ファッション

会心の「セリーヌ オム」に辛口な仏メディアも絶賛 「エルメス」「ディオール」など海外紙のメンズコレ評

 1月19〜24日に2021-22年秋冬シーズンのパリ・メンズ・ファッション・ウイークがデジタルで開催された。フランスは20年10月30日に2度目のロックダウンが始まり、クリスマス前に小売店が再開するも、年明けからは感染力の高い変異種が拡大。ファッション・ウイーク期間中は夜6時から翌朝6時まで外出が制限され、1月21日にはヨーロッパ内の移動でも陰性証明が必須となった。フランスが拠点のブランドはパリでバイヤー向けに展示会を開いたが、密の状態を避けるためにほとんどのメディア関係者は招待されなかった。そのためフランス各紙に掲載されたレビューは例年よりも少な目。ここでは、ビッグメゾン中心に各紙のコレクション評を紹介する。

HERMES
「最も優れたカラーリスト」

 各紙から最も高く評価されたのは「エルメス(HERMES)」だった。前季に続き、舞台演出家のシリル・テスト(Cyril Teste)とコラボレーションした映像でコレクションを披露した。会場は、フランスの公的機関で使用される家具や調度品、テキスタイルを製作しているモビリエ・ナショナル(Mobilier National)。約30人のモデルが行き交い、あいさつを交わし、階段で雑談を楽しむといった内容だ。色使いが特徴的で、クミンやワームウッド、藤といった刺激的な名前のニュートラルカラーに心を奪われたジャーナリストが多かったようだ。仏新聞「ル・モンド(LE MONDE)」は、アーティスティック・ディレクターのヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)を「最も優れたカラーリスト」と評した。仏新聞「ル・フィガロ(LE FIGARO)」のマチュー・モージュ・ズッコーニ(Matthieu Morge Zucconi)は「ニシャニアンは快適性や素材の品質、服の変形と多様性、生地の再利用と製造に対する信念を映像でも伝えた。これらのアイテムは多くの方法で、多くのシチュエーションで着用できる」と説明。ニシャニアンは同紙に対し「新しい生き方や着こなし、働き方の概念を分かりやすく表現したかった」と語る。仏ウェブメディア「ファッション・ネットワーク(FASHION NETWORK)」のゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)も「カジュアルとラグジュアリーを両立した、ロックダウンに最適なウエア」とするも、若く美しい青年ばかりのモデルの人選にはやや不満だったようだ。「キャスティングを再考してほしい。彼らのルックスは理想的な義理の息子、もしくは最近スタートアップ企業を立ち上げた才能ある若手実業家のようだ。でも美しいスニーカーを履くべきなのは、彼らのような若い世代だけではない」。

DIOR
「尊敬せずにはいられない」

 キム・ジョーンズ(Kim Jones)率いる「ディオール(DIOR)」も高評価だった。今季はスコットランド生まれの現代アーティスト、ピーター・ドイグ(Peter Doig)との協業で、魅惑的な異国情緒とポップな軍服主義をミックスしたようなコレクションだった。キムは「ル・フィガロ」に対して「オプティミズム(楽観主義)を保つために祝杯を挙げたかった。世界で起きていることに反応するのは大切だから。世界には心の潤滑剤が必要なんだ」とコメント。「ディオール」のアーカイブを再解釈し、1947年に登場したアイコニックな“バー”ジャケットをはじめ、60年代に同ブランドのデザイナーを務めたマルク・ボアン(Marc Bohan)が制作したドレス、フランス芸術アカデミーのコスチュームに着想を得た刺しゅうや装飾が付くユニフォームなど、インスピレーションソースは多岐にわたる。「ル・フィガロ」は「キムは『ディオール』の財産であるアーカイブと、クチュールの技術をメンズ服で見事に表現した。尊敬せずにはいられない」と称賛。レモンイエローやブラッドオレンジなどの鮮やかなカラーと、ネイビー、モーブ、グレーといった落ち着いた色調を組み合わせて、ピーター・ドイグの作品のように繊細なカラーリングも高評価だったようだ。

LEMAIRE
「彼らはさらに成功する」

 色彩の美しさでは、「ルメール(LEMAIRE)」も強く印象に残っている。グラデーションのコートやレイヤードすることで深みが増すカラーパレットには、“着る人の個性を強調するための衣服”というデザイナーデュオ、クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)とサラ=リン・トラン(Sarah-Linh Tran)の哲学が今季も貫かれていた。「通気性のあるコットンやコーデュロイ、シェットランドウールなどの素材の品質と、使いやすさを優先したカッティングは日常生活のための全てが合理的かつ知的に考えられている。半年ごとにワードローブに革命を起こすのではなく、追加することで更新していくというアプローチは、パンデミックによって強化された。今年の冬は、彼らがさらに成功する姿を私たちは見ることになるだろう」と「ル・モンド」紙は予期している。

LOUIS VUITTON
「批判者を納得させる出来ではない」

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は壮大な映像とキャッチーなアイテムが多く登場したものの、各紙のレビューは意外に少なかった。今季の着想源は、アフリカ系アメリカ人の小説家ジャームズ・ボールドウィン(James Baldwin)が、スイスの村で唯一の有色人種として過ごした経験を綴った1953年出版のエッセイ「ストレンジャー・イン・ヴィレッジ(Stranger in Village)」だ。会場はパリのテニスクラブで、大理石のブロックや鏡の装飾を設置し、ソール・ウィリアムズ(Saul Williams)が詩を口ずさんだり、ヤシーンベイ(YASIIN BEY)がラップを披露したりする中をモデルが行き交う演出だった。キルトやカウボーイハット、ガーナの民族衣装ケンテを再現するなど、多国籍の文化を象徴するアイテムで多様性を表現した。最も目を引いたのは、ノートルダム寺院やエッフェル塔といったパリのランドマークを立体的に組み合わせたトップスだ。「ル・フィガロ」は、昨年8月に発表した同ブランドのコレクションが、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)のコピーではないかと一部から批判されたことを振り返り、皮肉交じりにこう評価した。「彼のファッションスキルは定期的に疑問視されている。今季も彼の批判者を納得させる出来ではないかもしれないが、コピーではないという彼の署名を雑多に残すことはできた」。

CELINE HOMME
「アンチを黙らせる出来」

 「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」はパリメンズの公式スケジュールには参加せず、2月8日にデジタル形式で発表。“ティーン・ナイト・ポエム(Teen Knight Poem)”と題したコレクションは、ゲーム・オブ・スローンズ風の約13分間のフィルムで、16世紀に建てられたシャンボール城が舞台だ。アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターのエディ・スリマン(Hedi Slimane)は、同コレクションを「若者とルネサンスへの頌歌」とし、「新しいロマン主義。若者は、ゲームと新しいアイデンティティーの架空のコードで自分自身を表現している」と説明している。さらに、エディは十代の頃にシャンボール城を訪れて、荘厳なモノクロの光景に魅了されたと付け加えている。城を築いたフランソワ1世は20歳にして王位継承後、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)らの芸術家をフランスに招き入れた人物であり、フランスの芸術の礎を築いたとされる重要人物だ。コレクションにはケープやスパンコールが刺繍されたパンツ、レザージャケットにベスト、肩を落としたコート、スタッズが散りばめられたフーディーなどを着用し、メイクをした若いモデルが鋭い視線で力強く歩く。「ル・フィガロ」は「靴下が見える丈のパンツやチェックシャツ、細いネクタイ、トレンチコート、ゴシックなどエディのおなじみのアイテムを、これまでとは違ったシルエットで構成し、新しいロマン主義を表現した」と評した。辛口批評家として知られる「ファッション・ネットワーク」のディーニーも「今回のコレクションで、エディが『セリーヌ』を去る日を指折り数えていたアンチを黙らせただろう。今季のメンズ・コレクションの中で一番の出来」と称賛している。

次こそリアルショーの復活を

 今季のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中は、イベントなども一切開催されなかった。唯一開かれていたのが、ルイ・ヴィトン本社の1階に位置するスペースで行われた限定ショップだ。ヴァージルのこだわりで、ポップアップではなく“レジデンス(居住)”と呼ばれ、2021年春夏メンズ・コレクションと限定品が販売された。話題と盛り上がりに欠けるファッション・ウイークではあったものの、次シーズンにはリアルのショーが復活することを期待したい。今年はパリに、ニューヨーク発のスニーカーセレクトショップ「キス(KITH)」やミラノのコンセプトストア「モーズ(MODES)」、LVMHグループの複合施設「サマリテーヌ百貨店」がオープン予定と話題が豊富なので、街に人と活気が戻ってくることを願っている。

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