「WWDジャパン」は2月22日号で、「2020年秋冬に売れたものは何だった?」と題した特集と、全国の百貨店41店の商況アンケート回答で構成する「別冊ビジネスリポート」の発行を予定している。同特集は半期に一度の恒例企画であり、特選(ラグジュアリー)、化粧品、婦人服、紳士服などの商品カテゴリー別に消費動向を振り返るもの。特集作成のために百貨店の特選バイヤーを毎シーズン取材しているが、20年秋冬の特選商況を語る上で欠かせないのが“新世代富裕層”と呼ばれる人たちだ。コロナ禍で訪日外国人客が消え、百貨店全体の商況がどこも大変厳しいのは周知の通り。しかしこと特選カテゴリーに限れば、“新世代富裕層”を中心とした国内客の消費に支えられ、前年実績を超えているという店舗も出ている。
“新世代富裕層”とは一体どのような人たちで、百貨店側はどうやって彼らを引きつけているか。それについては2月22日号で詳報するが、歴史的な株高を背景に、“新世代富裕層”にとってはコロナ禍なんてどこ吹く風だ。彼らに支持されているブランドについて各社に聞いたが、いわゆる特選ブランドとは別に、何人かのバイヤーから「“新世代富裕層”にはコレが売れている」という声があがったのが現代アートだ。ここ数年の現代アートバブルを背景に、百貨店各社は従来から販売してきたクラシックな美術品だけでなく、現代アートの取り扱いを強化。それが、コロナ禍で海外旅行や外食を控えている“新世代富裕層”に刺さった。
例えば福岡の岩田屋本店。同店は2月10日、本館2階に現代アートギャラリー「ギャラリーコンテナ」をオープンした。約77平方メートルのスペースに、バンクシー(Banksy)、ジュリアン・オピー(Julian Opie)、カウズ(KAWS)、地元福岡のキネ(KYNE)などの作品をそろえる。「25万円のフィギュアから1000万円超えの作品まで扱っている」と広報担当者。
同ギャラリーは百貨店の上層階にある美術フロアの中ではなく、同店で現在絶好調という「ディオール(DIOR)」のメンズや、「バーバリー(BURBERRY)」など若年男性から人気のブランドがそろう本館2階にあるという点がポイント。ギャラリーの真向かいは「ブラック・コム デ ギャルソン(BLACK COMME DES GARCONS)」だ。岩田屋本店では昨年から現代アートの催事を何度か行っており、好評だったことで常設化を決めたのだという。
19年9月に改装オープンした大丸心斎橋店も、本館8階の美術フロアの中で現代アートを扱っている。“新世代富裕層”による投資感覚の買い物は、「(ブランド品のバッグや高額ジュエリーなどではなく)今は現代アートと腕時計に集中している」と大丸松坂屋百貨店の特選バイヤーは話す。美術品の売り上げが国内百貨店で最大である三越日本橋本店も昨年3月、6階の美術フロアの中に現代アート専門のスペースを設けた。
百貨店が扱う美術品と言えば、従来は古美術や近代美術が中心だった。それが、ファッション商品を買うのと同じ感度で美術品を求める“新世代富裕層”の拡大を受けて、現代アートに熱視線が注がれている。コロナ禍の中でも堅調である特選カテゴリーとの相乗効果も見込めることから、各社現代アートへの期待は高い。一方で気になるのは、そごう・西武が2月8日に公表したこんなニュース。同社が09~20年に販売した美術品の中に、贋作の疑いのある商品が含まれていたという。報道によればこれらは現代アートではなく近代美術だそうだが、アート販売が盛り上がることでこうしたリスクも広がっていきそうだ。