※この記事は2020年11月30日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editor's Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
タニマチよろしくのドネーション購買
料理の世界では相撲のタニマチ同様、「将来に期待して、先行投資したるわ!!」という「粋」があるそうですね。将来性を金額化し、惚れ込んだ若手には大ベテラン並の対価を支払うことで応援する食通がいらっしゃるそう。百貨店での外商やVIP対応の経験者から聞いているので、間違いありません。
洋服やビューティの世界でも、こういうのっていっぱいありますよね。上の話を聞いてすぐに思い出したのは、自分の経験。今は無きロンドンの中堅ブランド「シブリング」に惚れ込んでいた頃の話です。序盤以降パワーダウンが否めなかったロンドンメンズの中で、「シブリング」は唯一気を吐く存在でした。ショーと洋服は常に楽しく、ロンドンでランウエイを見た後、パリで洋服をオーダーという流れが定着するのに時間はかかりませんでした。パリでの展示会が新人中心の合同展から単独展に変わったときは、頼もしく感じたのを覚えています。
で「将来に期待して、先行投資したるわ!!」という気分でオーダーしたのは、下のリンク1本目にあるLook6のコートです。地厚のニットで作ったダッフルコートに、導線を保護するビニールチューブを切って&縫ってを繰り返し描いた6角形モチーフがビビッドです。同じニットで作ったフードの裾には、ラフィアの飾り!!なんてワタシっぽいんでしょう(笑)!!ランウエイで見た瞬間、恋に落ちました。が、パリで実物を見ると、イロイロ問題があることに気づきます。まず、メチャクチャ重い(苦笑)。次にビニールチューブを使った刺しゅうは、案外粗い。そして最後に、メチャクチャ高い!!その金額は、白状しましょう、50万円でございました(下代ですよ、下代w)。
さすがのファッションバカも、この時は大いに悩みました。「こんなに重いコート、何回着るんだ?」「ビニールチューブ、割と取れそうだけど……」「50万あれば、トップブランドのコートも買えるよね……」などなど。逡巡しましたが、「将来に期待して、先行投資したるわ!!」と考え、思い切ってオーダー。このコートをオーダーしたのはムラカミだけだったという衝撃の事実や、デザイナーからの「カナメの寸法に合わせて、刺しゅうをやり直しているから」というメールに対する冷や汗、銀行で送金の理由を問われてのしどろもどろは、良き思い出(笑)。案の定10回くらいしか着ていないし(笑)、ビニールチューブの刺しゅうは3、4本紛失したけれど、捨てることはないでしょう。クローゼットを開けるたびに、私を笑顔にしてくれる一着です。
思い出話が長くなりましたが、こういうドネーションのような購買って、もっと増えると思うんです。「若手を応援しよう」「あのブランドは地球に良いことをしているみたいだから、買ってサポートしたい」「このブランドの洋服を着ることで、私も社会に意思表示したい」ーー。そんな“半分寄付”みたいな感覚の購買は、大義で共感してもらうビジネスが広がる中で重要になるはずです。実際、売り上げの一部を寄付なんて商品もありますが、それとはちょっと違うドネーション的感覚の購買がメジャーになりそうな時代。あなたのブランドには、ファンが「寄付」したくなる理由がありますか??
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