グレイスグループはこのほど、選択的卵子凍結保存サービス「グレイスバンク(GRACE BANK)」を開始した。卵子凍結とは、将来の妊娠、出産に備えて、卵子を採取して凍結保存しておく方法。「グレイスバンク」では、提携クリニックで採卵し、凍結させた卵子を、同社の一括保管庫に輸送し、体外受精を必要とするときまで保管を担う。医学的に妊孕性(妊娠するために必要な能力)の喪失が差し迫っていない女性がライフプランのために卵子凍結を選択できる社会インフラの整備を目指す。
2月10日に行われたプレスカンファレンスでは、勝見祐幸グレイスグループ代表取締役会長、花田秀則代表取締役CEO、杉山力一エグゼクティブ・メディカル・アドバイザーらが立ち上げの背景やサービスついて解説した。花田CEOは立ち上げの経緯について「現在ライフプランとキャリアが両立できない社会的環境の中で、不妊に苦しんでいる人はたくさんいる。女性個人だけでなく、社会をあげて取り組まなければいけない状況に来ているため、妊活の一貫として比較的年齢が若いうちでも卵子凍結を選択できる環境を整えるべきだと考えた」と話す。現在、日本では年間約45万件の体外受精が行われており、不妊治療大国でありながら、高齢になってから不妊治療に取り組むケースが多いことや、卵子提供が一般化していないことなどから、成績が伸びていない実態がある。「また、卵子凍結が社会的に求められていることではなくあくまで個人の選択ということを強調するために“選択的卵子凍結”と名付けた」と説明する。
不妊治療は自由診療のためにクリニックによって価格や技術にバラつきがあり、卵子の長期的な管理体制に不備があることなどがリスクとして挙げられている。同社はこれらを改善するために厳選したクリニックとのネットワークを構築し、資本業務提携を結ぶステムセル研究所が運営する国内最大級の保管庫で保管することで、安全性を担保しながらコストも大幅に削減した。保管費用は卵子15個までであれば初期費用10万円、年間3万円となる。
利用者は公式ホームページから申し込み、提携クリニックの中から採卵を実施する場所を選択する。現時点の提携クリニックは東京・新宿と丸の内にある杉山産婦人科などの8クリニックで、今後は同社が審査を行いながら全国にネットワークを拡大していく。これにより卵子保管期間中のクリニックの廃業や、利用者が不妊治療開始後にクリニックを変更したい場合などにも、採卵をやり直さずに若い卵子をそのまま不妊治療に使用できる体制を整えた。また保管庫では卵子の保管に不可欠な温度管理や液体窒素の補充を全自動で行い、卵子へのヒートショックや取り違えのリスクを回避する。
創業メンバーで、長年キャリアコンサルタントを務めてきた勝見会長は自身も体外受精で3人の子どもを授かった。同サービスを開始した背景について、「前職で企業の経営者の方たちと話す中で、従業員に長く働いてもらうためには福利厚生の充実が不可欠であると感じていた。アメリカを中心に卵子凍結を含む不妊治療を企業がサポートする事例がある一方で、日本では不妊治療に取り組む人は多いが、負担の大部分を女性に担わせている社会課題を認識していた」という。
2月には大手福利厚生プラットフォーム「ベネフィット・ワン」との連携を開始した。「ベネフィット・ワン」の会員868万人を対象に優待価格で選択的卵子凍結保存サービスを提供。女性の医学的機能に向き合うための社内セミナーの実施や社内の相談窓口の設置などにも取り組んでいく。
また「グレイスバンク」は、AYA世代(Adolescent&Young Adult)と呼ばれる若年ガン患者に向けた卵子凍結の保管費用を10年間無償で提供 する社会貢献事業にも取り組む。AYA世代の若年ガン患者は、抗がん剤投与や放射線治療などにより、男女ともに生殖能力が低下したり、失われたりすることが分かっている。担当医から卵子凍結を含む妊孕性温存療法が提案されることが多いが、年間4000人のAYA世代の女性がん患者が経済的な理由によって卵子凍結を断念している。