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ワークマンのプロレス的手法 エディターズレター(2021年2月18日配信分)

※この記事は2021年02月18日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

ワークマンのプロレス的手法

 プロレス的手法とでもいうのか、意図的に対立構造を作り出して、注目を集めるマーケティングのやり方があります。最も長けているのがワークマンです。

 2月16日に届いたプレスリリースのタイトルがこちら。

 「ワークマンが裏返すと作業服に変身する上下組で4800円(税込)のスーツを販売開始!」

 「作業服トップと紳士服大手チェーン間の『ワークスーツ』の価格競争になる!?」

 一部で昨年12月に報じられていましたが、ワークマンが機能素材を使ったスーツの分野に参入するという正式発表です。この分野は、水道工事会社のオアシスグループによる「ワークウェアスーツ(WWS)」が火付け役になったほか、スポーツブランドやセレクトショップも相次いで進出しています。紳士服専門店も巻き返しを図ろうと一斉に強化。特にAOKIの「アクティブワークスーツ」「パジャマスーツ」は今年に入ってから多くのメディアに取り上げられました。新常態の中、トラディショナルなスーツとは別の新ジャンルが構築されています。

 ワークマンのスーツは上下4800円(税込)で、AOKIのスーツと一緒。なので、業界の一部では両社の価格競争が話題になっていました。ワークマンはそこにちゃっかり乗っかり、「作業服トップと紳士服大手チェーン間の『ワークスーツ』の価格競争になる!?」と宣伝しているわけです。メディアが対立構造を紹介することはよくありますが、企業が自分であおることは普通ありません。今回のプレスリリースを受けて、両社を取材するメディアもきっと出てくるでしょう。

 19年春、フランスの大型スポーツ専門店「デカトロン」が日本1号店を兵庫県西宮市に出店する少し前に、ワークマンも近くに「ワークマンプラス」を2店舗開きました。そのときのプレスリリースにも挑発的な言葉が踊っていました。

 「(デカトロンとワークマンプラスがそれぞれ入る)両SCの距離はわずか3kmですが、先手必勝で大規模な販促を行います。2店舗だけではデカトロンの大型店にかなわないので、関西地区のワークマン120店舗でアウトドア売り場を強化して包囲網を作ります。1対120の数の優位で『西宮戦争』を制するつもりです」

 包囲網、西宮戦争、1対120の数の優位――。社内向けの企画書で書くことはあっても、マスコミで拡散されることを目的にしたプレスリリースとしては前代未聞の文章です。実際にこの後、地元テレビなどが対立構造の切り口で両店を紹介していました。

 同社のプレスリリースを書いているのは、ワークマンの仕掛け人として知られる土屋哲雄専務です。どうすれば話題になるか、とことん考えて言葉を選ぶ。メディアは概してキャッチーな言葉に弱い。昨年1年間で東京のキー局だけで、130以上の番組で紹介されている同社と土屋専務はそのことを熟知しています。既存店売上高を40カ月連続で伸ばし続けているのは、商品力や営業力だけが理由ではありません。メディアで常に新しい話題を発信してきたことも新規客の増加につながっているのです。

 とはいえ土屋専務の作戦に手玉に取られるのは、メディアの人間としてあまり面白くないので、今回のスーツ発売のプレスリリースは事実関係だけをコンパクトに載せました。でも、「作業服店と紳士服店のスーツ戦争」というテーマ設定はジャーナリスティックで魅力的です。いずれ大きく取り上げるかもしれません。

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