ファッション

ブシュロンCEOに聞く新作ハイジュエリーとコロナによる教訓

 フランス発ジュエラー「ブシュロン(BOUCHERON)」は1月、新作ハイジュエリー“ヒストリー オブ スタイル アール デコ”を発表した。テーマはコレクション名にあるように“アール デコ”。「ブシュロン」といえば、本物の花びらやエアロゲルなどを使用した既成概念を超えたハイジュエリーが印象 的だ。今回、ジュエリーでは定番的な“アール デコ”というテーマを採用した理由やコレクションの見どころ、そして、コロナによるビジネスの影響についてエレーヌ・プリ・デュケン(Helene Poulit Duquesne)最高経営責任者(CEO)にオンラインインタビューした。

WWD:新作ハイジュエリーのテーマに、ここ数シーズン続いた独創的なテーマではなく定番的なアール・デコを選んだ理由は?

エレーヌ・プリ・デュケンCEO(以下、プリ・デュケン):「ブシュロン」では年に2回ハイジュエリーを制作している。1月はどちらかというとクラシックなテーマを採用し、7月は新素材や新しい技術を使用した革新的でクリエイティブな面を強調したコレクションになっている。昨年の1月はメゾンのアイコンの一つであるクエスチョンマークがテーマだった。今回の“アール デコ”というテーマはクリエイションディレクターのクレール・ショワンヌ(Claire Choisne)が選び、現代的な解釈を加えた。「ブシュロン」は自然やアール・ヌーヴォーのイメージが強いが、ほかのジュエラーよりもアール・デコと深いつながりがある。1925年に開催されたパリ万博では、アール・デコ作品を230点発表し、高く評価され、3点は受賞作品に選ばれたが、一般にはあまり知られていない。それを知ってもらうきっかけとなるコレクションだ。

WWD:今回のコレクションの見どころは?いちばん高額なアイテムは?

プリ・デュケン:アール・デコが過去のものではないということを実感してもらえるはずだ。今回のコレクションはフレッシュでコンテンポラリーな解釈を加えている。1925年の作品と2021年の作品を比べてみると、普遍性がありデザインされた50年後も通用するはずだ。最も高額な“プラストロン エメロード”ネックレスは約1070カラットのエメラルドを使用しており、価格は税込5億4648万円(予価)。そのほかにも、コロンビアから28個ものエメラルドを調達して21年らしいアール・デコを表現した作品もある。オニキスやロッククリスタルを使用したり、配置を水平にしたりV字にしたりすることで現代的に見せている。

WWD:毎回ジュエリーの概念を超えるクリエイションに挑戦しているが、今回のコレクションでは?

プリ・デュケン:今回のコレクションのチャレンジは、調達が困難なエメラルドを見つけることにあった。約1070カラットものエメラルドのビーズやクオリティーの揃った28個ものエメラルドを見つけられたことは奇跡とも言える。これはクレールの力によるところが大きい。

WWD:前シーズンからハイジュエリーのプレゼンテーションビデオに若い男女を起用しているが、その意図は?

プリ・デュケン:必要だと感じるときに男女モデルを採用しているだけで、特にステートメント的なものではない。社会学的な視点から見ると、皇帝やマハラジャといった権力のある男性がハイジュエリーを着用していた。ところが、フランス革命以降、男性は石付きのジュエリーを付けなくなった。現在の男性が付けるのはリングとウオッチくらい。だからウオッチ市場は伸びているのだと思う。それは、残念なこと。一方でアジアの男性は、ファッションにジュエリーを取り込んで楽しんでいる。ヨーロッパの男性にもアジアの男性同様にジュエリーを付けてほしいと思う。今回のテーマである“アール デコ”は、クリアなシェイプやライン、そしてブラックとホワイトのコントラストが特徴だ。クレールはそのコントラストがフェミニンとマスキュリンに置き換えている。だから、このコレクションは男性が付けても自然で美しい。その姿をコミュニケーションに反映した。「ブシュロン」には、既に“キャトル”というジェンダーレスなコレクションがある。それは、メゾンのDNAといってもいい。“ジャック ドゥ ブシュロン”も同様だ。男性、女性という性別に関係なく、個人の好みで選んでもらえるジュエリーを提供している。

コロナは急速な変化をもたらした教訓

WWD:コロナでジュエリーの紹介や販売方法はどのように進化したか?

プリ・デュケン:コロナになってからは、ライブストリームやクレールにコレクションについて語ってもらうビデオを作成するなどデジタルを活用している。フランスでは曜日を限定して、実際にコレクションを見てもらう機会も作っており、デジタルとアナログ両方をミックスしている。コロナ以前は、顧客にコレクションを見にきてもらっていたが、今はコレクションが世界各国を巡回するようになった。バーチャル・セールスにも注力している。スタッフ3人とカメラマン2人が必要で、何を見せるかスムーズに見せることが大切だ。なぜなら、顧客は15分程度で飽きてしまうから。高額品の場合は、実際みたいというリクエストもあるので、ジュエリーを送るなどして対応している。

WWD:コロナ禍におけるビジネスの状況は?

プリ・デュケン:全体的に売り上げは落ちていない。以前は、パリや海外で購入するというケースが多かったが、移動が制限される中、どうやって実物を見せるかが課題。販売方法が複雑になってきている。

WWD:コロナ前後で富裕層や顧客の消費傾向に変化は見られるか?

プリ・デュケン:あまり変化はない、投資と考えてジュエリーを購入する人もいるが、売れ筋の平均価格帯には変化はない。一方コロナでブライダル需要が伸びている。20年5月にヴァンドーム本店営業を再開した際は、多くの若いカップルによる来店が見られた。また、誕生日や記念日などのギフト需要も増えている。

WWD:コロナで先行きが見えない中における課題と対策は?

プリ・デュケン:昨年の状況を克服してビジネスをどう継続していくかが課題だ。リモート販売をはじめ、ECではクリック&コレクト、またチャットボードを設けた。スタッフもそれらに慣れ始めている。これらはコロナが終焉しても使い続けるサービスだ。いろいろな販売方法をミックスして顧客が満足いくものを提供するべき。コロナによって選択の余地なくスピーディーな変化が求められた。コロナがなければ3~4年かかったことを優先して実現しなければならなかった。それは、ある意味、コロナのポジティブな面だった。コンフォート・ゾーンをでて変化するときだという教訓だと考える。

WWD:コロナでデジタル化が加速しているが、その対局にあるクラフツマンシップなどをどのように伝えるか?

プリ・デュケン:クラフツマンシップはデジタルと対局ではない。アトリエでの制作風景などを撮影したり工夫をしてクラフツマンシップを前面に押し出す。クラフツマンシップを伝えることはとても大切だ。ハイジュエリーは資産価値があり、代々受け継がれるもの。その品質の背景にあるのがクラフツマンシップで、それを見せるべきだと思う。職人の仕事ぶりだけでなく、われわれが挑戦している革新的な研究開発についても動画などを使って伝えていくつもりだ。

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