前に希望社員15人を対象に約半年間かけて行った実証調査では、仕事のパフォーマンスの向上や社員の体調不良の改善が数値として表れ、生理周期が整うことでスケジュール管理がしやすくなったといった声や、社員の相互理解が深まったといった反響もあったという。
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